水で書かれた物語
劇場公開日:1965年11月23日
解説
石坂洋次郎の同名小説を「ちんころ海女っこ」の石堂淑朗と高良留美子、「日本脱出」の吉田喜重が共同で脚色、吉田喜重が監督した文芸もの。撮影は鈴木達夫。
1965年製作/109分/日本
配給:日活
劇場公開日:1965年11月23日
ストーリー
松谷静雄は美しい母静香と二人暮しの平凡なサラリーマン。だがこの平凡な静雄の性格は、どこか孤独で内向的な様子であった。それはあまりにも美しい静香にまつわる忌しい秘密でもあった。静香と静雄の父高雄との結婚は不幸であった。病院暮しの多い高雄との生活を静香は一人で支えていた。だが静雄が静香と橋本伝蔵の関係を知ったのは、二人の噂が町に広まってからであった。静雄は高雄と比べて強健で自信に満ちた権力者伝蔵を憎んでも、不倫な母は憎めなかった。かえってそんな母に一種の魅力さえ感じていた。だが母と伝蔵から、伝蔵の娘ゆみ子との結婚をすすめられると、静雄はたじろいだ。ゆみ子とは幼な馴染みだが、朗らかで無邪気なゆみ子を見るにつけ、静香と伝蔵の関係が静雄の脳裏をかすめた。伝蔵と静香の晴れやかな顔をみて激怒した静雄は伝蔵に静香との関係を質した。「異母兄妹の結婚だ!」と叫ぶ静雄に伝蔵は否定しながらもたじろいだ。静雄の脳裏に焼きついた若い母の面影。美しく、晴れがましい姿。何度子供心に憧れ、また人の口にのぼる母の背徳に暗い思いをしたことか。数カ月後、静雄とゆみ子は結婚した。だが母の背徳を背負った結婚生活に静雄は迷い悩んだ。異母兄妹とは知らぬゆみ子は、そんな静雄を理解しかねた。会社もやめ、すべての生活を放棄した静雄は、母の家を訪ねた。美しい母の白い肌、静雄は、不思議な官能にとらわれた。もう何の希望もない親子、静雄は、静香に自殺を誘った。もう生きても一刻。その夜訪ねてきたゆみ子と、初めての狂おしい愛を交わした静雄は二人の間に、こだわりない愛が芽生えたことを感じた。だがその頃静香は、伝蔵とふたり静かにその黒い関係を断っていた。水辺に嗚咽する静雄を、ゆみ子がしっかり支えていた。