緋牡丹博徒

劇場公開日:

解説

「兄弟仁義 関東兄貴分」の鈴木則文がシナリオを執筆し、「前科者」の山下耕作が監督した“緋牡丹”シリーズ第一作目。撮影は「産業スパイ」の古谷伸。

1968年製作/98分/日本
配給:東映
劇場公開日:1968年9月14日

あらすじ

九州の博徒、矢野組の組長、矢野は一人娘の竜子をどこに出しても恥ずかしくない、まっとうな娘にと手塩にかけて育てた。その甲斐もあり、竜子は堅気の男との縁談がまとまっていた。しかし、矢野が闇討ちに会って死ぬと、結婚も破談になった。竜子は一家を解散し、父の亡骸のそばに落ちていた財布を手掛かりに、犯人を探す旅に出る。竜子が全国津々浦々の賭場を流れ歩くうち、いつしか五年の歳月が過ぎていた。明治十八年の晩春、すでに“緋牡丹のお竜”の異名をとっていた竜子は、岩国のある賭場で胴師のイカサマを見破る。いざこざに巻き込まれた竜子は旅の博徒、片桐に助けられた。片桐の人柄に惹かれた竜子は一部始終を打ち明けるが、何故か片桐は無言だった。やがて片桐は立ち去るが、その時には証拠の財布は消えていた。一方、竜子の唯一の子分で矢野殺しの犯人の顔を覚えているフグ新が道後でいざこざを起し、岩津一家と熊虎一家の喧嘩騒ぎにまで発展した。それを知った竜子は早速道後に向う。単身乗り込んだ竜子の気っぷの良さに、大阪堂万一家の女親分、おたかが仲裁に入り、喧嘩は治まる。竜子とフグ新はおたかの勧めで大阪に出て、不死身の富士松の元に身を寄せる。大阪は千成一家二代目の加倉井の勢力下にあった。富士松と約束を交わした芸妓の見受けを巡って、竜子と対した加倉井は、卑劣な手段で彼女を手寵めにしようとするが、そこに片桐が現れる。片桐は加倉井の兄貴分で、竜子の父を殺した犯人は、加倉井だった。だが、片桐は博徒の義理から、弟分の加倉井をかばい、真相を打ち明けなかった。そんな時、犯人の顔を知るフグ新が加倉井に会い、すべてを知る。しかし、そのフグ新は加倉井の部下に斬られ、瀕死の所を片桐に救われる。加倉井は兄弟分の杯を返すと片桐に告げ、片桐も同意する。フグ新は竜子に事の真相を打ち明けると、皆に看取られながら息を引き取る。竜子は不死身の富士松と共に千成組に殴り込む。富士松はダイナマイトを投げつけ、竜子は加倉井と対峙する。そこに片桐が現われ、加勢する。片桐は加倉井と刺し違えて倒れる。瀕死の片桐は竜子に抱かれながら「竜子を人殺しにはしたくなかった」と言い残し、息を引き取った。後日、矢野組再興二代目襲名の口上を述べる竜子の姿があった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.0様式美

2025年6月8日
PCから投稿

1958年(昭和33年)をピークに映画の観客動員数は右肩下がり、1970年にはピーク時の約1/5にまで落ち込み、日本映画界は斜陽産業化しました。

1968年(昭和43年)、日本は国民総生産(GNP)が西ドイツを抜き、アメリカに次いで世界2位になり、ベトナム戦争は激化し、東大では紛争が勃発し、テレビの普及が進みました。

当時のサラリーマンたちは胸の奥にくすぶる敗戦の痛みを抱えながら、利潤第一主義の会社にこき使われ、日々理不尽に耐えつつ仕事に精を出し、さらに家庭に縛られ自由はありませんでした。

そんな映画産業とサラリーマンたちの苦境を救うために現れたのが、緋牡丹お竜こと藤純子です。変な熊本弁を操る美しきヒロインの誕生です。お竜の口上に始まりお竜の口上に終わる本作のスタイリッシュな演出も見事。

時は明治中頃。日清日露と戦勝の余韻に浸る日本。まだ敗戦の痛みを知らない幸福な時代設定です。役柄は女博徒。賭場の真ん中で、むさ苦しく小汚いおっさんたちに囲まれたお竜の姿は神々しいばかり。彼女の生きる博徒の世界は、しきたりや作法に厳しい世界です。賭場のシーンには本物のヤクザがまじり、作法指導を行っていたそうです。仁義の切り方一つで人品骨柄、経験値まで判断されます。彼らの価値観は「子は親に絶対服従」「なにしろ義理人情」「仁義第一」。和装、蛇の目傘、火鉢など、画面の中の情緒あふれる生活風俗も含め、戦後民主主義社会が捨ててきたものばかりです。映画のラスト、お竜は多勢に無勢で殴り込みをかけ、利潤第一主義の悪徳一家を壊滅させます。緋牡丹博徒シリーズには戦後社会であえぐサラリーマンたちの夢が詰まっています。そして寅次郎にも言えることですが、お竜も家庭を持つことが許されず、シリーズの最終作まで流浪の生活を強いられます。民衆の夢を背負わされた者たちの宿命でした。

本作公開時の藤純子は弱冠23歳ですが、助演の高倉健や若山富三郎、待田京介、清川虹子らを従え堂々の女博徒ぶりを披露します。1963年、18歳で映画デビューを果たし、それから6年間で55本の映画に出演、56本目の出演作が本作です。

でも、確立された様式美の世界はやがてマンネリを生み、そこから様式美をぶち壊すパワーを持った「仁義なき戦い」が誕生します。

【年表】
終戦直後の昭和20年12月、大阪からの疎開先である和歌山で産まれる。本名、俊藤純子。父は後の東映任侠映画のプロデューサー、俊藤浩滋。

昭和37年(1962)、17歳、高校2年生。よみうりテレビ歌謡番組のカバーガールを務める。当時は大阪の芸能プロダクションに所属。

昭和38年(1963)、18歳。父の勤務先である東映京都撮影所に行った際に映画監督マキノ雅弘にスカウトされ、藤純子と芸名をもらい、「八州遊侠伝 男の盃」で映画デビュー。マキノ雅弘は藤純子を自宅に住まわせ、女優のイロハを一から叩き込んだ。

昭和39年(1964)。岡田茂が東映京都所長に就任、人気が低迷していた時代劇制作をやめ、俊藤浩滋とのプロデューサーコンビによる任侠路線映画(鶴田浩二「博徒シリーズ」、高倉健「日本侠客伝シリーズ」)制作を開始する。

昭和42年(1967)、22歳。出演55本目の『尼寺㊙物語』で映画初主演。

昭和43年(1968)、23歳。「緋牡丹博徒」の主役に抜擢。

昭和47年(1972)、27歳。『純子引退記念映画 関東緋桜一家』で監督マキノ雅弘、主演の藤純子が映画界を引退。

昭和48年(1973)。『仁義なき戦い』が大ヒット。任侠映画は終焉を迎える。

【語録】
岡田茂:「不良性感度の強いもの、濃いいもんを作って欲しいんや。テレビの中に絶対出てこんもんや。博打場、鉄火場、いつもドスを懐に忍ばせているような世界や」

俊藤浩滋:「やれいうんなら、ほんなもんすぐでけるで。責任は取らへんど」

マキノ雅弘:「俊藤の牛耳り方があまり感心できなかった。プロデューサーの範囲を越えて、企業家みたいな気になっちゃったんだな。金を出すのは会社なのに、人のフンドシで小遣いやって『兄弟の盃しよう』とか『お前、俺の若い者になれ』というやり方だからね。俊藤より前にいた奴がみんな子分みたいになっちゃって、他のプロデューサーもみんなあいつに頭が上がらなくなったんだ。しまいには『今度はマキノを使おうか』てなもんでしたな。プロデューサーが監督より偉いなんてことないのに、あいつはそう思い込んじゃった。やくざ映画ブームをつくったといっても、殺されたら仇討ちに行くという同じパターンのものばかりだ。『忠臣蔵』の小物みたいなものしか作ってなくて、題名が違っていただけだから。やくざの世界を勧善懲悪に置き換えたという点が新しかっただけでしょ。ワシらでさえ撮って行き詰ったんだから。マンネリになったらおしまいだということを知らなかったんじゃないかな。同じ方向を向いてた岡田茂とも、やくざ映画が下火のころには意見が合わなくなって、岡田が社長になるとき俊藤は対立する立場だった。岡田にしても東映でポルノを始めた元祖だからね。ハッキリいえば二人とも、映画人としてはゲテモノなんです」

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jin-inu

3.5やはり高倉健はカッコイイ

2025年4月16日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

興奮

驚く

ドキドキ

YouTube 東映シアターオンラインにて鑑賞

ネタバレになるから書かないけど、ラストシーンのセリフにはキュンとしました。
やはり、高倉健さんはカッコイイ。

映倫番号 15469

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七色姫

3.0愛らしくてずっと観ていたい藤純子さわ

2025年3月28日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

カワイイ

兎に角、22歳の藤純子さんが可愛いらしい。
愛らしくて、ずっと観ていたいですね。

高倉健さんは、かなり良い客演で、私の中の健さんの役のイメージは、この映画が一番近いかな。
清川虹子さんは、きっぷがいい女博徒親分で格好良かったです。

お話しの内容はありきたりで、それほど大した映画ではないと私は思うのだけれど、藤純子さんと高倉健さん以外の役者は、かなりコミカルな演技で、それも楽しめました。

昔の善き映画です。

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ねこたま

4.0高倉健をみにいきました

2025年1月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

最近は高倉健が来ていると聞いたので、リバイバル上映を見に行きました。

特別出演でしたが、重要な役柄で高倉健の魅力を堪能できました。

昭和のお正月映画みたいな感じでスターそろい踏み。

富司純子は美しく、高倉健は男前。

ストーリーは単純で明解。

難しいことは横においておいて、スターの魅力に酔いしれればいいのである。

なんでも、迷ったときは、自分の中の高倉健に尋ねるというのが、若い人の流行りだとか…?

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うさぎさん