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◯作品全体
主人公・西と、下半身不随になってしまった堀部。銃撃をきっかけに2人の人生は静かに終わりへ向かっていくのだが、終わりに至るまでのコントラストが印象的な作品だった。
堀部が撃たれるまでは、病弱な妻を持つ西が憐みの眼を向けられる対象だったが、堀部が下半身不随になり家族がいなくなったことで、その眼は堀部へ向けられる。それで西が幸福になったかというとそうではなく、妻の病気が完治しないことを告げられていて、こちらも悲しみの淵にいる。そんな二人が砂浜で海を見つめるシーンは淡々とした口調での会話だが、どちらにも救いがなく、それぞれの「終わり」へ向けた分かれ道のようなシーンだった。慰めあうでも感情的になるのでもなく、大人の男として現状を受け止めようとする粛々とした雰囲気が、心に刺さった。
銀行強盗で得た資金で妻との最後の旅行を楽しむ西と、花というモチーフを見つけて絵に没頭する堀部は、人生最後の狂い咲きの季節だったのかもしれない。アクションの多い西と、絵という静止画で表現する堀部。それぞれの今をそれぞれの手段で表現するコントラストが鮮やかだった。
罪を犯したことによる自身の破滅と妻の死が待つ西。小さな生きがいである「絵を描く」という趣味のモチーフが無くなっていく堀部。コントラストがある一方で、向かう先は同じところしかないのが切ない。
そして咲く花の美しさと表裏一体である、そのあとすぐの「終わり」の気配。その気配を常時意識させる北野作品の叙情が強く感じられる一作だった。
〇カメラワークとか
・一番最初のシーン、作品のファーストカットで空を映してその直後、にらんでるチンピラのアップショットにしてるのが面白い。インパクトあったし、そこに至る理由を後でカメラを引いて映しているのがテンポよくてかっこいい。
・被写体とかなり距離をとったバックショット、他作品以上に北野作品でよく見る。今作で言えば車いすに乗った堀部が海を見つめるカットとか、ラストの西と妻のカット。寂しさが強く伝わる。
・雪山の車内でヤクザを殺したあとのカット、真俯瞰からそのままカメラを旋回させるようにして車を降りてくる西を映し、目を怪我したヤクザと対峙する。面白いカメラワークだった。
・文字で雪や自決を表現する絵の映し方が巧かった。本来ああいう絵を自分の目で見るとき全体像を見てから細かな部分に目を向けると思うんだけど、ここではカメラによって強制的に細かな部分を見せられ、最後に全体像を見る。映像だからこそだし、この絵だからこそのギミックになっていた。
〇その他
・堀部が描いた絵以外にも、病院の廊下とかヤクザの事務所とか、いろんなところに北野武作っぽい絵が出てくる。物語と絵を重ねるにはちょっとやりすぎ感もあった。花の顔をした動物たちの絵は衝撃的だったけど、モチーフを見つけた堀部の喜びを咲く花に重ねてる感じだった。そしてそれが必ず枯れるというところも含めて。
・個人的な好みとして、堀部が撃たれる前にもう少し西・堀部コンビの暴れっぷりが見たかった。イケイケの二人を見たあとに銃撃後の二人を見せられたら、その落差っぷりがかなり心に刺さる気がする。
・ほっかほっか亭が出てきた。懐かしい。