どぶろくの辰(1949)
劇場公開日:1949年6月27日
解説
「音楽二十の扉」の根岸省三が企画に当り、演劇畑の中江良夫が原作、脚色に当り、病気のため休養にあった田坂具隆が病気回復戦後第一回作品で、「音楽二十の扉」の水野洽が補助演出をする。キャメラは田坂具隆監督とコンビの伊佐山三郎が久方ぶりで撮影に当る。出演者は新国劇の辰巳柳太郎や、「毒薔薇」「母三人(1949)」の入江たか子、「母三人(1949)」「白鳥は悲しからずや」の水戸光子を始め、「わが恋は燃えぬ」の菅井一郎、「殿様ホテル」の河津清三郎、「嵐の中の姉妹」の羽鳥敏子、伊沢一郎、船越英二らが助演する。
1949年製作/87分/日本
配給:大映
劇場公開日:1949年6月27日
ストーリー
北海道東海岸近く、大鹿炭坑とオハルナイの町をつなぐトラックの道路開発工事を請負った黒崎組の工事場の一部である岩石山の現場では、大勢の土方達は半裸になってツルハシスコップで仕事をしている、彼等は女とみれば大騒ぎをする、今しも酌婦の梅子が彼等の現場に借金を取りにきていた。どぶろくの辰は彼女を巧みに追払うが、何にかしら梅子は彼に愛着を覚える。彼等は、仕事が終ると飯場に帰って行く、ところが飯場には今まで見かけた事のない女が仕事をしていた。浦河や沼尻や、舎熊、追分らが帳場に女の素性を聞くと「今日から飯場の飯炊きに来た女だ」とぶっきらぼうに答えた。その女は、おしのと言った。亭主が戦地から帰ってこないので、小学校の助教兼事務員をやっていたが休中を利用してここに働きに来たのだという。舎熊はどぶろくの辰に「おい、どぶろく三升だ」「かけるのか、条件は?」「あの女をものにするのよ」と言って彼等は誓言した。それからというものは辰はおしのに近づいていった。彼は女を女と思わず、しゃにむに次から次へと自分のものにして行ったが何故かおしのの場合は彼らしくもなく容易なことではなかった。彼の背後には舎熊の眼が常に光っていた。どぶろくの辰はお盆までは必ずおしのをものにすると言っていた。おしのは、はじめ恐ろしく感じていたが、土方の荒っぽいそして流浪の生活を続ける彼等の気性を知ってだんだん気が落ちついていった。彼女には一人の弟正一がいたが、おしのは面倒を見ていた。遂にお盆の日が来た辰は彼女の家にのりこんだ。しかしそこで辰はおしのを征服出来なかったのである。彼女は何にか勝手が違う。侵してならないものを辰は感じた。しかし彼女のはからいで二人の間に誓約が成った。飯場に帰っても彼等は夫婦をよそっていた。舎熊は残念がった。一方復員して女房を信頼出来なかった舞坂というインテリが土方の仲間に入ってきた。彼はフトしたことからケガをして妻しげが手当にやってきた。おしのは二人のきまずい間を知ってそれとなくなぐさめはげました。梅子は辰をますます好きになってゆくおしのがいるためどうにも出来なかった。辰は辰でいつしかおしのに心ひかれていたが辰に悲しみの日がきた。それは彼女の夫下北省太郎が帰ってきたのである。ちょうど工事が彼等のがんばりで出来あがった日であった。土方たちは北見に移るというおしのは別れにきたが辰の姿を見るにしのびなかった。しかし梅子は辰と一しょに何処までも行くという。船の彼方は空が青く、白い雲がぽっかりうかんでいた。