どぶ

劇場公開日:

解説

「女の一生(1953)」に次ぐ新藤兼人監督の近代映画協会作品。製作は吉村公三郎で、脚本は「足摺岬」の新藤兼人と「学生五人男」の棚田吾郎の共同によるオリジナル・シナリオ。撮影は「女の一生(1953)」の伊藤武夫、音楽は「足摺岬」の伊福部昭が担当している。出演者は「大阪の宿」の乙羽信子、「美しい人」の宇野重吉、「足摺岬」の殿山泰司など。

1954年製作/111分/日本
配給:新東宝
劇場公開日:1954年7月27日

ストーリー

京浜工場地帯の一隅、河童沼のほとりのルンペン集落に、ある朝、うす汚ない若い女の行き倒れがあった。集落の住人徳さんがパンを与えたのを機会に、この女ツルは、河童沼集落に住むことになった。ツルは戦後満洲から引揚げてから、紡織工場の女工となったのだが、糸へん暴落のため失業し、それ以来というもの転々として倫落の道をたどってきたのだった。ツルが同居した徳さんとピンちゃんは、競輪、パチンコにふける怠け者達だったが、阿呆のツルはそれとは知らず毎日、二人のために弁当を持たせて勤めに送り出す。だが二人はツルを利用して一儲けたくらみ、近所の特飲街にツルを売りとばした。ツルは、そこの主人大場と衝突して飛び出し、河童沼へ帰ってきたが、大場が徳さん達に前借金の返済を迫ったので、遂にツルはパンパンになって夜の街に立つようになり、その稼ぎをピンちゃん達に貢ぐのである。ある夜、ツルは沼の主人三井のアプレ息子輝明が二十万円入っていると云う手提金庫を奮って逃げてくるのに会い、沼の住人達に注進した。彼らは金庫を求めて走り出したが、取ってみると中には裸体写真しか入っていないで、一同は風邪をひいてツルを恨んだ。ツルは寝こんだピンちゃんを真心を以て看護したが、ある時突然抱きついたピンちゃんにツルは抵抗した。ある日、ツルは土地のパンパンに因縁をつけられリンチされたため、逆上してピストルを振り廻して暴れたので、巡査に打たれて死んでしまった。沼の住人はツルを担いで帰った。ツルが病気に鞭打って貯金した通帳、そしてピンちゃんの学校へ行くという偽芝居をすらも信じて学用品を贈ったツルを知り、一同は涙にくれた。

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映画レビュー

4.0今では描けない世界

2021年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

最近は1940年代50年代の映画を重点に見ています。溝口、成瀬、小津、新藤ら。そのあとで、改めて黒澤、野村芳太郎、今村昌平を見る予定です。映画論、監督論も読んでいます。
さて本作品ですが、新藤の作品としては普通ではないでしょうか。映画史上の意義としては「裸の島」に値打ちがあると感じました。狭い耕地を家族で耕しギリギリ生きていくところに農民の原像があるように思いました。もっと広げて生活者の原像と言っていいかもしれませんね。
「原爆の子」もいいですが、題材としては難しいですね。原爆そのものをどう見せるかという問題があって、過度にグロテスクな場面を入れることは控え、身近な人々の運命に視点を移します。
さて「どぶ」にもどりましょう。何と言っても乙羽信子の演技に圧倒されます。芝居に賭ける思いを感じます。宝塚から大映にスカウトされたが新藤と仕事がしたくて永田雅一に直談判したのですが、その熱意に感服します。「縮図」に続きこの「どぶ」の好演も特筆されるべきでしょう。脇役の人たちの顔ぶれを見ると、贅沢な映画だと感じます。大滝秀治などほんのちょい役です。どぶ川の情景、貧しき人々、今なら差別用語になる言葉・・・、印象に残るシーンが多くあります。これをあえて現代に置き換えるとすればどんな映画ができるでしょうか。厳しいですね。ロケ地がない、俳優がない、予算がない、そして最大の問題は見るお客がいないことです。今の監督さんは大変ですね。映画産業の衰退で、時間をかけて実力ある先輩から技術を継承することができませんから不利です。しかし現在の根本問題を映画で表現できるのはやはり若い世代ですから、制約を打ち破って見る側の背筋をしゃきっと伸ばしてくれる作品を作ってください。女性の監督に期待ですね。

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ハルヒマン

5.0戦後の川崎駅前、鶴見川沿い周辺に生きる人々を描く衝撃作

2011年8月23日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

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漫画史研究家の本間正幸