妻(1953)

劇場公開日:

解説

林芙美子の『茶色の目』を原作とし、主なスタッフは「夫婦」の監督成瀬巳喜男、脚本井手俊郎、音楽斎藤一郎のトリオ。撮影は「七色の街」の玉井正夫である。「煙突の見える場所」の上原謙、「人生劇場 第一部」の高峰三枝子、「生きる」の丹阿弥谷津子をめぐって伊豆肇、高杉早苗、三國連太郎、中北千枝子などが出演する。

1953年製作/96分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1953年4月29日

ストーリー

会社では一応課長で通る中川も、内実、肩書きとはうらはらの安月給に悩んでいる。二階は間借り人に占領され、細君美種子は毛糸編みの内職にはげむ--そんな貧寒な生活が結婚十年目の彼ら夫婦の間を、いつか感激のないものに色替えしてしまった。バア勤めの妻栄子にやしなわれている夫浩久の不甲斐なさが因で、日夜もめ通す二階の松山夫婦を、二人はもうよそごとに眺められなかった。中川は冷たい散文的な妻とひきかえ、乏しいなかから生活を楽しむことを知っている社のタイピスト、未亡人の相良房子に惹かれる。音楽、絵画。……彼らは静かな喫茶店や美術館であいびきともつかぬ交渉を重ねた。あやうく自制した房子は愛児とともに大阪へ引きうつる。が、社用で中川が来阪すると知れば、会わずにいられず、結局その夜、二人の関係は最後のところへまで進んだ。帰京後、洋服のポケットから出たマッチやら名刺やらでそれと感づいた美種子の詰問に、正直な中川は心苦しくもすべてを打ちあける。美種子の日頃のつめたさは狂熱的な意地わると変じた。彼女は中川の勤務先や交友関係を嗅ぎまわり、房子へ詰問状をおくる。さらに自活の見とおしを樹てるため上京した房子と、中川がひそかに逢っていることを知ると、房子の宿所をたずねてこれをなじる。その打撃から房子は中川に手紙で袂れをつげ、永久にすがたをけした。--残された中川夫婦はもう夫婦とは名ばかりの言葉もかわさぬ仲であった。

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映画レビュー

4.5モノローグで始まり、モノローグで終わる夫婦

2022年12月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1953年。成瀬巳喜男監督。しがないサラリーマンの夫と専業主婦の妻は結婚十年。持ち家だが使わない部屋は下宿に貸している。お互いへの愛情を失いかけている二人だが、夫が会社のタイピストの女性と気持ちを通わせ始め、やがて真剣な恋へと至っていくと、妻は動揺しはじめて、、、という話。 なし崩し的に浮気するものの離婚にまでは踏み込めない夫と、気持ちが離れた夫と一緒にいることはできないと思いつつも別れる決断はできない妻。その周囲には一人で生きていく女性や夫に愛人を作られて自殺までする妻が配置されているのだが、中心の二人はずるずると現状を維持し続けていく。人物たちの気持ちの揺れ動きを細やかに追っていくと決定的な瞬間などはありえないというかのように事態はゆるゆると進行し、気づいたときにはもう決定的な瞬間は通り過ぎている。しかし、それにまったく気づかないかというと、目の前を電車が通り過ぎたり、真横を電車が通り過ぎたことを示す光の明滅があったりして、たしかに何かが起こっていることは感知できるようになっている。 大阪で夫が浮気相手と本当に関係を持ってしまった後でその連れ子と遊ぶ様子に表れるやるせなさ、妻が意を決して夫の浮気相手を訪ねて会話する時に自分で自分を煽っていく高揚感。すばらしい。

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