瀬戸内少年野球団

劇場公開日:

解説

敗戦直後の淡路島を舞台に、野球を通して子供たちに民主主義を学ばせようとする女教師と、スポーツに目覚めていく子供たちとの絆を描く。原作は阿久悠の同名小説で昭和五四年度下半期の直木賞候補作品。脚本は「夜叉ヶ池」の田村孟、監督は「悪霊島」の篠田正浩、撮影も同作の宮川一夫が各々担当。

1984年製作/143分/日本
原題または英題:MacArthur's Children
配給:ヘラルド映画
劇場公開日:1984年6月23日

ストーリー

昭和20年9月の淡路島。江坂町国民学校の初等科5年男組の級長、足柄竜太、バラケツ(ヤクザ)志望の正木三郎らは担任の中井駒子先生の指示に従って、国語の教科書の不適表現箇所を墨で塗りつぶしていた。海軍大将になることが夢だった三郎、父母を亡くした竜太、仲間のデブ国、ニンジン、ボラ、ガンチャ、ダン吉、アノネも、何によってよいか皆目見当がつかなかった。生徒の人気の的、駒子先生も、新婚早々に出征した夫正夫が戦死し、婚家の網元にとどまるかどうか迷っていた。義理の両親は、次男の鉄夫との再婚をすすめるのだが、気がすすまなかった。新学期が始まって、転校生がやってきた。海軍提督だった父に同行して島にやってきた波多野武女だ。彼女のきりりとした美しさに胸ときめいた少年たちは、武女と提督を進駐軍の手から守ってやることを誓い合った。そんなある日、竜太の祖父で巡査の足柄忠勇のもとに進駐軍が島へやってくるという報せが入った。数日後、星条旗をなびかせて巡視船がやってきた。アンダーソン中尉に率いられたGIたちは城山にある砲台を次々と爆破していった。その晩、中井家では将校を招いて大宴会が催された。手伝いを途中で抜け出して自分の部屋に戻った駒子を、鉄夫が力づくでねじ伏せ、体を奪った。翌日、バラケツと竜太は学校の帰りがけに天神さまに寄ると、一本足で松葉杖をついた白衣の軍人に声をかけられた。駒子先生の夫正夫だった。しかし、駒子先生は前夜の鉄夫とのことがあるため、正夫に会うことはできなかった。正夫は、竜太とバラケツに暮らすところが決ったら連絡すると約束し、島を去った。島の正月は、村芝居で賑わった。床屋のトメとその愛人で流しの旅芸人池田新太郎が企てた演し物は、駒子と鉄夫と正夫の三角関係を脚色した世話物で、町の好きものたちに大受けした。戦後はじめての春がめぐってきた。桜が満開になる頃、竜太、バラケツ、武女は6年生に進級、担任は駒子先生だった。間もなく、武女の父は巣鴨プリズンに出頭し、武女は島に残ることになった。それとは反対に、バラケツの兄、二郎と愛人のヨーコが島に戻ってきた。成金、軽薄を絵に描いたような二人が教室にやってきて、キャンデーをばらまいた。争ってそれを拾う生徒たち。そんな子供たちの姿を見て、駒子先生は子供たちに野球を教えようと思った。竜太たちは見よう見まねでグローブやボールやバットを作った。毎日、みんなは暗くなるまでボールを追ったが、バラケツだけは兄のいかがわしい仕事を手伝っていたために仲間に入らなかった。しかし、その兄と愛人は仕事に失敗して自殺してしまう。夏休み、駒子先生は竜太と武女に連れられて、金比羅さんにいる正夫を訪れた。鉄夫との過ちはあったものの、正夫に許しを乞い、もう一度一緒に生活を始めようと決意したのだ。二人の新しい生活が始まり、戦前の中等野球で活躍した正夫をコーチに招いて駒子先生率いる“江坂タイガース”は一段と練習に熱が入った。バラケツもチームに戻ってきた。しかし、隣町のチームとの初陣は、惨憺たる結果で終った。学校生活も残り少なくなったある日、武女に、父がシンガポールで絞首刑に処せられたという報せが入った。そして武女は兄が待つ東京に帰らなければならなくなった。そんなところにかつて、島にやって来たことがあるアンダーソン大尉が、思い出に江坂タイガースと試合をやりたいと申し込んできた。竜太と三郎は、武女の父親を絞首刑にしたような国のチームとはやりたくないと突っぱねたが、武女はやると言ってきかなかった。試合は、武女の決勝打で江坂タイガースが勝った。昭和22年3月、武女は兄と一緒に島を去った。バラケツ一人が武女を見送った。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

受賞歴

第8回 日本アカデミー賞(1985年)

受賞

音楽賞 池辺晋一郎

ノミネート

作品賞  
監督賞 篠田正浩
脚本賞 田村孟
主演女優賞 夏目雅子
新人俳優賞 佐倉しおり
詳細情報を表示

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

フォトギャラリー

映画レビュー

3.5国民学校

2023年3月11日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 敗戦前の教科書に墨塗りするシーン。その消す前の教科書を見てみたい。復員兵が上陸するなか、提督と呼ばれる男(伊丹)とその娘・武女も島にやってくる。子どもたちは純真そのものだったが、駒子は未亡人となったため、義弟の鉄夫(渡辺謙)のしつこい求愛や義父母の威圧的な態度にも困り果てていた。進駐軍が上陸し、宴会が催された晩、鉄夫に犯されてしまう・・・そんな折、戦争で片足失い、戦死したはずのを夫の正夫(郷)が島へこっそり帰ってきていた・・・ 「これを見たらわかる」と野球の硬式ボールを少年に手渡すが、駒子は「会うことはできない」と手紙を託す。  中盤の見せ場は正夫が島へ戻ってくるところだろうか。町には居場所がないと判断し、一時は自殺することも考えたという正夫。金毘羅さんの社務所で働くことを決意するが、1年後に訪れた子供たちと駒子。すべてを受け入れるという駒子の心情の変化は時間がかかったことがうかがえるのだ。しかし、子どもたちが野球を始める頃から物語は面白くなくなってくる。武女の父親が戦犯として裁かれるため逮捕されるとか、武女の心をもっと表現してもよかったのではないか。全体的に戦後の庶民生活を描いてはいるものの、細かなエピソードが多すぎてまとまりがなくなっている。さらに、一応主人公の少年竜太の淡い初恋さえ感情移入できそうでできない。タイトルにある野球も辛く苦しいはずの戦後を明るくするだけのものだったし、アメリカのチームと試合するのにしても、相手が小学生なんだから手加減するに決まってるのをわけのわからない復讐心で描こうとしていた・・・・?  夏目雅子の魅力満開であるけど、いったい誰を中心に見ればいいのかわからない作品。のちに公開される『少年時代』も似たようなノスタルジックな映画だったけど、さすがに『少年時代』のほうが上記の反省点を乗り越えているように思われる。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
kossy

5.0戦後の私達の全員がMacArthur's Childrenだったのです

2022年1月19日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

英語題名のMacArthur's Childrenの方が内容を的確に表現されています しかし、それではどんな内容なのか?とイメージしづらいので、この瀬戸内少年野球団という題名なのだと思います 原作者は阿久悠 昭和の超有名作詞家で、70年代は大ヒット曲や名だたる歌謡賞の大賞に輝くのは殆ど彼の作品ばかりだったほど また逢う日まで、ジョニィへの伝言、北の宿から、勝手にしやがれ、UFO、雨の慕情 思いつくまま書いても、21世紀生まれの方でも知って入る超有名曲がいくつもあります この人の自叙伝的な小説を映画化したのが本作です 監督は篠田正浩、撮影は宮川一夫、脚本は大島渚監督とのコンビが多かった田村孟 つまりもの凄く強力な布陣で製作されたことが分かります 少年野球がテーマの映画ではありません 敗戦国日本の再出発点を見つめ、現代に続く原点とは何であったかを再確認することがテーマであったと思います 戦後の混乱の有り様は、東京や広島などの闇市の異常な光景を紹介する映画は沢山あっても、普通の地方の普通の街がどのように敗戦を受け入れて変わっていったのか それをこれほどに丁寧に克明に描いた映画は他にありません 冒頭は昭和天皇の終戦詔勅のラジオ放送を小学生達が校庭に整列して聴いているところから始まります 物語はそこから2年後くらいの小学生達と戦争未亡人となった若い女性教師の日々のお話です これといった事件もありません 舞台は淡路島の西海岸の真ん中の辺りの漁港の街のようです そこに終戦までは提督だった元海軍少将が、小学生の娘を連れて戦犯として手配されるまで穏やかに骨を休めようと島の漁師に戻った部下を頼ってやって来ます 大勢の男達も戦地から続々と復員してきます 戦死したはずの人物も人知れず戻って来ます そうこうするうちに進駐軍の十名程度の兵隊達も島の砲台を爆破処理するためににやって来ます 出来事はそんなぐらいです それらの出来事が絡みあって、クライマックスの進駐軍GIチーム対少年野球団の試合になるのです 戦勝国と敗戦国の試合で子供たちも戦犯として処刑された少女の父の仇を討つのだと試合に臨むのです 占領されたからといって心まで占領されたのではない 卑屈になったり、逆に媚びたりしてはならない と夏目雅子の演じる中井先生はある日、子供たちに教えます それはもちろんその日の前夜、無理矢理肉体を征服されたことに対する腹立ちから来た言葉です そしてボールを投げて野球をやろうと少年達にいいます 彼女の戦死した筈の夫は甲子園出場の高校球児でした つまり野球をやることで夫をあきらめない、肉体が征服されたところで心は絶対に征服されないことを野球をすることで示そうとしたのです その過程で、民主教育と男女共学のはじまり、男女同権など今に続く戦後日本の成り立ちが説明されるのです 淡路島の西海岸は瀬戸内に面しています 水平線の向こうには「二十四の瞳」の小豆島が浮かんでいます 島の小さな小学校の子供たちと若い女性教師の物語なのですから「二十四の瞳」と同じです だから瀬戸内少年野球団なのです 戦時中や戦後の混乱期に羽振りよくしていた登場人物達は去り、温暖な気候を活用して花栽培を振興していく幸せな島の将来が明るい陽光の下の花畑で示されます それは平和日本の未来の在るべき方向性を指し示しているのです 戦後の私達の全員がMacArthur's Childrenだったのです それが本作のテーマであるのです 決して夏目雅子の美貌を愛でるだけの映画ではないのです しかし余りににも彼女は美しく、彼女のイメージにぴったりな役柄であったことが、まるで太陽を直視したかのように他のことは全く目に入らなくなってしまうのです 夏目雅子が美しい! それ以外のことは何もかも吹き飛んでしまうのです しかし、ただそれだけが残る映画になってしまったのなら大変残念なことです 夏目雅子は本作の公開の2ヵ月後の1984年8月、20歳の頃からの7年間交際していた作家伊集院静と結婚をします 彼とははじめの3年間は不倫関係であったそうです その新婚生活の僅か6ヵ月後の1985年2月 彼女は突然、急性骨髄性白血病を発症します そして同年9月にはもう亡くなくなってしまうのです 27歳、正に美人薄命です そのことが本作をさらに伝説の作品に押し上げているのかも知れません 淡路島は最近なにやら大手人材派遣会社が本拠地をこの島に移すとのことで何かとニュースに登場します コロナ禍前までは、我が家は夏が来ると小さな子供たちと淡路島に毎年訪れたものです 南斜面には花が色とりどりに咲き乱れています 特に斜面一面に自生する夏水仙の美しさは目に焼き付いています まるで夏目雅子の清楚な美しさそのままでした 夏水仙の花言葉は「悲しい思い出」だそうです 夏目雅子だけでなく、映画初出演の佐倉しおり、渡辺謙も強い印象をのこしました また岩下志麻も、郷ひろみもまた素晴らしい存在感を示しています 見事な傑作です

コメントする (0件)
共感した! 2件)
あき240

3.0大して面白くない映画だけど、夏目雅子の出演作ということで映画史に残...

2019年6月19日
Androidアプリから投稿

大して面白くない映画だけど、夏目雅子の出演作ということで映画史に残るだろう。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
もーさん

3.0戦後の混乱期はさもありなんって感じでよくわかります。だが長すぎ。そ...

2016年5月8日
iPhoneアプリから投稿

戦後の混乱期はさもありなんって感じでよくわかります。だが長すぎ。そのわりには話しの必然性にはなはだ疑問が残る。野球の唐突な始まり等々。 夏目雅子のための映画といってよいかな。私は岩下志麻派ですが(笑)こんな人も出てるんだというキャスティングは楽しめます。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
はむひろみ

「瀬戸内三部作」シリーズ関連作品