砂の器のレビュー・感想・評価
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推理物というより人間ドラマ
この時代だから
脱いだのは佐分利ではなかった
芥川也寸志の音楽がドラマを盛り上げる。
しかし、殺人事件の容疑者の動機について、ここまでその心理に迫る警察の捜査など現実離れしているとも思うが、やはりここは、犯人探しではなくその動機がどこにあるのかというサスペンスが肝なのだ。だからこそ丹波哲郎の捜査会議での報告と、加藤剛のコンサートシーンが長々と並行するのだ。
主人公にとっては、懶病の父親を持つ事実は消してしまわなければならないことだった。それは単なる過去の隠ぺいではない。このことは、捜査が結末を迎えた時点でなお療養所で生きていた父親が、加藤剛との親子関係を悲愴な表情で否定したことや、家庭の温かみにあふれた緒方拳の養育から逃げ出したことでも強く訴えかけている。
自らの運命と対決をしなければならない主人公にとって、彼の作品のタイトルでもある「宿命」という言葉に行きつくのだろう。この病気に限らず、差別や偏見によって苦しみに満ちた人生を歩む人にとっては、どこかでそれと対決しなければならないときが来るのだろう。
このことを表現するために、映画は長い時間を費やしている。
しかし、このクライマックスに至るまでの、丹波や森田健作が捜査で歩くシーンを深度の深いショットで撮っているところなど、足を使った捜査の表現が巧い。
また、笠智衆、渥美清という松竹の看板役者が端役で出ているところ、そしていつもなら洋服を脱ぎ捨てる佐分利信が、今回は脱ぐシーンがなかったところなど興味深かった。脱いだのは佐分利ではなく島田陽子だった。
合わなかった
映画とはこういうもん!
警察官の捜査としては現在(2015年)から観れば
少々ゆるい所もあるのですが、そういう自由のあった時代の作品。
全く関係無く見えている複数のものが
やがて1つに集約されて行くのは
サスペンスやミステリーの醍醐味なのですが
それが、海外では無く日本の元風景の中で展開してゆく
この映画の映像の美しさは記録映画としても価値あるものでしょう。
昭和の名優達のほんのワンカットの出演シーンも
あら!こんな所にこんな人が!と言う見つける楽しさあり
長い物語の中に引き込む力がやっぱ半端無いと言うか
まさに映画とはこういうもん!と言って遜色無い作品です。
この作品の悲劇の元は形を変えて今でも残っているし
無知と貧困の残酷さは今の方が大きいかもしれません。
時代を超えて、人々に突きつけられる課題ですね。
豪華キャストの演技も見所。
こんな展開のサスペンスを観るの初めてでした。中盤まである程度の容疑者やその関係は分かってて容疑者のオーケストラとの演奏で
犯人の生い立ち、宿命とはを刑事が生い立って話す展開は今まであまり無かったので逆に新鮮でした。キャストも豪華でしたし演技に力がありました。当時の日本の風景や生活感も映像になって観れて懐かしを感じさせられます。当時はまだまだ貧困な時代でしたが現代より自由だったように感じました。内容もサスペンスって言うより宿命とは何ぞや?幸せは何ぞや?親子愛のちょっと哲学的な内容な感じをしました。容疑者が演奏しながら自分の生い立ちが流れるシーンは何か悲しいんだけど力強さを感じてちょっと泣けてきました。
『砂の器』
美しい映像だけに、細部までこだわって欲しかった…
脚色の見本、演出の手本
脚本が素晴らしい。
長大な原作を大胆に省略し、殺人事件を一件だけに削り、犯人の数奇な運命と宿命に焦点を絞りこんだ見事な脚色。
ほぼ全編を通して、刑事の地道な執念に満ちた捜査が描かれる。
その進捗が字幕で説明されるという、映画ではあるまじき手法が用いられているが、登場人物たちにそれを説明させないことで、ドラマにリアリティーを持たせている。
捜査員たちの活動を遠景で撮影したシーンが何度か出てくるが、捜査は足で行うということがよく表現できている。最近の刑事物が最も描けていない部分だ。
ロケーションにも驚嘆する。
時代背景を考慮してもこんな居住区が存在するのかと思うような村落を、これまた遠景で捉える圧倒的迫力。
そしてクライマックス。
捜査会議での逮捕状請求で唐突に犯人が特定される。
観客は、恐らく加藤剛が犯人なんだろうと気づいてはいるが、丹波哲郎がいかにして犯人特定に至ったかを知らない。
これを丹波哲郎の語りによって説明させるという、字幕に続いて駄作に陥る危険性の高い手法だ。
だが、この丹波哲郎の語りとともに、言葉より饒舌に映像と音楽が事件の背景を明らかにしていく。
この、日本映画史上屈指の名場面に、涙しない者がいるだろうか。
犯人和賀英良を原作の前衛作曲家ではなく、ピアニスト兼協奏曲の作曲家・指揮者にアレンジしたことで、この名場面は生まれる。
これも脚色の力だが、一方野村芳太郎の演出は、前半で捜査の進捗を文字で説明しておきながら核心部分では言葉を排した映像で言葉以上の説得力を発揮する。見事としか言いようがない。
また、芥川也寸志と菅野光亮による音楽が、シーンをより悲壮かつ劇的なものにしている。
キャストも絶妙だ。
繊細かつ鋭利な加藤剛、情熱溢れる森田健作の二人は、今見ても二枚目だ。
丹波哲郎の一見棒読みのような台詞回しは、抑揚がきいて深味がある。
清楚で愛らしさの残る島田陽子の美しさ。控えめなバストは後に全米のテレビ視聴者を釘付けにすることとなる。
宿命
脚本の妙か
何と言ってもサスペンスものにも関わらず犯行の瞬間を描かず、犯人は徹底して犯行後の様子しか見せないなど我々のイマジネーションを刺激する脚本山田洋次の手腕が見事!効果的に原作の長編小説の内容を取捨選択・再編することで無理なく2時間20分にまとめるとともに、主人公の刑事とともに犯人像に迫り、その真実を知って深く心動かされるのだと思います。
特にすべてを知ってから考えると、彼が婚約者に「幸せ」について語るシーンはすごく良いなあと。ベストシーンです。
同じような絵の繰り返しなので途中の退屈さは否めないですが、それでも最後まで見て良かったなと思います。原作を読んでみたくなるという意味でも良い映像化作品だと思います。
親と子の「宿命」だけは、永遠のものである
映画「砂の器」(野村芳太郎監督)から。
誰がなんと言っても、この映画のテーマは「宿命」だから、
作品ラストに流れるテロップを、あえて「気になる一言」に選んでみた。
本来は、もう少し長く、
「旅の形はどのように変わっても、親と子の『宿命』だけは、永遠のものである」
このワンフレーズで、映画全体を表現している気がする。
本来なら、作品途中に交わされる、
「幸せなんてものが、この世の中にあるのかい?もともとそんなものはないのさ。
ないからみんながそんな影みたいなものを追ってるんでね」
「それが宿命?」「もっともっと大きな強いものだ。
つまり生まれてきたこと、生きているってことかもしれない」
この会話を取り上げようと思ったのだが、どうもピンとこなかったし、
鑑賞後に観た「予告編」のテロップ「宿命とは、悲しさなのか、強さなのか」
これもこの作品を思い出す一言までには至らなかった。
天才音楽家・和賀英良が作り出す「宿命」という名の楽曲は、
ベートーベンの「運命」とは違う雰囲気を漂わせていたのではないだろうか。
(加藤剛さん演じる、若き天才音楽家、和賀英良の4拍子の指揮には、
思わず、笑ってしまいましたが・・・)
ところで、我が家では、この作品の主人公は誰か?で意見が分かれた。
私は「今西刑事役の、丹波哲郎さん」
妻と娘は「天才音楽家、和賀英良役の加藤剛さん」
さて、どちらが正しいのかなぁ、ちょっと気になる。(汗)
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