新宿馬鹿物語
劇場公開日:1977年9月17日
解説
半村良の同題名小説の映画化。新宿のバーのマスター仙田を主人公に不思議な女性の生態を捉えつつ、愛するが故に憎み合う、男と女のからみ合いを、明るく描く。脚本は「壇の浦夜枕合戦記」の神代辰巳、監督は「美女放浪記」の渡辺祐介、撮影は「坊っちゃん(1977)」の竹村博がそれぞれ担当。
1977年製作/91分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1977年9月17日
ストーリー
新宿のバー「ルヰ」のマスター・仙田の周囲には、妙な女ばかりしか寄りつかず、本人は嘆いている。そのためか、四十に近い現在まで、ベテラン名物男と言われながら、独身なのである。激しく雨の降る朝、仙田の仲間が経営するバーに勤め、清楚で色っぽく、それでいて不思議な影のある邦子が部屋に飛びこんでくる。二人はコーヒーを一緒に飲み、とりとめもない世間話をした。その夜、仙田は邦子の顔みたさに、酔った客をおだて上げ、彼女の勤める店を訪ねる。邦子は閉店後の仙田の店にやって来た。じっと目を見合わすだけで、二人は自分たちの間に何が起ったかを知った。邦子が、仙田のマンションに泊りに来るまでには、それほどの時間はかからなかった。彼の店のホステスにバレリーナ志望の梢という若い娘がいた。気立てもよく、よく働く美人で、何よりも快活な性格が、仙田は気に入っていた。その梢が、突然、店の若いエレクトン弾きと一緒に仙田の目の前に現われ、店をやめて、二人でエレクトンと近代バレーをミックスした新型の夫婦万才をやるという。仙田は、何かほろ苦い中年男の悲哀といったものを、しみじみと噛みしめるのだった。ある日、「店も順調だし、もう安心だ。ついては、おふくろに会ってくれないか。」と、仙田のバーの協同経営者・野本が不思議なことを言ってきた。その母親なる人物に会って仙田は驚いた。彼女は何と、最近まで仙田の店で働いていたホステス・多可子だった。多可子は気立てのよい、男好きのする美女であったが、彼女の最大の欠点というのは、男の夜の誘いを絶対に断わることができない事だった。その彼女を仙田の店で使ってくれないか、と野本は頼む。女は魔物だ。どうして俺は、こんな妙な女とばかりつき合ってしまうのかと、仙田は呟くのだった。邦子とも、いつまでもうまくいく訳がない。そんな不吉な予感におののきながらも、仙田は、邦子との甘美な生活に酔いしれていた。そして、仙田は彼女との結婚を仲間に公言し始める。そんなある夜、仙田の店に、内ゲバで反対派につけ狙われている過激派の若く美しい女闘士が飛び込んできた。事情を聞くと、仙田が若い頃新宿で世話になった、あるクラブのママの一人娘だという。仙田は、彼女をホステスの一人として匿うことにした。ところが、仙田の苦心にもかかわらず、ある客の洩らした些細な一言から、彼女が潜伏していたことは反対派に知られ、彼女と、彼女を助けようとした仙田の二人は鉄パイプの一団におそわれ、大ケガをする。これだけ女とのめぐりあわせが悪い俺に、邦子との関係だけが、うまくいくわけはないと、幸福の絶頂の中でも、夢をみているかのような気になる仙田。そして、二人の結婚式もあと数日という日、破局は突然にやってくる。昨日まで刑務所暮しであったという、邦子の「亭主」と称する男が、仙田の前に現われた。とはいえ、邦子は仙田をだましていたわけではない。彼女は仙田を深く愛していた。だが、邦子は仙田のもとを去っていく。あの女は結局俺に雨やどりをして、一時、いい夢をみせてくれたんだなと、彼は自分に言い聞かせるのだった。今夜も新宿は、ネオンと絃歌の中にさざめき、その華やかな仮面の下に、人々は深い溜め息をおしかくしつつ、生きている。