さらば愛しき大地
劇場公開日:1982年4月9日
解説
「十九歳の地図」の柳町光男監督が、農業と工業が渾然一体となる地方都市を舞台に農家の崩壊を徹底したリアリズムで描いた人間ドラマ。高度経済成長のあおりを受け、田園地帯に工場群が押し寄せる茨城県鹿島地方。農家を継がずにダンプ運転手として家族を支える幸雄は、最愛の息子2人を水難事故で亡くしてしまう。深い絶望の中、幸雄は弟の元恋人である順子と出会い同棲生活を始める。しかし仕事が減ると、幸雄はその不安を紛らわすため覚せい剤に溺れるようになっていく。幸雄を根津甚八、順子を秋吉久美子が演じた。
1982年製作/138分/日本
配給:プロダクション群狼
スタッフ・キャスト
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2023年2月23日
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鑑賞方法:DVD/BD
鑑賞したタイミングが悪かった。
「蒲田行進曲」がキネマ旬報ベストワンの年の
第2位作品とのことで期待して観たが、
直前に鑑賞した作品が
デヴィット・リーン監督の
「ライアンの娘」と「インドへの道」。
資料からは、製作費は、夫々、
「さらば…」の約100倍位はあるのだろうか。
充分な時間と資金に支えられたであろう
2作品との落差に、
この作品が、まるでTVドラマでも
見ているかのような気分になり、
鑑賞への集中感が削がれる一因にも
なってしまった。
しかし、そんなことはさて置き、この作品、
あたかも地方社会の経済的・文化的側面が
悲劇をもたらしたかのような主人公の
廃退的ドロップアウトが描かれているが、
良く良く観ると
主人公の周りの人物のほとんどは
地域にしっかりと腰を据えて生きる
誠実な人々ばかりだ。
私も故郷の田舎を離れてかなり経ったが、
時折帰省しての
故郷の方々との触れ合いに際し、
なんら田舎だからと言う廃退性を
彼らに感じることはない。例えば
田舎町には不釣り合いと思われるような
立派な美術館があったりと、
手厚く福祉・文化環境も
保たれているような気がする。
もし、この映画の制作意図に、
二次産業的都市化の地方社会への悪影響が
もたらした挙げ句の果てとしての主人公の
悲劇を描く意図があったのだとしたら、
この作品の内容では、
あくまでも個別の環境と彼自身の人格性が
もたらしたこととしか思えず、
地方性そのもので括るべき内容ではない
ように思えた。
結果、前述の理由も相まって、
キネ旬第2位にはなかなか納得のいかない
鑑賞になってしまった。
2022年10月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
今の売れている女優じゃ真似出来ない、秋吉久美子が素晴らしい女優魂を魅せつける、危ういままに突き進み一線を越える根津甚八の存在感が凄まじく、息抜きとばかりに場を和ませるような蟹江敬三はまさに逸品、とにかく出て来る役者が皆巧すぎる。
ダンプの運ちゃんは容易にシャブに手を出せてしまう危険な時代だったのか、小林稔侍が唐突にそれを受け入れてしまう女の鬱憤が炸裂、起こる全てが演技にしろリアルに映るには十分な脚本と演出が頗る冴えマクった柳町光男の手腕に脱帽。
激しくて痛々しい男女の関係性と静かで穏やかな雰囲気を感じながら幸雄と順子に魅了されてしまう。
2022年1月19日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD
僕にとっての田舎。
叔父や伯父にアルコール中毒の人もいて、彼らがダンプカーで砂利を運んでいたのを思い出す。勿論、今から50年位前の話で、皆、故人。所謂、この映画で語られる高度経済成長中の話。つまり、この映画そのものに近い。我が親戚が、薬物に手を出していたかは、故人を冒涜する訳には行かないので、完全に否定する。ただ、シジミを取っていた近所のある人物が、深川で事件を起こしたと言う事実がある。
小学5年生の頃、この地は天の川がよく見えた。しかし、70年代に入ると、工業地帯の灯りで、星が空から消えた。僕はまだこの映画を見ていなかったが、その後、この映画を見て、さらば愛しき大地の意味を知った。
不景気で、今はそのフレアーの火もまばらになり、星は消えたままだが、車が無いと行けない不便な所のままである。コロナ以前から、第二次産業の火は消えた様になっている。また、この地の原住民はこの地を殆ど去ってしまっていて、関西からの移民でこの街は出来ている。また、世代交代で、この地の美しき過去の姿を殆どの人が知らない。
野尻抱影の星座本を片手に、熱がこもったさらさらの砂丘に座って、天を仰いて、夏の大三角形を裸眼で見ていた時を思い出す。
さらば愛しき大地!
2021年11月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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小学校低学年の頃、母と一緒に映画館へ行った。映画が始まると、母はその内容を子供の教育に良くないと判断したのだろう、間もなく映画館を出ることになった。
その時の映画について記憶しているのは、
①田んぼが広がる日本の田舎
②夏の様な日差し又は雰囲気
③蛆が湧く描写
④木製の小屋で男性が女性を襲う場面
成人してからこの記憶が蘇って、内容が内容だけに母には聞けず、ずっとその映画を探している。もちろん、タイトルは知らない。
「さらば愛しき大地」を最後まで見たのは、もしかしたら、これがその作品かもしれないと思ったからだ。
この作品は、上述の①②③に合致していた。ただ、③については気になる点もある。それは、記憶では映画の序盤しか見ずに映画館を出たので、早い段階で蛆が沸く場面があるはずだが、この映画では終盤にあったことだ。
④については、ぼろい貸家で男女が乳繰り合ったり、争ったりするのを記憶違いしたと考えれば、合致してると言えなくもない。…かも。
何せ小学生低学年の記憶なので信用できない部分も大いにあるだろう。
とすれば、③についての差異も「幼少の頃に見たのはこの映画の予告編だった」と考えると納得できる。…気もする。予告編という存在を知らず、それを映画本編だと記憶した可能性は充分にありえる。…かもしれない。
そして、映画が始まってすぐに退場した(と記憶している)のは、「子供の教育に~」ではなく、予告編を見ている段階で母に何かしらの用事ができただけなのかもしれない。
確定はできないが(もはや、どの映画でも確定はできないだろうが)、今まで見てきた映画の中で最も可能性がある作品だった。そして、その可能性はかなり高いだろうと感じている。