小早川家の秋のレビュー・感想・評価
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画面に溢れる粋(いき)、そしてメメント・モリ
「午前十時の映画祭」で鑑賞。
面白かった。
今回も「なんてことのないお話を、ここまでじっくりと見せてくれるか」と感心。さすがです。
画面に溢れる「粋」。
まず、中村鴈治郎の演技と、小津の巧みな演出が素晴らしい。
セリフの絶妙の間、ギリギリのタイム感。とくに氷屋の場面に感銘を受けた。
それから、ヴィジュアルそのものが粋である。画面がビンボー臭くない。
団扇や浴衣のデザインが視覚的に心地よい。もちろん名優たち(豪華キャストだなぁ)の姿も美しい。
物語の最後に我々に送られる小津のメッセージ。
そこにぼくは小津の諦観(〈本質を見きわめる〉〈悟りあきらめる〉という二つの意味においての諦観)を感じとった。けっきょく彼はこの映画で世の無常を描きたかったのだろうか。
死の象徴である煙とカラスが繰り返し映し出されるところは、ちょっとくどいなという感じがしないでもなかったが……。
この作品も、平明で、清潔で、品があり、ユーモアがある。
そして、本作も「人間」がしっかりと描かれている。
それが映画芸術においてもっとも大切なことだ、と教えてくれているようである。
時代を超えて評価されるのには、それだけの理由がある。――今回も、そんなことを感じました。
また、タイムスリップして昭和の懐かしい空気を胸いっぱいに吸ったような気分にもなった。
つねが万兵衛の亡骸を扇ぐシーンが印象的だった。
それから、秋子の「品行はなおせても、品性はなおせない」というセリフがこころに残りました。
まず思いきり言いたい、
死んどるやないか!! 子ども? の罰当たりな動作も、伯母のあまりの暴言もブラックユーモアか?
他にポイントが二つ程。シスターフッドと言うかガールズトーク炸裂ですね。みんなスタイル良いなぁ。
もう一つが意図した事ではないでしょうが、絶滅カルチャーのオンパレード。今時送別会で合唱? 皆歌詞よく覚えてるな・・御膳とか森高並のフレアとか。
あ、忘れてた。オンザロック注文して水割りじゃないか?! ちゃうちゃうってイヌか!
暗めの小津作品
冒頭のバー、森繁久弥が若くて面白い。彼と原節子の縁談話と隠し子?の話。しかし、親戚関係が難しい(劇中でも藤木悠が言っている)。
全体を通してみると、結局は万兵衛の病気・死がメイン。造り酒屋も衰退の一途を辿っていたのも父親のだらしなさが原因かと思っていたら、死んで初めて父親の偉大さに気付く家族。夏から秋にかけての縁側と茶の間の会話が叙情的。
終りの方になって、笠智州がようやく登場し、重い葬送の音楽と火葬場の煙突が青い空と妙なアンバランスで訴えてくる。最後だけ見るとホラーかと思ってしまう・・・
新珠を撮った小津
20年近くの間を空けての鑑賞。この間に自分自身も歳をとり、映画の観方も変わってきた。
この作品は小津安二郎が、所属の松竹ではなく、当時の新興映画会社である東宝で撮った。しかも、東京ではなく宝塚映画であり、舞台は関西である。松竹製作ではないという以上に、関西が舞台であることに小津作品としての特殊性があるといえよう。
原節子以外の役者はみな関西の言葉を使っているのだが、そのイントネーションにはぎこちなさを否定できない。名優・杉村春子をしてそうなのだから、観ているほうも諦めがつく。
しかし、当然関西出身の役者のそれは堂に入っており、中村雁治郎や浪花千栄子は言うまでもなく、新珠三千代(奈良出身)が圧倒的な存在感を放つ。
原、杉村、司葉子など松竹の女優の中で、一歩も引けをとることなく、ついつい老父に辛くあたる娘の役を演じている。川島雄三の「洲崎パラダイス 赤信号」でも見せた勝気な女性、それを後悔する女性を見事に表している。
小津は、華やかな松竹の常連たちを周囲に配しながらも、雁治郎と新珠の父娘の物語を浮き上がらせている。例によって、司と原の結婚話が出てくるが、それを横糸にしながらも、消えゆく老舗の造り酒屋を盛り立ててきた父を娘が送り出す縦糸にドラマを織りあげている。
この作品の最大の見どころは、新珠と雁治郎の丁々発止のやり取りである。全てお見通しの新珠の口撃に対する雁治郎の切り返しは、同じく小津の「浮草」の京マチ子と雁治郎が雨降る軒下での口論を思い出させる。
もちろん、「浮草」での口論は冷たい雨の降る中の寒々しい言い争いなのだが、こちらのは親子であるが故の遠慮なしの物言いがむしろ滑稽で、コミカルなものに仕上がっている。
このコミカルな雰囲気は雁治郎が亡くなっても続くのだ。それは、ミンクのコートを買ってもらい損ねたと言って、肉親的な感情を出そうとはしない団令子。どうせなら一度倒れた時に死んでいてくれれば二度も出てこなくて済んだという杉村。極めつけは、「そうか、これで終いか、、」だけ言うて死んだと、自宅から駆け付けた家族に淡々と説明する浪花である。影の女としての後ろめたさや、遠慮など微塵も感じさせない。
観ているこちらが可哀想になるほどに、雁治郎の死を囲む人々は淡々としており、悲哀よりも笑いを誘う。そんなコメディだからこそ、新珠のカラッとしたイメージが活きる。
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