キネマの天地

劇場公開日:

解説

松竹が撮影所を大船に移転する直前の昭和8、9年の蒲田撮影所を舞台に、映画作りに情熱を燃やす人々の人生を描く。脚本は井上ひさし、山田太一、朝間義隆、山田洋次が共同執筆。監督は「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」の山田洋次、撮影も同作の高羽哲夫が担当。

1986年製作/135分/日本
原題または英題:Final Take
配給:松竹
劇場公開日:1986年8月2日

あらすじ

浅草の活動小屋で売り子をしていた田中小春が、松竹キネマの小倉監督に見出され、蒲田撮影所の大部屋に入ったのは昭和8年の春だった。小春は大震災で母親を失い、若い頃旅回り一座の人気者だったという病弱の父・喜八と長屋でのふたり暮らしだ。蒲田撮影所での体験は何もかもが新鮮だった。ある日、守衛に案内されて小倉組の撮影見学をしていた小春はエキストラとして映画出演することになった。だが素人の小春にうまく演じられる訳がなく、小倉に怒鳴られた小春は泣き泣き家に帰り、女優になることをあきらめた。長屋に戻って近所の奥さんにことのいきさつを話している小春を、小倉組の助監督島田健二郎が迎えにきた。「女優になりたがる娘はいっぱいいるけど、女優にしたい娘はそんなにいるもんじゃない」。健二郎の言葉で、小春は再び女優への道を歩み始めた。やがて健二郎と小春はひと眼を盗んでデイトする間柄になった。小春は幸福だった。しかし時がたつにつれ、映画のことにしか興味をしめさない健二郎に少しずつ物足りなさを覚えるようになった。小春の長屋の住人たちは不況下の失業にあえいでいた。そんな中で、唯一の希望はスクリーンに登場する小春だった。夏もすぎ秋になって、小春はプレイボーイとして有名な二枚目スター、井川時彦と親しくつき合うようになった。師走に入って、健二郎は、労働運動で警察から追われている大学時代の先輩をかくまったとして、留置所に入れられてしまう。その留置所生活で得たのは、かつてなかった映画作りに対する情熱だった。年が明けて、小春が大作の主演に大抜擢された。主演のトップスター川島澄江が愛の失踪事件を起こしたため、その代打に起用されたのだ。しかしその大作「浮草」で演技の壁にぶつかって、小春は苦悩した。その小春を、喜八はかつて旅回り一座の看板女優だった母と一座の二枚目俳優のロマンスを語り励ました。実は小春の本当の父親はその二枚目であることも--。「浮草」は成功した。人があふれる浅草の映画館でゆきと「浮草」を見に行った喜八は、映画を見ながら静かに息をひきとった。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

監督
脚本
井上ひさし
山田太一
朝間義隆
山田洋次
製作総指揮
奥山融
製作
野村芳太郎
プロデューサー
杉崎重美
升本喜年
島津清
撮影
高羽哲夫
美術
出川三男
音楽
山本直純
録音
鈴木功
照明
青木好文
編集
石井巌
助監督
五十嵐敬司
スチール
赤井博且
プロダクション・コーディネーター
内藤誠
田中康義
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受賞歴

第10回 日本アカデミー賞(1987年)

ノミネート

作品賞  
監督賞 山田洋次
脚本賞 井上ひさし 山田太一 朝間義隆 山田洋次
主演男優賞 渥美清
助演男優賞 すまけい
助演女優賞 美保純
音楽賞 山本直純
新人俳優賞 有森也実
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映画レビュー

5.0そうこれこのテーマ曲!

2025年3月21日
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レトロシネマ上映会で鑑賞。35ミリフィルムのカラカラ音が新鮮だった。

中井貴一は年と共に骨太になったのか…若い頃の方が華奢(今の方が好き)。渥美清は何を演じてもさすがに泣かせる。

下宿屋の、おたけちゃんが健気で泣けた。ほんのワンシーン出てるだけの子で、映画の本筋にあまり影響しないんだけど(何気に島田の気持ちには凄く影響するのだが)ちょっとっ、この子の演技力凄いんじゃないのっ!と言いたくなった。

テーマ曲が、蒲田行進曲のものだと思ってたらココでも流れ…これは松竹のテーマ曲でしたかと。良い歌ですね。
長屋や下宿の、人との距離が密な暮らし…1934年の設定ってことだけど、今の東京とは全然違う。ビックリです。

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れい

3.0故・渥美清の役者魂

2025年3月10日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「庶民派スター」の田中小春と、その相方のイケメン助監督が画面の「華」ということなのでしょうけれど。

しかし評論子は、小春の父親・喜八(渥美清)ばかりを見ていました。
今は物故されていますが、本当の実力のある俳優さんでしたから。

喜八が、ご近所のゆきの家で、縁側を借りて小春に稽古をつけるシーンがあります。
その時の喜八の所作が、喜八こと渥美清の役者としての、実は真骨頂だったのではないかと、評論子はは思っています。
(このシーンで、渥美清が倍賞千恵子に相槌を求めたところは、実は、台本にはないアドリブだったのではないかと、ひそかに考えていたりもしました)

そこに、渥美清の「役者魂」を感じた一本ということになりました。
評論子には。

小春の映画出演を率直に祝福してくれる、ゆきの夫の弘吉、松竹大船撮影所の城田所長、女優(役者)としての小春を徹底的に鍛えてくれる緒方監督といった豪華な俳優陣のほか、山本晋也監督や笠智衆が、これまた素晴らしい脇役を務めていて…。

一見すると…、否、まさに本当に「映画賛歌」なのですけれども。
しかし、それでいて、「べたべたの映画賛歌」くさくなく仕上がっているところが、素晴らしい一本だったと思います。

充分な佳作としての評価に値すると、評論子は思います。

<映画のことば>
「要らないもの?それじゃあ、この俺でも持って行くか。」
「旦那、ご冗談ばっかり。」
「この家でいちばん役に立たないのは、この俺だよ。メシ食っちゃあ、クソたれるばっかりで。」
「そんな気分になることもあるよね。」

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talkie

3.0映画:キネマの天地(監督:山田洋次)

2024年12月22日
Androidアプリから投稿

この映画は、映画製作の分野に、派閥が2つある、から、と、教える映画。
松竹映画の蒲田撮影所を再現したセットは、一級。
この撮影所には、善良的の映画人たちが、当時、集まっていたようです。
アート映画よりも、娯楽的映画を、は、2024年の現在では、受けませんが、しかし、撮影所に出社する、女優たち、俳優たちが、木で作った名札を返す、シーンは、面白い映画を次々に作って、上映すればいい、とする、当時の松竹映画という会社を見事に描いています。
その演出は、上流階級的が変動しない、神的な演出。
それは、製作担当の野村芳太郎監督の演出方法で、楽に見れる活動写真(高級な映画)。
素晴らしい。

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Ian

4.0映画への愛情がこもった傑作だ。

2024年10月30日
PCから投稿

映画館の売り子が、女優として人生を歩む一方、1930年代の日本映画の裏側を、興味深く取り上げた人間ドラマだ。田中絹代、小津安二郎、斎藤寅次郎、岡田嘉子、城戸四郎などをモデルにした人物が出てくる。

何の知識が無くても、普通に映画への賛歌として楽しめる良作だ。もちろん、鑑賞前に、当時の日本映画や世相に関する出来事とか背景知識を知っておくと、より楽しめる。全編を通じて、映画への愛情が心から感じられる。

シリアスなドラマと、明るく楽しいコメディの間で、揺れ動くのを感じる映画だ。心温まる軽妙なテンポで、最後まで楽しんで見ることが出来る。次々出てくるキャスト陣も楽しい。

無声映画からトーキーへの移行期だった1930年代を詳細に再現し、どこか懐かしさを感じる、ノスタルジックなタッチで、映画とそれに関わる人々を、心をこめて描き切った傑作と思う。

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岡崎仁