歌麿 夢と知りせば
劇場公開日:1977年9月17日
解説
世界に宣伝された浮世絵師、喜多川歌磨を主人公に、その浮世絵のように爛熟し花開いた江戸文化のなかに、実在・虚構の人物を、さながら群舞の如く配して、彼らの愛と夢の交錯するさまをエロティックに描く。脚本は実相寺昭雄と「新・団地妻 夫婦交換」の武末勝の共同、監督は「あさき夢みし」の実相寺昭雄、撮影は中堀正夫のそれぞれが担当。125分に再編集したR-18版も有。
1977年製作/140分/R/日本
配給:日本ヘラルド映画
劇場公開日:1977年9月17日
ストーリー
寝静まる江戸の夜。飛騨屋の蔵から、逸品の茶碗が盗まれた。壁にはただ一字“夢”と書き示されていた。江戸っ子の喝采を浴びている“夢の浮橋”の犯行であった。狂歌仲間の蔦屋重三郎、燕十、風来山人、田沼意次、そして歌磨は、料理茶屋に踏みこんできた役人から“浮橋”をかくまってやった。礼を云い去っていく“浮橋”に歌磨は鮮やかな印象をもつ。ある日、浅草奥山の人混みのなかで歌磨は騒ぎに巻きこまれ、役人に囲まれたところを立役者市川団鶴に救われる。歌磨は市川団鶴が“浮橋”に似てると思った。女が描けず考えこむ歌磨に、燕十と風来山人は交合図を覗かせようと吉原に連れこむ。そんな時、同じ吉原で、丹後守と宗兵衛によって“田沼失脚”の陰謀が画策されていた。ある日、歌磨は高貴で美しい女性に出会う。あの美しさを描きたいと念ずる心とは裏腹に、筆はいっこうに進まない。思い余った歌磨は町から乞食を連れ帰えり、彼に女房のお奈津を襲わせた。歌磨は蒼ざめた表情で筆を手にしたが、やるせない思いで、外に飛び出した。夜道をふらつく歌磨に、いつか、浅草で出会ったお涼が声をかけた。歌磨は誘われるまま、その夜お涼を抱いた。翌朝、家に戻ると、お奈津の姿は消えていた。季節はいつしか夏へ変わる。ある日、浮橋を手引きしたおそのが掴まる。役人のむごたらしい責めを受けながら、男への愛を語るその姿は、歌磨に衝撃を与えずにはおかなかった。天明六年、田沼意次失脚。世の中はあわただしく変っていく中で歌磨の絵は世間に認められ、人気を高めていく。そんな時、歌磨は写楽の絵に出会い、深い衝撃をうける。歌磨は、何かを探すように旅に出た。お奈津との再会、北斎と名のる絵師との出会い、旅は歌麿に人生を悟らせた。そして江戸に帰った歌磨を待ちかまえていたのは、風俗・文化を厳しく統制する寛政の改革であった。浮世絵は焼きすてられ、歌磨は処罰を受けた。そんな時、江戸に大火災がおこる。買占めた材木で一儲けを企む桧前屋と丹後守が付火をさせたのだ。酒を酌み交す二人の前に、憎悪に燃える“浮橋”が現われ、二人を斬りすてる。“浮橋”それはまさしく、団鶴であった。牢から放り出された歌磨が変りはてた江戸の町を行く。だが、町行く人々の喧騒はきょうも変らない。夢を捨てきれぬ歌磨は噛みしめるように歩く。そして、歌磨は、しだいに人混みの中にかき消されていった。それは、歌磨が描く自分自身の浮世絵に似て、どこか、夢への旅立とも思える姿であった。