あかね雲
劇場公開日:1967年9月30日
解説
水上勉の同名小説を、「湖の琴」の鈴木尚之が脚色し、「処刑の島」の篠田正浩が監督した文芸もので、独立プロ表現社の第一回作品。撮影は「恋のメキシカンロック 恋と夢と冒険」の小杉正雄。
1967年製作/107分/日本
原題または英題:Embrace Me at Sunset/Clouds at Sunset
配給:松竹
劇場公開日:1967年9月30日
ストーリー
昭和十二年頃の石川県輪島。まつのは、病身の父と貧しい家計を助けるため、商人宿の女中に出た。ある日、狐独なまつのの相談相手となっている女給の律子が、景気のいい山代温泉へ行こうと彼女を誘った。まつのは迷ったが、ちょうど缶詰会社の外交員の小杉を知り、彼が山代で働き口を見つけてくれたことから、山代行きを決心した。山代に向う列車の中で、まつのは燃える西空にあかね雲を見た。温泉町に着いたまつのは、律子の心配をよそに、小杉を信用して仲居になったが、化粧をして見違えるほど美しくなった彼女は、たちまち酒席の人気者になった。大陸での戦線は拡大する一方で、南京陥落の報が伝わってくるころ、まつのにも水商売の女がたどる運命が待っていた。小杉が世話になっているという中年の久能川が最初の男だった。それは小杉が勧めたことで、まつのは小杉と寝るのだったら嫌ではなかったのだが、久能川がくれる百円が欲しかったのだ。その心のうちを聞いた小杉は、あてどもなく町をさまよった。その日も、西空には絵具をとかしたようなあかね雲が浮んでいた。そのいきさつを知った律子は、自分は娼婦のような生活をしていても、まつのにはそんなことをさせたくないと思っていたから、まつのを叱り、小杉を罵倒した。しかし、まつのは彼を悪人とは、どうしても思えなかった。彼女は金沢の小杉の下宿を訪ねた。二人はいつか堅く抱きあったが、小杉は何故かまつのを振り払った。山代に戻ったまつのは憲兵少尉猪股の訪問を受け、その時初めて小杉が脱走兵であることを知った。国民の志気に影響すると秘密裡に捜査していた猪股は、まつのの水揚げの顛末を知り、小杉を人身売買の罪に問い、公開捜査に踏み切った。まつのは山代を追われ、郷里に帰ったが、間もなく身の隠し場所のなくなった小杉から手紙が来た。至急会いたいというのだ。まつのは小杉のひそむ福浦港に向った。漁師町でのうらぶれた宿での二人の再会も束の間だった。まつのの後をつけていた鴨下刑事によって、小杉はあっけなく捕ってしまった。茫然とするまつのの目にうつったものは、かつて何度か見た、水平線の彼方に太陽が沈んだあとの、暮れなずむ海の色と、血のようなあかね雲だった。