クワイエットルームにようこそ : 映画評論・批評
2007年10月9日更新
2007年10月20日よりシネマライズほかにてロードショー
ブラックな笑いが炸裂する一筋縄ではいかない女性映画
ヲタク男子と腐女子の恋を描いたコミック「恋の門」を、意外にも監督デビュー作の原作に選んだ松尾スズキ。戸惑いからのバラツキ感が否めなかった前作の反省を踏まえてか、3年ぶりとなる本作では、閉鎖病棟を舞台にした自身の小説を映画化。人生に行き詰った主人公とクセモノ患者との交流や自己の開放など、同じ題材を扱った「17歳のカルテ」や「ベロニカは死ぬことにした」との共通項も多い。だが、さらにヘビーでリアルな展開のなかに、監督の十八番でもあるブラックな笑いが炸裂。結果、一筋縄ではいかない女性映画に仕上がった。
監督の姿にもシンクロする、主人公・明日香を演じる内田有紀は、若干セルフパロディな設定のもと、顔面ゲロまみれもいとわない女優魂を披露。リハビリ・センターに収容された「28DAYS」のサンドラ・ブロック以上に、コメディエンヌとしての顔も魅せる。さらに、彼女がクワイエットルーム(病棟内の保護室)に担ぎこまれるまでの過程を「羅生門」的な視点で描くという、ギミックもスリリングだ。スリリングといえば、拒食症患者と過食症患者に変貌した、蒼井優と大竹しのぶという、新旧カメレオン女優対決には圧倒。その反面、群像劇として観た場合、登場のインパクトだけで終わってしまう、もったいないキャラが意外と多いことが悔やまれる。
(くれい響)