「理屈では割り切れないイビツな関係性と感情が描かれている」Love Letter 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
理屈では割り切れないイビツな関係性と感情が描かれている
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岩井俊二という監督が深夜ドラマから頭角を現したときの衝撃はよく覚えていて、それが長編映画を撮るというのだから期待値マックスで観に行ったものだが、今思えば、こちらの期待からちょっとズレたものを見せてくれるという意味で、最初からとても岩井俊二らしい映画だったのだと思う。ちょっとズレた、というのは、一般的に思い浮かべるエモさとはちょっとズレているところで成立していることで、なんなら中山美穂のお元気ですかという叫びも、なんかいい顔して見守っている豊川悦司も、ちょっと唐突で理屈では飲み込めないところがあるのに、なんでかクライマックスとして成立してしまうのが不思議でしょうがない。よくよく考えたら初恋の相手と顔が超似てる(というか一人二役なんで同じ顔なんだけど)だけの女性と出会ってすぐ告白した藤井樹(柏原崇)という男はかなりヤバいと思うのだが、そのヤバさをあまり弄ることなく、それでいて美化してるわけでもない宙ぶらりんな塩梅のまま、残された者の物語が進んでいくというのはかなり奇妙な映画ではないだろうか。そしてさらに、これだけじゃ終わりませんよともうひとつ押してくるエピローグが凄い。倫理や善悪では割り切れなさみたいなもの残しつつ、最後になんかちょっとエモさを噛みしめる藤井樹(中山美穂)の気持ちが言葉で説明できない感じも実にみごとである。
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