天国と地獄

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劇場公開日:

解説・あらすじ

エド・マクベインの原作を得て、黒澤明監督が映画化した全編息づまるサスペンス。製靴会社の専務権藤の息子と間違えられて、運転手の息子が誘拐された。要求された身代金は三千万円。苦悩の末、権藤は運転手のために全財産を投げ出して三千万円を犯人に受け渡し、無事子供を救出する。非凡な知能犯の真の目的とは。鉄橋を利用した現金受け渡しのシーンは秀逸で、実際にこれを模倣した誘拐事件が発生した。また白黒作品であるにもかかわらず、最も重要なシーンで一個所のみ着色を施すなど新たな演出も印象深い。

1963年製作/143分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1963年3月1日

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(C)1963 TOHO CO.,LTD.

映画レビュー

4.5ソコから見上げたホシ

2025年4月28日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

興奮

知的

斬新

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どん・Giovanni

5.0こんな傑作観たことない

2025年4月27日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ドキドキ

映画は社内クーデターの会議から始まる。企業ドラマだ。
主人公の息子が誘拐される。誘拐ドラマになった。
刑事がやってくる。犯人から電話がかかる。サスペンスの始まりだ。
被害者の苦悩。重厚な人間ドラマが展開する。
犯人と警察。息の詰まりそうな頭脳戦が続く。
犯人の裏の裏をかこうとする警察の必死さ。
上流階級に対する下流からの反発と憎悪。
どこからも眺め上げてしまう超豪華な邸宅。
エトセトラ、エトセトラ。
後に大物となる俳優たち。当時すでに大物だった名優たち。驚くことに、出演者全員が全員、芝居がかすこぶるうまい。
有名な桃色の煙。湾岸署の青島刑事は後年、現場でこれを見て「天国と地獄だ」と呟いたが、私はこのシーンで逆に「踊る大捜査線だ」と独り悦に入った。
エンタテインメントの要素をこれでもか、これでもかと詰め込み、後の映画に多くのモデルを供与した名作は、現実の事件の犯人にも影響を与えた問題作となる。
時間も内容も圧倒的な映画だ。

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ぶっち

5.0サスペンス以上にヒューマンドラマとしても傑出、見返すたびに新たな発見に息をのみますね。

2025年4月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

驚く

ドキドキ

惜しまれつつ25年7月27日(日)閉館を迎える丸の内TOEIさんにて「昭和100年映画祭 あの感動をもう一度」(3月28日(金)~5月8日(木))と題した昭和を彩った名作42本が上映中。本日は黒澤明監督『天国と地獄』(4K版)を鑑賞。

『天国と地獄』(1963年/143分)
間違いなく日本映画史上最高のサスペンス作品。
身代金受け渡しシーンに実物の特急「こだま号」を1編成チャーターした大掛かりなロケ、同車両内でわずかに開く換気窓から身代金を投げ落とす有名なトリック、身代金が入った鞄を燃やすと桃色の煙が立ち上がるパートカラーの演出、公開後誘拐事件が多発し国会でも問題視、後日刑法が一部改正されるなど後世に語り継がれるエピソードに枚挙にいとまがない本作ですが、改めて見直すと脚本の素晴らしさ、登場人物の描かれ方がとにかく秀逸ですね。

特に間違って自身の運転手の息子を誘拐され、当初は自身の野心のため身代金支払いを逡巡、拒む製靴会社の常務・権藤金吾(演:三船敏郎氏)が徐々に人間らしさに取り戻し、身代金の支払いに応じていく心変わりを丁寧に描く過程は、ありふれた清廉潔白、聖人君子ではなく人間臭く、観客が共感できる人物像として描かれている点は出色。

権藤の対置として、自身の保身や出世のために権藤と敵対する重役らに懐柔、彼を裏切るエリート秘書・河西(演:三橋達也氏)の人物設定も実に上手く、サスペンス以上にヒューマンドラマとしても傑出しています。

その他配役も犯人を追う冷静沈着だが内に熱いものを秘める戸倉警部(演:仲代達矢氏)、いかつく情に厚い田口部長刑事(演:石山健二郎氏)はじめ、ひとり一人の刑事の描かれ方も個性的で丁寧に描かれ、敵対する重役たち(演:伊藤雄之助氏、中村伸郎氏、田崎潤氏)も実に憎らしくて良いです。
なかでも誘拐犯・竹内銀次郎(演:山崎努氏)の狂乱した迫真の演技は、本作で山崎努氏が本作で一躍注目を浴びたのも納得、鮮烈なラストシーンですね。

ヘドロまみれのドブ川に映し出させる竹内のファーストカットも「これぞ黒澤明」という見事な演出、見返すたびに新たな発見に息をのみますね。

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矢萩久登

4.5丘の上とバラック街のあいだで

2025年4月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

1963年公開の黒澤明『天国と地獄』を、今年閉館する丸の内TOEIにて初鑑賞。この映画館は1960年開館、まさにこの作品と同時代に誕生している。僕の生まれる前の映画だが、戦後の高度経済成長期に生じた社会の分断を、鋭く、そして強烈に映像化した作品だった。心の奥に“心象風景”として、これからも深く残り続けるだろう。

物語の舞台は横浜。主人公・三船敏郎は靴メーカーの重役。戦後復興の波に乗って、当時年10%を超えるような、今では考えられない経済成長の時代に、職人から出世し、横浜を見下ろす高台に建つ瀟洒な邸宅の主人となった。
彼が住む丘の下には、バラック街が広がっている。天国と地獄。この地理的な高低差がそのまま社会階層のメタファーとなっている。同じ街なのに、上から見下ろす風景と、下から見上げる風景はあまりに対照的だ。

現代なら、高層マンションの最上階とその足元のスラムをドローンで切り取るような構図になったかもしれない。だが、あの家が一軒家であるからこそ「天国の住人」としての象徴性が際立つのだ。そのリアリティが抜群だった。

僕が上京したのは昭和の最後。あの時代も、いや平成に入っても、東京にはこの映画で“地獄”として描かれたような戦後のバラックや安アパートがまだまだ残っていた。僕も最初は、風呂なし・トイレ共同・エアコンもない木造アパートに住んでいた。だからこの映画は、遠い過去の物語というより、忘れかけた自分のこれまでとも重なる現実を描いたと感じられた。

そして思う。近年のアメリカ大統領選などに見られる、経済の繁栄から取り残された人々と、“意識の高いリベラルな人々”との対立。この映画は、それを60年前の日本で、すでに描いていたのではないかと。

主人公の三船も、強烈な出世欲だ同時に、儲け主義よりも“良い製品”を作ることを大切にする倫理的ビジネスマンであり、同時に高い道徳感を持つヒューマニストとして描かれる。しかしそれでも、地獄との対話は成立しない。

この映画のもう一人の主人公である地獄の住人は、殺人に対してすら罪悪感が希薄だ。その背景は映画では何となくしか語られない。ただ、現アメリカ副大統領JD.ヴァンスの『ヒルビリー・エレジー』を読むと、貧困の中に育つことで、努力などでは超えられない認知の違いが生まれることが見えてくる。

この作品は、犯罪事件の物語だが、善と悪の対立ではない。“天国”と“地獄”という住む世界の違いがもたらす断絶を描いた物語だった。黒澤はその構造的問題を、すでにこの時代に見通していたのかもしれない。

古い映画は自宅で集中して観るのが難しい。けれど、丸の内TOEIのような場所でこそ、その時代の空気ごと体験することができる。この夏の閉館まで昭和の名作を上映してくれるようだから、できる限り足を運びたい。

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