殯の森

劇場公開日:

解説

「萌の朱雀」「沙羅双樹」の河瀬直美監督が、“生と死”をテーマに認知症の男性と介護士の女性の交流を描き、第60回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた人間ドラマ。奈良県山間部のグループホームで暮らすしげきは、33年前に亡くなった妻の思い出と共に穏やかな毎日を過ごしていた。そこに介護福祉士としてやって来た真千子もまた、事故で我が子を失い大きな喪失感を抱えていた。ある日2人は、しげきの妻が眠る森を訪れるが……。

2007年製作/97分/日本
配給:組画
劇場公開日:2007年6月23日

スタッフ・キャスト

監督・脚本
製作
エンガメー・パナヒ
撮影
中野英世
音楽
茂野雅道
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受賞歴

第60回 カンヌ国際映画祭(2007年)

受賞

コンペティション部門
グランプリ 河瀬直美

出品

コンペティション部門
出品作品 河瀬直美
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映画評論

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(C) KUMIE / Celluloid Dreams Productions/ Visual Arts College Osaka

映画レビュー

5.0愛する人の死の形象化

2023年5月17日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

自分の過失で長男を死なせた(らしい)過去を持つ介護士と、33年前に愛妻を亡くし、その現実を受け入れらない認知症を患う老人の物語。

登山がレジャー化して久しいが、その起源は山岳信仰にある。山岳信仰の体現者である山伏はそれを、麓から頂上までの道程を母親の胎内へ戻る産道と捉え、その過程で俗世で汚染された六根を清浄する、と説明する。

愛する人の死によって、今にも壊疽しそうな塊をぽんと投げつけられ、その扱いに途方に暮れる二人の男女。無意識が求める「愛する人の死の形象化」。深い山中にある老人の妻の墓を目指し、ひた歩く壮絶な様は、いつしか壊疽の塊が優しく浄化される、信仰に似た神々しさがある。

カンヌのグランプリ受賞作品らしく、芸術的完成度は恐ろしく高い。穏やかに淡々と、ほとんど科白なく進む物語は、ドラマではなく映画であることの本質的な意味を突き詰めている。

過大な罪とトラウマを抱える虚無な尾野真千子がすこぶる美しい。あっさりと生の一線を超えようとしてしまうボケ老人に辛うじて踏み止まる今の自分の将来を見て、生きる意味を微笑めるようになる、その美しさを26、7歳で演じきるなんて。

しかし、難しいな、この映画は。非言語的な音と光で表現する映画に対する本質的共感と、
愛する人の死に触れる切実な原体験。観客がこのふたつを持つか否かで、評価は大きく分かれると思う。

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えすけん

3.5【愛する者を失った認知症の老人と女性介護士が、殯の森を彷徨う中で生と死を見つめるヒューマンドラマ】

2023年5月15日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

ー 河瀨直美監督はジュリエット・ピノシュを迎え描いた「Vision」でも美しき奈良の森を舞台にスピリチュアルな作品世界を展開しているが、今作も然りである。
  但し、今作は”生と死を見つめる”という重いテーマ設定になっている。-

■亡き妻、真子の思い出と共に奈良のグループホームで暮らすしげきと、不慮の事故で子供を失った新任介護福祉士の真千子(尾野真千子)。
 ぶつかりあいながらも、共に失った者への思いを抱く2人は次第に心を通わせていく。
 ある日、彼らはしげきの妻が眠る森へ墓参りに出かけるが、森の中で道を失う。

◆感想

・今作は、可なり難解な作品であると思う。

・真千子が子を失ったシーンも映されないし、多くを観客に委ねている。

・但し、しげきと真千子が道迷いした奈良の森や、茶畑の緑は鮮烈であり印象に残る。

・夜は二人で抱き合いながら暖を取るシーンも良い。”生きてるんだな・・。”

■二人が道迷いになりながら、鉄砲水に会うシーンで、真千子は子を川で亡くしたのだろうと推測出来る。

<二人が、しげきの妻が眠る森で土を掘り、しげきが妻が亡くなってからの日記を積み上げ、真千子にオルゴールを渡し、しげきは掘った穴の中に身を丸くして入るのである。
 今作は、生と死の結び目を描いた物語でもある。>

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NOBU

2.0疑惑

2022年5月18日
PCから投稿

個人的に疑惑の映画。昔見たとき「なんかちがうぞ」と思った。あんを見てセンチメンタルポルノの作家だと知ったが、それまでは(この監督がなにかを)持ってるのか持っていないのかが正直わからなかった。当時海外の批評家もほめるのに苦心していたと記憶している。
とても「なにかを持っていそうな」映画だった。

ところでカンヌにゆかりある監督というと、今村昌平、大島渚、是枝裕和、黒沢清、河瀬直美、濱口竜介・・・。
カンヌの受賞歴は海外進出のきっかけにもなっていて大島渚はマックス、モン・アムール(1986)を、黒沢清はダゲレオタイプの女(2016)を、是枝裕和は真実(2019)を撮っている。今村昌平も海外企画のオムニバスに参加したことがある。濱口竜介もいずれ海外で映画をつくるだろう。

では河瀬直美はどうだろう。
登壇頻度からして最もカンヌにゆかりのある監督は河瀬直美である。
が、海外シゴトがほとんどない。(いちおうvisionが日仏合だがビノシュが出ているだけ)

個人的な憶測だが、河瀬直美はなんらかの根回しによってカンヌに好かれているのだろう──と思っている。
撮影にはアーティスティックな興趣があるとはいえ、作風はいずれも旅芝居。感傷が前面にでてしまう話。いわゆるお涙頂戴である。外国人がそれを解らないはずがない。

『北野武や是枝裕和ら映画監督の作品を手がけたプロデューサーのエンガメ・パナヒに脚本を持参して子連れで渡仏、直接面談の出資交渉の席で「あなたと組みたい」と口説いたという。パナヒは、ローラン・グナシア(アニエス・ベーのカルチャー・コミュニケーション・アドバイザーを経て、会社「ラボワット」を経営しているアート・ディレクター。2007年2月26日に寺島しのぶと結婚)を通じ、フランスの映画会社セルロイド・ドリームに紹介された。また、日本の文化庁やフランス側の公共行政機関「フランス国立映画映像センター(Centre national du cinéma et de l'image animée)」からも助成を受けている。
(中略)
ニューヨーク・タイムズは同作の受賞を評し「大きな驚き」(the biggest surprise) と表現した。』
(ウィキペディア「殯の森」より)

積極的な自己アピールの甲斐あって殯の森はカンヌのグランプリを獲った。
同ウィキには『「審査ではすごいバトルもあったらしい」と伝えたが』との一文がある。とうぜんそれは純粋な品質で推す審査員と、懇請された審査員とのバトルであったことだろう。NYタイムズの「驚き」の評は端的にこの授賞の奇を伝えている。

さいきん(2022/04)文春砲で朝が来る撮影中のスタッフへの暴行(腹蹴り)が報道されたが、その後本人の釈明があった。

『両手が塞がって自由が効かない河瀬にとって、急な体の方向転換は恐怖でしかなく、防御として、アシスタントの足元に自らの足で抵抗しました。その後、現場で起こった出来事を両者ともが真摯に向き合い、話し合った結果、撮影部が組を離れることになりました。撮影を継続させるための最善の方法だと双方が納得した上でのことです』
(報道より)

おそらくこの問題は、腹を蹴ったか、別のばしょを蹴ったか、あるいは何もなかったか──ではなく、この人が「文春にチクられてしまう人物」であることだろう。

そういうパワーバランスで仕事をしてきたゆえに、うらみをかかえたスタッフの誰かに文春にチクられてしまった、わけであって、かのじょの蹴りがどこへあたったか、あたらなかったか──は関係がない。

でなければ、どこを蹴ったのかわからないような瑣末時を、文春に暴露されるはずがない。
言うまでもないが人間、ヤな奴でなければ文春にチクられはしない。

すなわち園子温のセクハラなど、一連の告発に乗じて、日本の不良映画監督が挙がり、河瀬直美がそのひとりだった──という話である。

そのあと、東京五輪の公式記録映画「東京2020 SIDE:A」がカンヌ映画祭で上映される──とのニュースが入ってきた。

『河瀬直美監督(52)が手掛けた東京五輪公式記録映画「東京2020 SIDE:A」が、カンヌ映画祭(フランス、17日開幕)クラシック部門で上映されることが決まった。映画祭事務局が2日(日本時間3日)発表した。
映画史に残る名作の復刻版の紹介を目的に04年に始まった部門で、13年に小津安二郎監督の「秋刀魚の味」(62年)、15年に黒澤明監督の「乱」(85年)など劇映画の名作を上映。14年に市川崑監督が手掛けた64年の東京五輪記録映画「東京オリンピック」(65年)も上映された。』
(2022/05/03の報道より)

河瀬直美監督はこの報道に寄せて──
「ドキュメンタリーであり五輪文化遺産財団で永久に保存される作品。文化遺産としての映画を選ぶ部門に新作にもかかわらず選んでいただいたのは、この映画に託された時代の証言を未来永劫(えいごう)100年先までも語り伝えたいと評価してくださった表れ」と喜んだ。
──とあった。

『この映画に託された時代の証言を未来永劫(えいごう)100年先までも語り伝えたいと評価してくださった』──とは河瀬直美監督自身の希望的観測にもとづく発言である。けっしてカンヌ事務局がそう言ったわけではない。

東大での祝辞「ロシアを悪者にすることは簡単」発言も、BS番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」での不適切字幕での件もふくめ、とても胡散臭い人。

だが、権威あるアワードやプライズを獲ることは、その人物を大物に見せるし、いったん獲ると、その権威の庇護下でずっと生きられる。

ただし当人に小物の自覚がないと叩かれる。──という話。

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津次郎

3.0いかんといて

2021年4月26日
iPhoneアプリから投稿

精一杯の声が刺さる。死は隣り合わせにあることを知る者の声。古傷が呼び起こされる辛いシーン。吸い込まれぬよう、死と向き合い、生を感じる。
茶畑が美しい。

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Kj