劇場公開日 2007年6月23日

殯の森 : 映画評論・批評

2007年6月19日更新

2007年6月23日より渋谷シネマ・アンジェリカ、千葉劇場にてロードショー

物語はシンプルだが、テーマは深い

緑濃き山間の道を、土葬へ向かう人々が連なる。オープニングから、ゾクッとした。スクリーンから放たれている空気が違う。重厚にして厳粛。奈良を舞台に作品を撮り続けてきた、河瀬直美監督にしか撮れない絵だ。今回は日仏合作で、編集や音響を仏人スタッフに任せ、技術面のクオリティがアップした事も大きいが、それ以上に、映像作家としての成長が作品に広がりをもたせ、そしてカンヌ国際映画祭グランプリ受賞へと繋がったと、確信する。

従来の河瀬作品と言えば、ストリッパーの波乱な人生を描いた「火垂」も、子供を亡くした家族のドラマ「沙羅双樹」も、観客を半ば強引に自分の世界へ向けさせるきらいがあった。しかし今回は、観客を”殯(敬う人の死を惜しみ、しのぶ時間・場所の意)の森”へと寄り添うように誘う。グループホームで出会った、33年前に亡くした妻を想う認知症のしげき(うだしげき)と、幼子を亡くした真千子(尾野真千子)が、森を彷徨い“喪の仕事”をすることで共鳴し合う。河瀬監督の十八番であるドキュメンタリーの手法を生かしながら丁寧に追った2人の心の機微は、12歳の神童・坂牧春佳のピアノ演奏と相まって、観る者に否応なしに”生と死”を考えさせる。物語はシンプルだが、テーマは深い。

次回作は、一転、コメディを手掛ける河瀬監督。紛れもなくこれは、河瀬監督・第一章の集大成である。

(中山治美)

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