殯の森

劇場公開日:

解説

「萌の朱雀」「沙羅双樹」の河瀬直美監督が、“生と死”をテーマに認知症の男性と介護士の女性の交流を描き、第60回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた人間ドラマ。奈良県山間部のグループホームで暮らすしげきは、33年前に亡くなった妻の思い出と共に穏やかな毎日を過ごしていた。そこに介護福祉士としてやって来た真千子もまた、事故で我が子を失い大きな喪失感を抱えていた。ある日2人は、しげきの妻が眠る森を訪れるが……。

2007年製作/97分/日本
配給:組画

スタッフ・キャスト

監督・脚本
製作
エンガメー・パナヒ
撮影
中野英世
音楽
茂野雅道
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受賞歴

第60回 カンヌ国際映画祭(2007年)

受賞

コンペティション部門
グランプリ 河瀬直美

出品

コンペティション部門
出品作品 河瀬直美
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映画評論

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(C) KUMIE / Celluloid Dreams Productions/ Visual Arts College Osaka

映画レビュー

2.0疑惑

2022年5月18日
PCから投稿

個人的に疑惑の映画。昔見たとき「なんかちがうぞ」と思った。あんを見てセンチメンタルポルノの作家だと知ったが、それまでは(この監督がなにかを)持ってるのか持っていないのかが正直わからなかった。当時海外の批評家もほめるのに苦心していたと記憶している。
とても「なにかを持っていそうな」映画だった。

ところでカンヌにゆかりある監督というと、今村昌平、大島渚、是枝裕和、黒沢清、河瀬直美、濱口竜介・・・。
カンヌの受賞歴は海外進出のきっかけにもなっていて大島渚はマックス、モン・アムール(1986)を、黒沢清はダゲレオタイプの女(2016)を、是枝裕和は真実(2019)を撮っている。今村昌平も海外企画のオムニバスに参加したことがある。濱口竜介もいずれ海外で映画をつくるだろう。

では河瀬直美はどうだろう。
登壇頻度からして最もカンヌにゆかりのある監督は河瀬直美である。
が、海外シゴトがほとんどない。(いちおうvisionが日仏合だがビノシュが出ているだけ)

個人的な憶測だが、河瀬直美はなんらかの根回しによってカンヌに好かれているのだろう──と思っている。
撮影にはアーティスティックな興趣があるとはいえ、作風はいずれも旅芝居。感傷が前面にでてしまう話。いわゆるお涙頂戴である。外国人がそれを解らないはずがない。

『北野武や是枝裕和ら映画監督の作品を手がけたプロデューサーのエンガメ・パナヒに脚本を持参して子連れで渡仏、直接面談の出資交渉の席で「あなたと組みたい」と口説いたという。パナヒは、ローラン・グナシア(アニエス・ベーのカルチャー・コミュニケーション・アドバイザーを経て、会社「ラボワット」を経営しているアート・ディレクター。2007年2月26日に寺島しのぶと結婚)を通じ、フランスの映画会社セルロイド・ドリームに紹介された。また、日本の文化庁やフランス側の公共行政機関「フランス国立映画映像センター(Centre national du cinéma et de l'image animée)」からも助成を受けている。
(中略)
ニューヨーク・タイムズは同作の受賞を評し「大きな驚き」(the biggest surprise) と表現した。』
(ウィキペディア「殯の森」より)

積極的な自己アピールの甲斐あって殯の森はカンヌのグランプリを獲った。
同ウィキには『「審査ではすごいバトルもあったらしい」と伝えたが』との一文がある。とうぜんそれは純粋な品質で推す審査員と、懇請された審査員とのバトルであったことだろう。NYタイムズの「驚き」の評は端的にこの授賞の奇を伝えている。

さいきん(2022/04)文春砲で朝が来る撮影中のスタッフへの暴行(腹蹴り)が報道されたが、その後本人の釈明があった。

『両手が塞がって自由が効かない河瀬にとって、急な体の方向転換は恐怖でしかなく、防御として、アシスタントの足元に自らの足で抵抗しました。その後、現場で起こった出来事を両者ともが真摯に向き合い、話し合った結果、撮影部が組を離れることになりました。撮影を継続させるための最善の方法だと双方が納得した上でのことです』
(報道より)

おそらくこの問題は、腹を蹴ったか、別のばしょを蹴ったか、あるいは何もなかったか──ではなく、この人が「文春にチクられてしまう人物」であることだろう。

そういうパワーバランスで仕事をしてきたゆえに、うらみをかかえたスタッフの誰かに文春にチクられてしまった、わけであって、かのじょの蹴りがどこへあたったか、あたらなかったか──は関係がない。

でなければ、どこを蹴ったのかわからないような瑣末時を、文春に暴露されるはずがない。
言うまでもないが人間、ヤな奴でなければ文春にチクられはしない。

すなわち園子温のセクハラなど、一連の告発に乗じて、日本の不良映画監督が挙がり、河瀬直美がそのひとりだった──という話である。

そのあと、東京五輪の公式記録映画「東京2020 SIDE:A」がカンヌ映画祭で上映される──とのニュースが入ってきた。

『河瀬直美監督(52)が手掛けた東京五輪公式記録映画「東京2020 SIDE:A」が、カンヌ映画祭(フランス、17日開幕)クラシック部門で上映されることが決まった。映画祭事務局が2日(日本時間3日)発表した。
映画史に残る名作の復刻版の紹介を目的に04年に始まった部門で、13年に小津安二郎監督の「秋刀魚の味」(62年)、15年に黒澤明監督の「乱」(85年)など劇映画の名作を上映。14年に市川崑監督が手掛けた64年の東京五輪記録映画「東京オリンピック」(65年)も上映された。』
(2022/05/03の報道より)

河瀬直美監督はこの報道に寄せて──
「ドキュメンタリーであり五輪文化遺産財団で永久に保存される作品。文化遺産としての映画を選ぶ部門に新作にもかかわらず選んでいただいたのは、この映画に託された時代の証言を未来永劫(えいごう)100年先までも語り伝えたいと評価してくださった表れ」と喜んだ。
──とあった。

『この映画に託された時代の証言を未来永劫(えいごう)100年先までも語り伝えたいと評価してくださった』──とは河瀬直美監督自身の希望的観測にもとづく発言である。けっしてカンヌ事務局がそう言ったわけではない。

東大での祝辞「ロシアを悪者にすることは簡単」発言も、BS番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」での不適切字幕での件もふくめ、とても胡散臭い人。

だが、権威あるアワードやプライズを獲ることは、その人物を大物に見せるし、いったん獲ると、その権威の庇護下でずっと生きられる。

ただし当人に小物の自覚がないと叩かれる。──という話。

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津次郎

3.0いかんといて

2021年4月26日
iPhoneアプリから投稿

精一杯の声が刺さる。死は隣り合わせにあることを知る者の声。古傷が呼び起こされる辛いシーン。吸い込まれぬよう、死と向き合い、生を感じる。
茶畑が美しい。

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Kj

4.0人は、生まれる前はどこにいたのだろう?

2021年1月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 奈良の山間にあるグループホーム“ほととぎす”。おじいちゃん、おばあちゃん達は軽度の認知症。その中の一人、しげき(うだしげき)は33年前に妻・真子が亡くなってからずっと彼女の面影を心の奥にしまいこみ生きていたのだ。新しくホームにやってきた介護福祉士の真千子は、しげきの妻との思い出が詰まった大切なリュックを何気なく手に取ってしまい、彼に突き飛ばされてしまう。

 自信を失いかけた真千子に、主任の和歌子(渡辺真起子)は静かに見守り、「こうしゃなあかんってこと、ないから」と励ます。茶畑でのかくれんぼなどによって、次第に打ち解けていく真千子としげき。しげきの妻の墓参りへと真千子が連れていくことになったのだが、その途中車が脱輪して、彼女が助けを呼びに行っている最中、しげきが姿を消してしまう・・・

 視覚的には緑が映え、鳥のさえずり、穂のざわめき、川のせせらぎといった聴覚効果によってとても癒される。これによって、しげきの失踪という慌しい事件もどこか神秘的な方向へと進むのです。まるで『もののけ姫』に出てくるような奥深い森。迷った二人は雨にもたたられ、洞穴の中で一晩過ごすことになってしまう。一瞬、ドキッとさせられる映像にも温かみが感じられ、二人のスキンシップによって生きていることを実感させられた気分にも。

 “殯”という意味は最後に明らかになるのですが、「喪も上がり」が転じて死者の霊魂を慰めるといったようなこと。死んだらどこへ行くのだろうという老人の素朴な疑問よりも、「生まれる前はどこにいるんだろうね」という言葉のほうが新鮮でした。生まれて死ぬことを繰り返すと人口密度も高くなって居場所さえなくなりそうだ。33回忌というのは故人が仏の道に入る意味もあり、これを機会に供養を打ち切ることが多い。その節目の法要ということもあったのだろうか、しげきにとっては妻を土に帰すような自然な行動をとったのです。

 真千子は幼き我が子を亡くしてしまった過去を持つだけに激流で泣き叫ぶところは観客であってもドキリとするし、しげきが墓標を見つけたシーンなどは観る者にとっても嬉しく思えてくる。ただし、生と死に関するテーマはいくつもの捉え方ができそうだし、墓標が本当は何だったのかもわからない。また、終盤にはファンタジーも感じるけど、認知症患者の頭の中を理解するためには必要なのでしょう。想像するに、自分の日記も土に埋め、妻とのお別れをしたのだから、しげきの認知症は今後加速するのでしょう。これからが大変だぞ、真千子!と励ましたくもなりますが、介護することによって生きている実感を味わえるのだと思います。

 河瀬直美監督の舞台挨拶付だったので、撮影に関するエピソードも興味深く拝聴できました。グループホームでは、ほとんど素人の演技をリアルにするため、スタッフと寝食をともにし打ち解けてから撮影に入ったとのこと。これは是枝裕和監督の『誰も知らない』の手法と同じではないですか!とにかく、素人の演技に脱帽・・・

【2007年10月映画館にて】

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kossy

3.0タイミングを選ぶ映画

2020年11月30日
PCから投稿

観る時やコンディションを選ぶ映画だなと思った。
また、観客の技量さえも量る映画。

最初は発展していく物語なのかなと思って観ていたら
浄化する映画だった。

多くを語らない河瀬直美監督らしい
潔さや真摯さをひしひしとかんじる作品だった。

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JYARI
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