没後10年以上を経て、フランスでの回顧上映が実現するなど再び脚光を集めている森田芳光監督が、1999年に制作した作品です。
同年に森田監督は『39 刑法第三十九条』(1999)を公開しており、『家族ゲーム』(1983)、『ときめきに死す』(1984)で新鋭監督として登場して以来キャリアを積み重ね、『失楽園』(1997)に続いて監督としての円熟期を迎えようとしていました。
この年はまた、『死国』や『リング2』公開など、いわゆる「Jホラー」ブームのただ中にあったため、森田芳光作品というよりも「Jホラーの一作品」という見方もされがちでした。
実際のところ、内野聖陽演じる若槻の日常が徐々に狂気に浸食されていく過程など、Jホラーの特徴ともいえる要素を押さえた作りにはなっています。
同時にまた、黄色の特徴的な使い方など、本筋を支える細部に森田作品ならではの要素がちりばめられていて、数多く作られたJホラー作品の一つ、という範疇には収まらないような異彩を放っています。
本作を特徴づけているのはやはりなんといっても大竹しのぶの名演(怪演)で、テレビでお馴染みの口調そのままなのに、それが何とも言えない恐ろしさをたたえているところがすごい。
内野や西村雅彦の様子の演技ももちろん素晴らしいのですが、大竹しのぶはそれをさらに凌駕している感。
ただ後半に至って、ある人物(ってぼかしても誰のことか一目瞭然だけど)の姿を通じて現代社会に息づく狂気を描こうとしたのか、あるいはその人物を超常的な力も備えたモンスターとして描こうとしたのか、いろんなホラー演出を混ぜ込んだため少し方向性が見えにくくなったように感じました。
もちろん特定のジャンルに収まらない作風が森田作品の魅力であることは十分承知の上ですが。