「家庭という唯一無二の幸せ」素晴らしき哉、人生! sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
家庭という唯一無二の幸せ
とにかく温かい気持ちになれる素晴らしい作品だった。
冒頭ジョージという男を自殺から救う事が出来たら翼を授けようと二級天使のクラレンスが天から遣わされるシーンから始まり、何やらファンタジーの幕開けかと思えば中身はしっかりとした人間ドラマだった。
少年時代に氷った水に落ちてしまった弟を助けた代償に左耳の聴覚を失ってしまったジョージ。それでもアルバイトをしながら懸命に働き、雇い主のガウアーが間違って毒薬を処方してしまったのを未然に防ぐ活躍をする。
ジョージの父親は住宅金融を設立し貧しい人達の為に尽力するが、町のボスで銀行家であるポッターは強欲な男で彼を目の敵にしている。
このポッターという老人が物語中ジョージを苦しめることになる。
ジョージの夢は世界中を飛び回って大金持ちになることだったが、父親の死をきっかけに住宅金融の社長の座につくことになり、やがて世界に出る夢も、大学に行く夢も全て諦めざるを得なくなる。
金融危機が起こった時も、新婚旅行に使う為のお金を人々に分配し、自分の事を後回しにして貧しい人々の為に尽くす彼の姿に感動した。
裕福な生活が出来るわけもなく、廃屋同然の館を改装して質素な生活を送るジョージは、ポッターの元で働けば豪勢な暮らしが出来ると誘惑されるが、信念に基づいてこのチャンスを退ける。
しかし、人々の為に働くジョージに天のいたずらか、最大の試練が訪れこのままでは破滅というところまで追い詰められてしまう。
自分がいない方が世の中は上手く行くと自棄っぱちになったジョージは橋の上から飛び降りて自殺を図る。
そしてここで冒頭のクラレンスが登場するが、二級天使だからか色々と要領が悪いのがなかなか面白かった。
もしも、ジョージが存在しなかったら世界はどうなっていたか。
彼一人の存在がいかに多くの人に影響を与えたか、彼が人の為に動いた事によっていかに多くの人が救われたか分かるシーンが続くが、ジョージにとっては残酷な現実のオンパレードだった。
様々な夢を諦めたジョージにとって、たった一つ手に入れた幸せがメアリーとの結婚だったのではないかと思う。
弟ハリーの卒業パーティーで出会った二人が、互いに引かれていく姿は観ていて美しかった。
ダンスを躍りながらプールに落ちるシーン、その後にユニフォーム姿とバスローブ姿というアンバランスな格好で空き家の屋敷の窓ガラスを割れば夢が叶うと二人で石を投げるシーンが心に残る。
そして、恋人サムからの電話を二人で聴いている時の距離感の近さ、そこでお互いが意識しあっている姿、ついに結婚を決めるまでの流れが素晴らしかった。
新婚旅行が流れてしまった後に、親友のエスコートもあり、廃屋の屋敷で二人だけで立派な晩餐をするシーンも印象的だった。
そして、彼らの間に生まれた四人の子供達。彼らの存在がいかにジョージの心の支えになっていたかは計り知れない。
そして、ジョージが存在しない世界は、当然ながら彼らの存在しない世界だ。
未だに独身で図書館から出てきたメアリーは別人のように輝きを失っていた。
その姿を見たジョージはついにクラレンスに、元の世界に戻してくれと懇願する。
再び元の世界に戻ったジョージ。どん底まで堕ちて、その後にさらに最悪な世界を見てそこから戻ってきただけなので、事態は何も好転していないのだが、彼の胸の中は幸せでいっぱいだ。また愛する妻と子供達に会える。
結果的に彼が今までに貧しい人達に尽力したおかげで、彼に恩を感じる人達の心を動かし最大のピンチを乗り切る。
最後は誰もが幸せな表情をしている。時にこの世は残酷で人の為に尽くした事が仇となったり、予期しない悲劇に見舞われたりする。
しかし、自分ではなく人の幸せの為に行動したことは、いつか自分の身を助けてくれる。やはり幸せは人の為に生きる事の中にあるのだと気づかされた映画だった。
ジェームズ・スチュワートの若々しさと、メアリー役のドナ・リードの可憐で意志の強さを感じさせる表情が素敵だった。