ライフ・イズ・ミラクル
劇場公開日:2005年7月16日
解説
「黒猫・白猫」「アンダーグラウンド」でヨーロッパの映画賞を席巻、本年度カンヌ映画祭の審査委員長を務めたエミール・クストリッツア監督が、祖国旧ユーゴスラビアの歴史を背景に、実話を基に描いたラブ・ストーリー。ボスニアの小さな村の鉄道技師ルカは、妻とサッカー選手を夢見る息子と平穏な日々を送っていたが、紛争勃発で激変。妻は去り、息子は徴兵されて一人暮らしになったルカは、ムスリム人の女性サバーハに出会う。
2004年製作/154分/セルビア・フランス合作
原題:La Vie Est Un Miracle!
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
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2022年4月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
ー 自称”ユーゴスラビア人”のエミール・クストリッツァ監督の「アンダーグラウンド」や「オン・ザ・ミルキー・ロード」では、鵞鳥、牛、猫、馬など多数の動物が登場する。
今作で、最も多く、重要なシーンで登場するなは“ロバ”である。
御存じの通り、ロバには”愚か者”と言う意味と、”辛抱”という意味があり、今作ではそれが暗喩として、効果的に使われている。-
■1992年、内戦勃発直後のボスニア。鉄道技師・ルカ(セルビア人)は、兵隊に取られたサッカーを愛する息子ミロシュが敵側の捕虜になったことを知る。
そんな中、息子の捕虜交換要員である女性・モスリム人のサバーハを人質として預かることに。奇妙な共同生活を送るうち、ルカと彼女の間に愛が芽生えていく。
◆感想
・大作「アンダーグラウンド」で、ユーゴスラビアの解体過程を物凄い皮肉を込めて描いたエミール・クストリッツァ監督。
今作では、ボスニア紛争を同じ視点で、シニカルユーモアと民族間の壁を越えたルカとサバーハの愛に落ちる過程を描いている。
・ドッカンドッカン、降り注ぐ爆弾の中、ルカは友人とチェスをし、連れて来られた異民族のサバーハを優しくもてなす。
・そして、数度、効果的に描かれる、線路上に佇むロバの姿。
・登場人物は相変わらず、超個性的でありながら、内面には善性を持った人物として描かれている。
<今作は、エミール・クストリッツァ監督の、同一地域に住んでいたのに、民族が違うだけで争う事への怒りと、民族間の諍いを越えた愛を描いた人間賛歌の作品なのである。>
2021年12月18日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
忙しない人間模様が繰り広げられ家畜と言う名の動物たちや陽気な音楽が所構わず鳴り響く楽しげな世界観。
クストリッツァが描く戦争は、悲惨さや哀しみを内包しながらも陽気に楽しく時には滑稽に生きる人間をコメディかのように表現した反戦映画を撮り続けている稀な映画監督だと思う??
ボスニア紛争が勃発した過酷な状況を生き抜く人々や動物たち、そんな弱者をコミカルにキャラが強い人物像で描くからこそ、哀しみだけを中心に描いたらあまりにも悔しすぎるでは無いか!?
全てを悟ったような物哀しい表情が印象的なロバのミリチャは救世主のような存在に思える。
2021年7月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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『アンダーグラウンド』を見逃したままになっているので、この映画の正当な評価を下すことなんて出来ないんじゃないかと思っていました。しかも前半部分では、ノー天気な鉄道マニアのルカ(スラヴコ・スティマチ)とサッカー選手の息子ミロシュ(ヴク・コスティッチ)とおとぼけな仲間たちが登場する緩いギャグ映画かと感じたのですが・・・なめてかかってました。息子が徴兵にとられ、ボスニア紛争が激化するにつれ、ルカのおとなしい内面が爆発寸前にまで昂ぶっていったのです。
平和なブラスバンドの演奏と鉄道模型。戦禍もなかなか及ばないような山奥の村。民族紛争や政治色を前面に出さず、家族や友人を大切に想う男に突如襲いかかってきた戦争を描写する。ルカにとっては犬と猫との争いのようなものだったのかもしれない。さすがにクマが意味するものは敵だったのかもしれないが、敢えて追求する場面を少なくしていたのかもしれない。それほど平和的な男のもとへ息子が敵の捕虜になったと知らせが届き、代わりに相手国の看護師サバーハ(ナターシャ・ソラック)を預かることになった。
息子とサバーハの捕虜交換のために同居していただけなのに、二人に愛が芽生えた頃から、感情が激しく揺れ動く。逃亡のためとはいえ、人を殺してしまうという人生の汚点をも経験するが、数日間のうちに人生の浮き沈みを全て味わうこととなり、絶望の後、自ら死を選ぼうと線路に横たわるルカであった。トロッコ、車、列車といった乗り物や、郵便配達人や実父の面白キャラ。まるで神の使いであるかのような意思を持った動物たち。全てがルカに奇蹟を与えるために生き生きと映りました。
【2005年12月映画館にて】
「アンダーグラウンド」で正真正銘、みんなの度肝を抜かした旧ユーゴスラビア・サラエボ出身のクストリッツァ監督は、今作でもまずは娯楽に徹してます。ちなみに邦題は無冠詞のミラクルですが、英題や原題はちゃんと「a」や「un」がついてます。ここが本作を観るに当たって失望しないための注意点。
切ないラブコメと呼ぶのが適切なのでしょうが、そこに戦争が絡み、話は尋常でなくなってきます。それなのにこの人の映画に出てくる登場人物は相変わらず天然。開き直った天然さとでも言うのだろうか、本当にこの人の映画の登場人物は、もっと恵まれた環境にいる日本人からすれば焦るくらい天然なのです。そしてそこにいつも通り、なんともいい味だした動物が出てきます。特に、今作のヒロイン(?)のロバ、さいこーです。
「アンダーグラウンド」の最後の奇跡は、まさしく映画史上空前の奇跡でしたが、今回の奇跡はそれほどでもない。でも、こんな奇跡はひょっとしたら毎日みんなに起きているのかもしれませんね。