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異常に身体が頑丈な男デヴィッドと“ミスター・ガラス“と呼ばれるほど骨折しやすい体質の男イライジャの数奇な運命が描かれたSFサスペンス『アンブレイカブル』シリーズの第1作。
フィラデルフィアで発生した列車脱線事故。131人という死者を出す大惨事の中、唯一の生存者であるデヴィッドだけはかすり傷ひとつ負っていなかった。
コミックの研究家でもある画商、イライジャはそんな彼に目を付ける。骨形成不全症という先天性疾患により、非常に骨折をしやすい体質の彼は、自分とは正反対の“絶対に壊れない肉体“を持つ、スーパーヒーローの様な人間が存在すると考えていたのである。
イライジャとの出会いにより、デヴィッドは自分の肉体の異常性とその使命を自覚してゆくのだが…。
監督/脚本/製作は『シックス・センス』や『スチュアート・リトル』(脚本のみ)の、名匠M・ナイト・シャマラン。なお、シャマランはドラッグのディーラーとしてカメオ出演もしている。
主人公、デヴィッド・ダンを演じるのは『ダイ・ハード』シリーズや『シックス・センス』の、名優ブルース・ウィリス。
デヴィッドを導くコミック専門の画商、イライジャ・プライス/ミスター・ガラスを演じるのは『ジュラシック・パーク』『パルプ・フィクション』の、レジェンド俳優サミュエル・L・ジャクソン。
『シックス・センス』(1999)の圧倒的大成功により一躍時の人となったシャマラン。その翌年に公開された本作は「彼こそが次世代のスピルバーグだっ!」等といった称賛の声を一発で掻き消し、世界中を困惑の渦に叩き込んだ。
「もしも自分がスーパーマンである事に気が付かずに中年になってしまったら…」という、トンデモなストーリー。一応はスーパーヒーロージャンルの映画でありながら派手なアクションシーンは一切なく、ただただブルース・ウィリスが悩んだり困ったりするという、一体何を観させられているんだ……?と頭を抱えたくなる珍品中の珍品である。
世間では賛否両論を生んだが、『シックス・センス』の様なわかりやすいエンタメとは一線を画すこの奇妙さにハマる人も多く、年々評価が高まっている。今では「史上最高のスーパーヒーロー映画」の一つだ!という意見まであるのだとか。……流石にそれは褒めすぎな気が…💦
あのタランティーノもファンを公言しているらしいが、確かにこのおかしみはクセになる。臭いとわかっていてもついつい嗅いでしまうみたいな、ジワジワと観客を蝕む中毒性があると思う。
太極図が示す様に、この世の中は「陰」と「陽」、2つのバランスの上に成り立っている。……まぁそれが本当かどうかは知らんが、ALS患者の様に身体が全く動かない人もいれば、大谷翔平の様なバケモノ級のフィジカルエリートもいるというのは事実。ガラスの様に脆い肉体を持つものがいるという事は、その対極に位置する“完全無欠“な肉体を持つものもいる筈だという考え自体はあながちトンチキな説だとは言い切れないかも知れない。
本作の凄い…というか頭おかしいところは、その考えとスーパーヒーローという誰の目から見てもフィクションな存在とを混ぜ合わせてジャンル映画にしちゃった点にある。
「んな訳ねーだろっ!」とツッコミたくなる様な展開の数々が、物凄くシリアスな雰囲気を携えて描かれているので、真面目なのかふざけているのかが全くわからない。
「俺ってもしかして風邪を引いた事がない…?」「俺ってもしかしてベンチプレス無限に挙げられる…?」みたいな何それっ!?を真剣にやっちゃうというこの変テコさ。この壊滅的なバランスの悪さこそがシャマランの真骨頂であり、メジャー2作目にして早くもそれが開花したという感じがありますね。
スーパーヒーローであるにも拘らずその事に自覚していないデヴィッド。この無意識の葛藤は、ミドル・クライシスのメタファーとしても読み取れる。
「目を逸らしてきた本当の自分を認め、それを受け入れる事でしか鬱抜けはなし得ない」というメッセージ性を持った物語だと受け止めれば、本作はそれほどトンチキな映画という訳ではないのかもしれない。
この悶々とした想いを抱えるデヴィッドを演じたブルース・ウィリスの演技力は賞賛に値する。絶対に死なないという点では『ダイ・ハード』(1988)のマクレーンと共通するのだが、それとは全く違う形で不死身の男を演じ切った。
彼の虚な表情と所在なさげな振る舞いにより、デヴィッド・ダンというトンデモなキャラクターにリアリティが生まれている。アクションスターという印象が強いウィリスだが、実は非常に演技派であるという事が本作を観れば分かる事だろう。
ウィリスとサミュエル・L・ジャクソン。並外れた存在感を放つ両巨頭の演技合戦こそが、本作最大の見どころなのかも知れない。
あっと驚くオチは見事。『シックス・センス』に続き、またしても観客に衝撃を与える事に成功した。
何か起こりそうで起きない。凄い事になりそうでならない。普通なら腹を立ててしまいそうなものだが、それすら許せてしまうのはやはりこのオチあっての事だと思う。
逆に言えば、オチを知った状態で本作を観てしまうとその衝撃は激減してしまう事だろう。『ユージュアル・サスペクツ』(1995)しかり、この手のドンデン返し系映画はそこが弱点ですよね。
ネタバレされた後で本作を鑑賞した人がどういう感想を抱くのかは気になるところ。それでもなお楽しめる魅力が本作にはあると個人的には思うのだけれど。
シャマラン作品はいくつも観てきたが、その中で一番出来が良いと思ったのはやはり『シックス・センス』。しかし、一番シャマラン味が強いと感じたのは本作だった。
シャマランも本作に自信を持っていたのか、その17年後にまさかの続編『スプリット』(2017)を公開。さらに『ミスター・ガラス』(2019)という作品まで作って三部作にしちゃったんだから驚いた。一体続編ではどういう物語が展開するのか、期待しながら鑑賞を進めていきたいと思う。