ミュンヘンのレビュー・感想・評価
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若者の義憤を利用して暗殺者に仕立て上げ、金以外は全く援助しない「無かった者」
今なお際限なく続くテロの残虐。生きて来た者が一瞬にして死体となる空しさ。報復が報復を呼び殺戮の成果を誇示するテロ。空爆だって同じだ。
目線を下げたカメラ、モノトーンのドキュメンタリータッチで鮮やかに描いたサスペンス・アクション。陰鬱な暗殺者を好演するエリック・バナに感情移入するほど気分が滅入ってくる。
親の功労をヨイショし、若者の義憤を利用して暗殺者に仕立て上げ、金以外は全く援助しない「無かった者」にされたあげく切り捨てられるのは国家優先のスパイと同じ。親の敵を求めて全国行脚、死んでいった武家時代もあった。
そして家族を持つテロリストはいつ襲ってくるか分からない恐怖に心を病んでゆく。第一次大戦のガスと塹壕、ベトナムのジャングル、アフガン・イラクの近代兵器と自爆テロ。劣化ウラン。ロシアの侵攻。戦場から帰った兵士に平穏な日常はおとずれない。
とはいえ平和であるべきミュンヘンオリンピックの選手村で、11人もの自国の若者の命が無惨に奪われて「ああそうですか」ではすまないだろう。だからこんな長くて短い映画ができた。
今回のワンシーンは、小部隊でテロ3人が女としけ込むアパートに踏み込み、撤退時に相手ガード部隊ともみくちゃになるまでの、夜の市街戦だろう。
ハッと顔が合い「パン!」と短銃の乾いた音がする絶妙な間と、空気を切り裂く鉛の滑空音。スピルバーグならではの熟練した手腕が緊張した場面の臨場感を盛り上げるベストシーンだった。
憎しみの連鎖
国民の存在を抹消して殺人者に仕立てあげる国家
西ドイツオリンピックでイスラエル選手団がテロによって殺害されたことは当時はあまりに子どもで全くわかっていなかった。その後パレスチナとイスラエル問題であることは知ったが報復が続いたことはこの映画で初めて知った。「シンドラーのリスト」は見ていないがこの映画ではどちらかに肩入れするということもなく、CIAやKGBも絡んでいるとかモサドは絶対入っているのに実働構成員は存在のない立場にさせられる。諜報機関の冷酷さと胡散臭さにぞっとした。
ドイツはイスラエルに優しすぎる、という言葉があったけれど、それは本当に仕方ないと思う。70年代頃だろうか、ドイツの若者(高校生?大学生?)が数週間か数カ月イスラエルのキブツに滞在して、という話はよく聞いた。農家に滞在して農作業をしたりなど。それがドイツのalternativeな生活様式にも影響与えたと思う。その「キブツ」もセリフの中にあってリアルさを感じた。
一方でヨーロッパ各地の多様な個性が映像によく出ていた。英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、アラビア語、ヘブライ語(もあったかな?)、そして国や街の特性。フランス郊外は太陽光が柔らかく穏やかな自然、一方街ではジャン=ポール・ベルモンドの顔のポスターが円柱広告塔(リットファス・ゾイレ)に貼ってあった。オランダでは運河、移動は自転車。ロンドンでは雨降る夜の街。人を殺す男達は特に子どもや女性には注意するが、だんだん鈍感にならざるを得なくなる。そんな自分に絶望して自死を選ぶ仲間達を見て苦しむ。
バナが適役でとても良かった。静かで冷静な彼がだんだんと大胆に冷徹になり更に疑心暗鬼になり自分自身がベッドでなくクローゼットの中に寝るようになる。料理が上手でテーブルいっぱいの食事場面、自分の子どもが話せるようになってその声を電話で聞いて泣くバナ。若くて声も若々しい金髪ダニエル・クレイグ、青い瞳の美しいこと!そしてほんの少しだけれどブライプトロイ、テデスキとドイツ、イタリアの俳優も出ていて嬉しかった。ジョン・ウィリアムスの音楽に派手さはなくエンドロールに流れる音楽は悩みと苦しみと辛さと優しさが溢れていた。
プライベート・ライアンとは違い過ぎる
報復
実話だから恐ろしい。
そっちの話?
本当に、なんて重たいものを背負った民族なんだろう
民族全体としての「自分たちの国」を持つことに対する情熱は、私の理解の及ぶ範囲ではない。
あれこそ世代を超えた「悲願」なんだろう。
主人公とアリの不思議な対話の中で、そんなことを考えた。
敵を殺すことで祖国のヒーローになれるとしても、なぜ彼らはそこにそこまでのエネルギーをかけられるのか。
何もかもが信じられず、自分の存在を消された状況で生きることで、混乱をきたした主人公。
祖国よりも、家族の安全と幸せを願った主人公。
彼の思考回路は、民族の存続や、悲願達成を願う文化の中では受け入れられるものではないのかもしれないが、私は彼の考え方のほうが自然に感じられる。
スピルバーグは、911があってこの映画を撮ったらしいが、彼の結論は「こんなことをしていても何の解決にもならないし、永遠に殺し合いは終わらない」ということだろう。
私もそう思う。
そして、自分の夫がこんな仕事をしていなくて本当に良かった。
あんな状態で体を重ねられたら、私はそれを吸収しきれない。
世の中にはきっと、とんでもない仕事をさせられている夫を支えている女性が沢山いるんだろうな……。
ユダヤ系のスピルバーグがこの映画を撮ったのは、シンドラーのリストと同じく、自身のルーツを考えるためもあったのではないだろうか。
また爆弾の量を間違えちゃったよ・・・ってシャレにならないんですけど・・・
イスラエルとパレスチナの仁義なき戦い。復讐が復讐を呼び、際限なき憎しみが連鎖する。ご存知のとおり、スピルバーグ監督はユダヤ人であるけど、どちらが悪いなどといった次元の映画ではないことは確かだ。1972年のミュンヘン・オリンピックにおけるパレスチナの“黒い九月”というテロリスト・グループは引鉄となり、報復合戦がはじまったという実話であり、国同士の諍いが一般人を巻き込んでいく様子はまさに戦争の縮図です。
イスラエル政府は諜報機関“モサド”に5人の暗殺指令を出すのですが、「契約などはなかった」という契約書に署名させる。完全に切り捨ての暗殺者。雇われたメンバーの人間性などは無視したかのような、単なる国策の道具にすぎない5人。爆弾専門家のロバート(マチュー・カソヴィッツ)などは爆弾処理しかしたことないおもちゃ屋さんなのに爆弾製造のプロとして扱われる(笑)。爆薬の量とか、不発手榴弾とか、笑うに笑えない設定によって果敢にも作戦の中枢をなすなんて・・・シリアスな中にも笑える場面が用意してあるのですが、重すぎるテーマのため場内は静かだったです。
報復の連鎖というテーマであるため、リーダーを命ぜられたアヴナー(エリック・バナ)はミュンヘン事変での悲惨な場面のトラウマを持ってしまったかのような描写。特に、自分たちがベッドや電話に爆弾を仕掛けたことから、ベッドに横たわるのも怖くなったかのようなアヴナーはリアルな演技でした。素人っぽい臨時の暗殺集団であることから、コミカルなスパイ映画のような雰囲気もあったのですが、そんな娯楽映画ではありません。イスラエルとパレスチナ、ユダヤとアラブの争いが今でも続いているんだ、と色々考えさせられる映画でした。
テロリストが“黒い九月(Black September)”にかけてあるのか、バンドが演奏している曲はサンタナで有名な“Black Magic Woman”だった。いい曲です。苦悩するエリック・バナは良かったですね。坂道の上では、ハルクに変身するかと思っちゃった・・・
【2006年1月映画館(試写会)にて】
正義という名の報復行為
ユダヤ人であるS. Spielberg監督が72年のミュンヘンオリンピック事件後の諜報機関モサドの一連の報復行動を描いた作品。
1948年イスラエル建国にはじまる、イスラエル人とパレスチナ人の血で血を洗う闘争。日本映画の「仁義なき戦い」をイメージしたら分かりやすいかも(いわば「カナン」の地をめぐる縄張り争い)。
ミュンヘンオリンピック事件に関わった重要人物を次々に暗殺しても、新たな指導者が出てきてイスラエルへの報復活動を実行させる。それを受けイスラエルがさらに次の報復措置をとる。憎しみと恐怖の連鎖。これはもう「戦争」としか言いようがない。
イスラエル国家の安全保障のためには、暗殺も容認されうるという考え方がイスラエル政府や軍、モサドのなかに存在する。
「敵」を殲滅し、命をかけて守るべき祖国とは何なのか。帰れる祖国の地が無いという経験がない日本人には本当に理解できないことかもしれない。
ユダヤ人であるS. Spielbergは本作品において決してイスラエルの正義を訴えるわけではなく、一歩引いた視点でイスラエルの暗殺チームリーダーの精神的苦悩を描いている。
スパイというより復讐劇に近く、とても観てて辛い、勘弁してください、それが人間だと思いたい
題名からミュンヘン事件のことをするのかと思ったのですが、その後のイスラエルの復讐というよりはイスラム社会への反撃だつたのですね。
ノーカントリーに代表されるような単なる人殺しではなく、心のある人間の苦しい心の様を観るにつけ、戦争やテロ、スパイ、抗争は非人間的だと感じさせられた点では、少しは救いもあったのだと、辛い中でも感じることが出来ました。
やはり、実話でないと共感が得られないのは、ハリウッドの殺人鬼映画がいかに異質なものなのかを物語っています。
ある意味現代のアメリカに対するアンチテーゼ、イスラエルは苦しんでいる、そういうことでしょうか。
神は人間の心の中にある、全ては人間次第、そう考えさせられた、deepな映画でした。
覚悟はしていたがヘヴィだった
2005年のスピルバーグ監督作品。
物語の枠組みは知っていて(実話ベースなので)覚悟して観たけれどずっしりと重かった。
サスペンス演出も流石の一級品。殺しをするのが素人臭さのあるチームでスマートでないところが恐ろしい。エグイ描写ありあり。(特に人が死ぬ様)
スピのショック演出が際立ってた。
復讐の連鎖は何も生まない、ということを体感で見せてくる映画。良かったがグッタリした。
知らない事だらけ!( ̄Д ̄;)
報復の報復の報復
ミュンヘンオリンピック事件と、その後のモサドによる報復を描く。
スピルバーグは、『シンドラーのリスト』も作ってるし彼自身ユダヤ系だからなんとなくイスラエル寄りなのかなと思っていたがこの映画ではどちらでもない。
専門家が集まった暗殺チームがブラックセプテンバーの幹部を爆弾などで暗殺していくところはスリリングで良い。
何故か暗殺しなくてはいけないパレスチナ人は知識人でいい人にみえる。それがリーダーのアヴナーを苦悩させる。
後半は、次第に追い詰める側から追い詰められる側になっていく。
結局は報復の報復、その報復の為の報復、終わりがない。
国のない悲しみは、私にわからない。
1972年の事件だが2018年の現在でもイスラエルとパレスチナの関係は、変わっていない。
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