マルホランド・ドライブ : インタビュー
「マルホランド・ドライブ」に登場する2人の主演女優のうち、事故で記憶喪失となるリタ(カミーラと2役)を演じるのが、ローラ・エレナ・ハリング。メキシコ出身のこのエキゾチックなブルネットは、ミスUSAに選ばれたり、伯爵夫人だったりという華やかな過去を持つ。公開直前、多忙なスケジュールをやりくりして来日してくれた彼女に、我々は独占インタビューを試みた。
実は映画化の話は5回もあったの
編集部
──リンチ監督は、「この作品がABCにボツにされ、みんなががっかりしている時に、ローラだけはいつも『大丈夫』って微笑んでいたんだ」と言ってましたが、それはどうしてですか?
「『マルホランド・ドライブ』はこのままじゃ終わらない、絶対どうにかなるって感じていたの」
──じゃあ、映画化が決まった時も、あまり驚かなかった?
「実は映画化の話は5回もあったの! いつも『映画化にやっとこぎ着けた』って電話がかかってきて、次の日には『やっぱり中止だ』っていう具合。それを5回も繰り返したのよ。デビッドからも直接、『マルホランド・ドライブ』は誰の目にも触れずに終わってしまうと聞かされてたんだけど、私は絶対人の目に触れる作品になるって信じてた。でも、こんなにたくさんの賞をもらったり批評家から絶賛されるとは思ってもいなかったわ」
──出演者の皆さんはリンチ監督を、詩人、アーティスト、天才、と絶賛してらっしゃいますが、具体的にはどういう瞬間にそう思ったのですか?
「彼のそばにいたからといって、彼が天才と感じるわけじゃないわ。実際の彼はとてもノーマルで優しくて愉快な人。でも一目彼の作品を観ると、凄いと思ってしまうのよ。映画はもちろん、彼の描く漫画、絵画、音楽……。そういったものは、彼が触れた途端に素晴らしいものに変わるの。彼は真のアーティストよ。彼は1日中、24時間、何かをクリエイトしている。素晴らしい創作意欲の持ち主で、想像力がとても豊かなの。だから、私自身も常に刺激されるのよ」
──リンチと仕事をして、何か変わりましたか?
「彼は私に素晴らしいチャンスを与えてくれたの。彼は初めて、私という人間を的確に見て引き出してくれた人。もちろんこれまでも、私を見てくれた人はたくさんいたわ。でも誰も私の本質や全体像を誰も捉えたことはなかったと思う。彼が初めて、“私”という人間をきちんと見てくれたの。今までハリウッドでは誰も私を気にとめなかった。でも今は注目されるわ。『あ、あの娘だ!』ってね。そういう意味では、昔に比べて皆からの尊敬を受けられるようになったと思う。彼の作品に出たことによって、私のステイタスは確実に上がったの。仕事のオファーもずいぶん来るようになった。そういう意味でも、私にとって『マルホランド・ドライブ』は特別な作品だわ」
──観客の中には、この映画が分からないといって挫折してしまう人もいます。何かアドバイスをいただけますか?
「ここ数年、抽象的な映画のジャンルは、確実に確立してきたと思う。去年も何本かそういう映画があったでしょ? この映画も頭で観るのではなく本能で、心で観てほしい。感覚をオープンにして観れば、心でこの映画のメッセージやストーリーが感じ取れるはずよ」
──謎を自分なりに解釈しようと、何度も観るリピーターも増えてますね。
「この映画には、どの部分が現実でどの部分が幻想か、自分で考えながら観るという観方があるの。映画の意味はそれぞれ人によって違うと思うわ。それでいいんだと思う。この映画のすばらしい点は、観る人それぞれが抱えている問題が違うのと同じように、その観方、感じ方、その人の心の琴線の触れ方、それが全部異なるということよ」