「心の内側:信頼・裏切り、そして守護」ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
心の内側:信頼・裏切り、そして守護
坊やが少年に変わった作品。
可愛くて一生懸命で時々悪戯するお子ちゃまから、自分の中にある破壊願望(敵討・イライラ感)などのダークな部分への目覚め。理想化したい父の見たくない部分も見えて戸惑ったりして…。
己の意志がはっきりしつつ、出来ることも増えてきつつも、まだ卵の殻をお尻にくっつけている年齢。思春期。ぞくぞくします。
物語はまだ”学校”という佳き人々に”守られた”舞台を中心にしている。
嫌味でハリー達を目の敵にしているように描かれているスネイプ先生。
真似妖怪でのくだりにはよくぞ思いついた!と作者にアイデア賞をあげたい運び。本で読むより、ものすごいインパクト。しばらく頭から離れない(笑)。
でもそれよりなにより人狼からハリー達三人組を守ろうとした姿。惚れてしまいました。その後明らかになるハリ―との関係を知れば「ああ」と思うけど、それが無くとも”生徒”を守るために同じ行動とったんだろうな。三人をかばっているもの。
人が苦しむ思い出を糧としているディメンダー。心の中の恐怖を真似て人を恐怖に陥れる真似妖怪。
対する守護霊。楽しい思い出で真似妖怪を撃退する。
生きる知恵、守り神を貰った気分。
物語としては、前作でアットホームなロンの家族の温かい関係を描き出した後で、今作で焦点が当てられているのはハリーの家族を巡る話。ハリ―に親友がいるように、父の仲間、その関係性。いじめ、劣等感。裏切り。心に湧き上がる様々な想い、行動。誰が味方で誰が敵か、そんな二元論では語れない。
そんな心の動きをみせてくれるはずだった今作。
公認の動物もどきは7人しかいないはずじゃなかったの?と、そのオチは無理やりにとってつけた感がなきにしもあらずで、原作を読んだ時点から戸惑ってついていけなかった。
映画では、ハリ―の両親の死についての「実は」話が思いっきり短くまとめられすぎていて「えっ?その展開でその心変わり?」と、置いていかれ感が半端ない。ここをもっと丁寧に描いてほしかった。
加えて、あちゃと思ったのは、シリウスとルーピンの身長差。別々に観る分には最高なんだけどコケた。獰猛・凶悪な(と言われている)シリウスの方がルーピンより若干高いと思っていた。勝手なイメージが崩れただけなのだけど。配役って難しい。
と、あっけにとられているうちに、ラストへの展開。
そのオチって…。と原作ではあっけにとられたが、映画の方が迫力で見せ切ってくれる。
ハリ―の活躍・ハリーの想い。切ない。
でも、まだ、ほんわか心が温かくなる展開で終わる。
ディメンダーや真似妖怪、守護霊の映像化とか、監督が変わってダークっぽい(前作までがゴールド系なら、今作はシルバー系)色調でまとめられつつも、ホグワ―ツの周りの空の広さ、森の深さ等見事な映像化に酔いしれた。
しかし、夜バスといい、風船・ディメンダー・真似妖怪・人狼・動物もどき…。脳内イメージを超えている。ディメンダーなんて悪夢に出てきそう。最初の登場シーン怖すぎ。
俳優たちもすごい。
これでもかというほど名優だらけ。
リックマン氏 VS オールドマン氏の対決なんて!!!このお二人のやり取りだけで映画が終わってもいいくらい(≧▽≦)。でも、さっさと終わる(映画の尺からしたら当然ですが)。
夜バスの車掌もいい味出している。
そして、特筆したいのが、この名優たちに囲まれて、決して見劣りがしない少年・少女たち。ハリー、ロン、ハーマイオニー、ドラコ…。
特に、ラドクリフ君は、これだけの名優を相手にしても引けを取らない。まだ、ワトソンさんはちょっと固いけれど。それでも前作・前々作と比べたら今っぽくなってきた。
ロンの活躍は今回あまりないけれど、画面のちょっとしたところでの表情が自然。素でやっている?というほどはまっている。ハリーとハーマイオニーだけだと、ぎちぎちになって、肩に力が入ってしまうが、ほどよく力を抜けさせてくれる。
とはいえ、一番のみせどころだと思っていた、人間ドラマが描き切れていないのが悲しい。
これだけの俳優がそろっているから余計に勿体ないと思ってしまう。
(原作は、ハリーたちの1年を描くスタイル。そこに、さまざまな伏線が張り巡らせられているから、全部を忠実に実写化しようとすると、月1回の12回ドラマでないと不可能になってしまう。
そこを今回はハリーに絞って作り込んだから、ツッコミたいところもあるし、上記のように文句も言っているけれど、よくまとめたと思います)