あの夏、僕たちが好きだったソナへ : 映画評論・批評
2025年8月12日更新
2025年8月8日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
“恥と後悔と初恋で作られた”青春の記憶が呼び起こされるラブストーリー
台湾の人気作家ギデンズ・コーが、自伝的小説を自らのメガホンで映画化した青春ラブストーリーの名作「あの頃、君を追いかけた(2011)」を原作にした映画「あの夏、僕たちが好きだったソナへ」は、2002年の韓国を舞台に、その空気感や設定で新たな物語として作り上げられたノスタルジック・ラブストーリーだ。多くの人が大人になるにつれて心の奥にしまった青春の愛おしい日々の記憶を呼び起こしてくれる。
オリジナルの「あの頃、君を追いかけた(2011)」は、1990年代の台湾中西部の町が舞台。主人公は悪友たちとつるんではくだらないイタズラで授業を妨害して困らせていた男子高校生だ。悪友たちも憧れる優等生の女子生徒を監視役として後ろの席に担任教師が座らせたことで、わずらわしく感じながらも、次第に彼女にひかれていくという物語。その年の台湾で年間No.1の大ヒットを記録し、青春映画の金字塔との呼び声も高い。

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クラスメイトたちとふざけあい、先生に叱られたり、一緒に歩いた帰り道や雨宿りしたバス停など、当時は他愛なくても今ではすべての瞬間が愛おしい“あの日々”が描かれる。「あの夏、僕たちが好きだったソナへ」は基本的にはオリジナルの展開を踏襲しているが、その中で韓国ならではの90年代の空気感や登場人物の心の機微が織り込まれている。かけがえのない日々、初めての恋や痛みを経て、主人公が大人になっていく様を、本作が長編デビューとなるチョ・ヨンミョン監督が丁寧に、繊細に紡ぎ上げている。
そして、主人公の男子高校生ジヌをドラマ「初恋は初めてなので」などで知られるジニョン、ヒロインの女子高生ソナを韓国の人気ガールズグループ「TWICE」のダヒョンが映画初出演にして初主演で瑞々しく演じ、二人のケミストリーで透明感と存在感をみせる。また、青春時代をともに過ごした個性的なクラスメイトたちを演じた共演陣、ジヌの両親を実生活でも夫婦のパク・ソンウンとシン・ウンジョンが演じて脇を支えている。
オリジナルの「あの頃、君を追いかけた(2011)」は、日本でも山田裕貴と齋藤飛鳥の主演で2018年にリメイク(「あの頃、君を追いかけた」)された。初恋、夢、青春、友情など、あの頃、伝えられなかった思い。本作は時代設定や舞台が変わろうとも、観る者のノスタルジックな感情を誘う、甘くほろ苦い物語だ。台湾から日本、そして韓国へと受け継がれて作られた3作品を見比べれば、“恥と後悔と初恋で作られた”あなたの青春の記憶がより一層呼び起こされることだろう。
(和田隆)