未完成の映画

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未完成の映画

解説・あらすじ

「天安門、恋人たち」などの名匠ロウ・イエ監督が、中国・武漢に近い都市を舞台に、映画制作に携わる人々の姿を通してコロナ禍の「集団的トラウマの記録」をリアルに描いた作品。

映画監督シャオルイは10年前に中断された未完成のクィア映画を完成させるため、キャストとスタッフを集めて説得する。2020年1月、撮影が終わりに近づくなか、新種のウイルスに関する噂が広まりはじめる。やがてホテルがロックダウンされ、スタッフたちは部屋に閉じ込められたまま、すべてのコミュニケーションがスマホ画面のみに制限されてしまう。

フェイクドキュメンタリーのスタイルを採りながら、コロナ禍で実際に撮影されたスマホの映像を盛り込んで多層的に描きだす。出演は「スプリング・フィーバー」のチン・ハオ、「二重生活」のチー・シー。2024年・第77回カンヌ国際映画祭では特別招待作品としてドキュメンタリー部門にて上映され、第61回台北金馬奨では劇映画部門の最優秀作品賞・監督賞を受賞した。第25回東京フィルメックスで観客賞を受賞。

2024年製作/107分/G/シンガポール・ドイツ合作
原題または英題:⼀部未完成的電影 An Unfinished Film
配給:アップリンク
劇場公開日:2025年5月2日

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映画レビュー

5.0名匠ロウ・イエ監督の虚構と現実世界に見事に翻弄される新感覚を味わえる傑作

2025年4月10日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

興奮

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ななやお

3.5Film is Archaeology

2025年6月5日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

There are many intriguing elements in Lou Ye's cut-up collage of a film, Unfinished. The most compelling aspect that stood out to me is the director's exploration of how film evolves—or devolves—over time. The narrative fluidly shifts between documentary footage, traditional film scenes, Zoom calls, and TikTok videos. This experimental approach might evoke comparisons to Jean-Luc Godard's later works, such as Farewell to Language or the more recent La Bête, both of which examine how our relationships with emerging technologies are reshaping narrative structures. However, unlike those films, which often mourn or satirize this new era, Lou Ye seeks to construct a cohesive meaning from these fragmented elements.

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Dan Knighton

4.0過酷な状況下で終わりなき道を歩み続ける

2025年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

ドキュメンタリーと劇映画の要素を併せ持ち、なおかつ地球上の誰もが体験したパンデミックの生々しい記憶を内包した異色作。鑑賞しながら思わず自分が登場人物の一人としてあの混乱の日々ともう一度対峙しているかのような気持ちに浸った。冒頭は製作チームが昔のPCに電源を入れ、懐かしい未完成映像を映し出すというノスタルジックな場面が描かれ、心残りを取り戻すための再撮影が始まり、かと思うと雲行きが怪しくなり、急に宿泊先が封鎖され・・・。刻々と事態は急変し、その都度、映画のジャンルがガラリと形を変える。これはある意味、社会、時代、政治体制、人といった一見バラバラな要素を「未完成」というテーマのもと、一本の線へと重厚に編み上げた映画だ。未完成とは、終わりがない、ということ。しかし決して絶望ではない。その中で、歩みを止めない、あきらめない。己の目線を貫き続けるロウ・イエ監督の心の叫びが聞こえてきそうな一作である。

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牛津厚信

4.0「青い凧」田壮壮

2025年6月4日
iPhoneアプリから投稿

「未完成の映画」は、
そのタイトルが示唆するような「未完成」とは何の事なのか、

現実と虚構の境界線上で観客を揺さぶり続ける意欲作だ。

ドキュメンタリーを予期している観客は、
その期待が裏切られる形でロウ・イエ特有の、
フィクションの世界へと誘われる。

「青い凧」の田壮壮がロウ・イエ同様、
撮影できない時期に、
インタビュアーとして朋友宮崎駿の創作の核心に迫った、
「『もののけ姫』はこうして生まれた」のような、

いわゆる「制作過程のドキュメンタリー」を想像したり、

「ロスト・イン・ラマンチャ」に見られるような撮影現場の切実な現実を覚悟したりするならば、

本作は異なるタイプの「切実さ」を提示する。

それは、モキュメンタリー風の体裁を取りながらも、
ロウ・イエの確固たる意志に基づいたフィクション作品として結実している点に圧倒されるかもしれない。

ボロボロのセーラームーンのモノマネ、
ひょうひょうと疾走する野良犬、
あるいは何の変哲もないQRコード、

同じホテルなのに、
各部屋に分断されて、

リモート飲み会をする、
各スタッフの顔(笑7割哀3割)、
顔(泣4割苦6割)、
顔(迷9笑1)と、

笑うしかない気持ち、
張り裂けそうな心、
微妙な感情のグラデーション全部乗せ、
というか、
全部魅せ、

一見無関係な要素を巧みに雄弁な武器として取り入れながら、
本作は観客を飽きさせないポップなエンターテインメント性を確立している。

そのポップさの裏、遠い背後まで、
監督が伝えたい切実なメッセージが隠されているのかもしれない。

スクリーンサイズの変化といった形式的な遊び心さえも、
登場人物の傷跡や足元から彼らの家族、

そして背景に横たわるコロナ禍といった現代社会の状況までをしっかりと射程に入れる、
ロウ・イエ監督ならではの視点が貫かれている。

この鋭敏さこそが、
監督自身が時に「撮れなくなる」状況に陥る理由なのだろう。

ジャハール・パナヒ、
ユルマズ・ギュネイ(youtubeで詳細を話してます)、
田壮壮、チャン・イーモウ、ジャ・ジャンクーといった、
名だたる監督たちが直面してきた表現の困難さと、

ロウ・イエ自身の創作への姿勢が、
観客のみならず、アジアの仲間、
あるいは世界中の人々が、

この作品を通じて静かに、力強く響き合うように、
鎮魂のトランペットが響き渡っていた。

本作は、単なるアイデア満載のエンターテインメント作品にとどまらず、社会の深層に潜む切実なテーマを、

ロウ・イエ独自の、
ドキュメンタリー以上、
フィクション未満の手法で炙り出した作品である。

観終わった後も、
その「未完成」が意味するものについて、
深く考えさせられるだろう。

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蛇足軒妖瀬布