ジョイランド わたしの願い

劇場公開日:

ジョイランド わたしの願い

解説

パキスタンで伝統的な価値観に縛られながら暮らす若い夫婦が、自分らしく自由に生きたいと願い揺れ動く姿を描いたドラマ。

パキスタンで2番目の大都市である古都ラホール。保守的な中流家庭ラナ家の次男ハイダルは失業中で、メイクアップアーティストの妻ムムターズが家計を支えている。ハイダルは家父長制の伝統を重んじる厳格な父から、早く仕事を見つけて男児をもうけるようプレッシャーをかけられていた。そんなある日、ハイダルは就職先として紹介されたダンスシアターでトランスジェンダー女性ビバと出会い、そのパワフルな生き方にひかれていく。

監督は、本作が長編デビューとなる新鋭サーイム・サーディク。本国パキスタンではLGBTQを描いたことで保守系団体の反発を受けて政府から上映禁止命令が出されたが、監督・出演者たちの抗議活動やノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイらの声明によって撤回された。2022年・第75回カンヌ国際映画祭にパキスタン映画として初めて出品され、「ある視点」部門審査員賞とクィア・パルム賞を受賞。

2022年製作/127分/G/パキスタン
原題または英題:Joyland
配給:セテラ・インターナショナル
劇場公開日:2024年10月18日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第75回 カンヌ国際映画祭(2022年)

受賞

ある視点部門
審査員賞 サーイム・サーディク

出品

ある視点部門
出品作品 サーイム・サーディク
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映画レビュー

4.0家族、社会、生き様が巧みに織り交ぜられた秀作

2024年10月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

パキスタンで一旦は上映禁止の憂き目にあったとか。保守的な考え方が幅を利かせる当国ではタブーに触れるのかもしれないが、しかし我々の目からするとこれは家族や社会をめぐるテーマを巧みに織り交ぜた優れたヒューマンドラマだ。一つ屋根の下で暮らす3世代家族。その中で不安定な立ち位置にいる、既婚者で無職の息子。ようやく得た仕事がトランスジェンダーの踊り手ビバのバックダンサーというところから物語はテンポよく展開し、どんな圧力にも屈せず力強く生きるビバと、家庭内で個を抑えながら生きる主人公とのギャップが、愛と憧れと軋轢を生んでいく。心が引き裂かれる場面もある。が、それ以上に、笑いもあり、表情も豊かで、街は躍動感に満ち、そして何より典型的な憎まれ役を設けることなく、各々にスポットを当てじっくり描写を重ねる語り口が秀逸。誰もが自分らしく笑顔で生きるにはどうすればいいのか。タイトルが投げかける余韻は切実で、深い。

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牛津厚信

4.0約束の海

2024年11月19日
Androidアプリから投稿

悲しい

難しい

家父長制が根強いパキスタンにて、気弱な男が良い嫁がいつつもトランスジェンダーのダンサーに惹かれていき…といった物語。

中々に難しい作品ですね。

父親が1番権限をもっているのは見て分かるが、嫁の2人も主張はしっかりしているし…権限に支配されているというよりも、自然とその状況を受け入れなきゃいけないような空気感が寧ろ怖いようにも感じましたね。

女性たちだけでなく、ハイダル自身にもその弊害が降りかかっている様子ではあるが、ハイダルもハイダルでなぁ…。

ビバの生きづらさも印象的。傍若無人な印象もあれど、それでも自分の信じた道を行く姿は力強い。おふざけダンサーに対峙するとことか特に。

それでもやっぱり辛いですよね。手術をしたい…という切なる願いがありつつ、やっぱりハイダルはそれを促して…ビバからすればそれは耐え難いことですよね。やっと愛せる人を見つけたと思った所で。。

そういう意味でも、実はヒジュラーはビバ1人ではなかったのかな。

そして忘れてはいけないのがムムターズ。ホント、よくできた人なのに。そんな人がこんな思いを…。これはこの世界に対する命をかけた復讐劇だったか。

兎にも角にも、この世界で生きづらい人々の姿をよく描いていた作品だった。

ひとつ言えるのは、この文化の中で生きるには、ハイダルは優しさと背中合わせにある弱さがデカかったことでしょうか。

まぁ、"男は強くあれ"…なんて言ってしまったら、それこそこの映画のメッセージを受け取れていないと思われてしまいそうですが、現実問題、この文化の世界では厳しかったですよね。

それでも、ハイダルとムムターズの出逢いには少し救いがあったかな。

自分も強く生きなくては、と思わされた作品だった。

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MAR

4.0これはよい映画だ!

2024年11月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

パキスタンの古都、ラホールでの物語。

この映画では、家父長中心主義が目立つが、一つはイスラム教の影響だろう、名にし負う男性中心社会。映画で出てきた劇場の観客は、男性が多かったし、おそらく彼らが気にしていた世間体はイスラム教の影響か。ただし、ラホールでの家父長主義は、それだけではない気がした。インドーパキスタン社会の伝統からくるものでは。

一見、家父長ファザーが、長男夫婦と3人(4人になった)の子供、次男夫婦からなる9人の大家族を仕切っているようには見える。しかし、実際には、女性がかなりの実権を握っていて、はっきり意見を言う。表立っては男性中心社会にみえるが、女性が財布を握っている日本の社会と、どこか似たところがある。

長男夫婦こそ、夫のサリームが妻のヌチを支配しているが、次男夫婦は、奥さんのムムターズの方が強く、夫を尻に敷いていることは皆が認めていた。第一、次男のハイダルは、長いこと外で仕事をせず、家事や兄貴の子供の面倒をみて、皆に慕われていた。

男性に強さが求められる社会では、南太平洋の国のように、第3の性が認められることがある。それがパキスタンにおけるヒジュラー、現代のトランスジェンダーと同じ。ところが、ヒジュラーは社会の目に負けず生きてゆく必要があるので強くならざるを得ないが、その周りには、弱い男たちが寄生することになる。それを象徴しているのが次男のハイダルだろう。家父長や兄貴からのプレッシャーがきつかったのか、彼は仕事を探しに出て、劇場のバック・ダンサーの職を得る。グループを率いているのが、ヒジュラーのビバ。

しかし彼が仕事に出るとなると、家で家事をこなす人間が必要になる。選ばれたのが、次男の嫁ムムターズ。彼女は、メイクアップ・アーティストの仕事に打ち込んでいたのに、心ならずも家に入る。しかも、ハイダルは、強いビバに惹かれて、秘書がわりとして働くようになり、家に帰るのも遅くなるばかり。しかし、ムムターズは、家の中では自分が上位だったプライドもあり、ハイダルに文句も言えず、孤独を深める。その全ての責任は、優柔不断なハイダルにあるのだと思う。

彼女が一番楽しかったのは、兄嫁のヌチ(彼女も本当はインテリア・デザイナー)と二人で、夜の遊園地(ジョイランド)で遊んだこと。それにしたって、家では問題が起きてしまったのだが。

この映画を見ていて、最初は戸惑った。私の目では、それぞれの役者を区別することは難しかったから。それまでの経緯もカットバックで示されるだけだったし、普遍化のためかイスラム教の影響も表面上、出てこなかった。だけど、我慢して見ていたら、次第にそれぞれの顔に特徴があることがわかり、漸く見分けることができた。最後まで見て、心が洗われ、救われるような気がした(カタルシス)。それぞれの人間が、ムムターズもビバも、それからハイダルも、自分の運命と懸命に戦っているように見えたから。

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詠み人知らず

2.5マダムは綺麗でした

2024年11月11日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

イスラム教徒が人口の大多数を占める国で作られた映画としてはセンセーショナルだと思うけど、内容としてはなんかいろいろ盛り込んで爪痕残そうと躍起になってるかのように必死さがなんだか哀れに思えた作品。

相手がクィアとか関係なく、出来る嫁に養われていた無職の夫が仕事を手にして外の世界に出ていった矢先に他の人に心奪われ、葛藤しながらも一線を越えてしまう決意をし……みたいなありがちなストーリー。ところどころに宗教観をベースにした考え方や発言が見られる点は勉強になるけど、総じてナンダコレ感が否めず悲惨。一体あたしは何を観させられているんだろう……『世の中の混沌』が伝えたいメッセージということなら百万歩譲って理解は出来るけど……なんて考えていたら2つ隣のお席に座られていたお爺さんが思わず普通の大きさの声で『なんちゅー映画だよ!』とついつい漏らしちゃってた。
うん、まさに(╭☞•́⍛•̀)╭☞それな。

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らまんば