ジョイランド わたしの願い

劇場公開日:2024年10月18日

ジョイランド わたしの願い

解説・あらすじ

パキスタンで伝統的な価値観に縛られながら暮らす若い夫婦が、自分らしく自由に生きたいと願い揺れ動く姿を描いたドラマ。

パキスタンで2番目の大都市である古都ラホール。保守的な中流家庭ラナ家の次男ハイダルは失業中で、メイクアップアーティストの妻ムムターズが家計を支えている。ハイダルは家父長制の伝統を重んじる厳格な父から、早く仕事を見つけて男児をもうけるようプレッシャーをかけられていた。そんなある日、ハイダルは就職先として紹介されたダンスシアターでトランスジェンダー女性ビバと出会い、そのパワフルな生き方にひかれていく。

監督は、本作が長編デビューとなる新鋭サーイム・サーディク。本国パキスタンではLGBTQを描いたことで保守系団体の反発を受けて政府から上映禁止命令が出されたが、監督・出演者たちの抗議活動やノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイらの声明によって撤回された。2022年・第75回カンヌ国際映画祭にパキスタン映画として初めて出品され、「ある視点」部門審査員賞とクィア・パルム賞を受賞。

2022年製作/127分/G/パキスタン
原題または英題:Joyland
配給:セテラ・インターナショナル
劇場公開日:2024年10月18日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第75回 カンヌ国際映画祭(2022年)

受賞

ある視点部門
審査員賞 サーイム・サーディク

出品

ある視点部門
出品作品 サーイム・サーディク
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映画レビュー

4.0家族、社会、生き様が巧みに織り交ぜられた秀作

2024年10月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

パキスタンで一旦は上映禁止の憂き目にあったとか。保守的な考え方が幅を利かせる当国ではタブーに触れるのかもしれないが、しかし我々の目からするとこれは家族や社会をめぐるテーマを巧みに織り交ぜた優れたヒューマンドラマだ。一つ屋根の下で暮らす3世代家族。その中で不安定な立ち位置にいる、既婚者で無職の息子。ようやく得た仕事がトランスジェンダーの踊り手ビバのバックダンサーというところから物語はテンポよく展開し、どんな圧力にも屈せず力強く生きるビバと、家庭内で個を抑えながら生きる主人公とのギャップが、愛と憧れと軋轢を生んでいく。心が引き裂かれる場面もある。が、それ以上に、笑いもあり、表情も豊かで、街は躍動感に満ち、そして何より典型的な憎まれ役を設けることなく、各々にスポットを当てじっくり描写を重ねる語り口が秀逸。誰もが自分らしく笑顔で生きるにはどうすればいいのか。タイトルが投げかける余韻は切実で、深い。

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牛津厚信

4.0【”逃げ出したい・・。”歴史的にイスラム教徒比率が高く、故に家父長制及び男尊女卑思想が強きパキスタンの若き夫婦の葛藤を描いた作品。彼の国の女性の位置づけと共に、最後半の展開が強烈な余韻を残す逸品。】

2025年5月24日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

難しい

ー ご存じの通り、パキスタンは長らく英領だったが、1947年に独立した際にヒンドゥー教徒の多くは新生インドへ。イスラム教徒はパキスタンと言う新しい国で生活を再開させた。この辺りを詳細に描いている映画としては「英国総督 最後の家」があるが、いづれにしろ、両国の諍いは今でも続いている。
  だが、パキスタンでは国内でも、以前として女性の就職率は低く、男尊女卑思想は根強いのである。-

■パキスタンの大都市・ラホールが舞台。
 保守的な中流家庭、ラナ家の次男・ハイダルは失業中で、厳格な父からの「早く仕事を見つけて男児を作れ!」というプレッシャーを受けている。
 一方、妻のムムターズはメイクアップの仕事にやりがいを感じ、家計を支えていたが、ハイダルが漸くダンサーとしての職を見つけたために、強制的に仕事を一時中断するように、一家の長や兄、そして気弱なハイダルから言われてしまう。
 ハイダルは、ダンサーとして舞台に立つ中、トランスジェンダーのトップダンサー、ビバ(自身でトランスジェンダーを公表しているアリーナ・ハーン)の周囲からの偏見や嫌がらせに負けず立ち向かう姿に、自分にないモノを感じ惹かれて行く。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・多分、今作は人生初のパキスタン映画である。パキスタンを舞台にしたインド映画は多数観て来たが。そして、今作程パキスタンの国情をストレートに表現している事に驚くのである。

・手元の今作のフライヤーを観ると、当初今作は、パキスタン国内での上映を全面的に禁じられたそうだが、通学途中にタリバンに襲撃されながら、奇跡的に一命を取り留め、その後の勇気ある行動でノーベル平和賞に輝いたマララさんを始めとした方々の支援により、上映が解禁されたとある。
 それくらい、本作の内容は、重いのである。

・今作の最も悲劇的な人は、私は矢張りラナ家の次男・ハイダルの妻のムムターズであろう。やりがいを持っていたメイクアップの仕事を奪われ、ダンサーの職を得た夫も自分よりもトランスジェンダーであるビバに惹かれて行く現実。
 彼女が兄嫁ヌチに、衝動的に”逃げ出したい・・。”と呟くシーンからの展開は観ていて辛い。
 悲しみに暮れる大家族ラナ家の中で、怒りを夫や義理の父、そしてハイダルにぶちまけるヌチの姿と言葉。”アンタたちが殺したのよ!”

・そして、ショットはハイダルの回想シーンである、ハイダルとムムターズが金網越しに話すシーンに移る。ムムターズはハイダルのプロポーズを受け、”ハンサムだから・・。”と笑いながら言い、更に”式のメイクアップは私がするわ。”と嬉しそうにハイダルに話しかけるのである。
 映画は、一人海に入って行くハイダルの後ろ姿を望遠で撮るショットで終わるのである。

<今作は、歴史的にイスラム教徒比率が高く、故に家父長制及び男尊女卑思想が強きパキスタンの若き夫婦の葛藤を描いた作品であり、彼の国の女性の位置づけと共に、最後半の展開が強烈な余韻を残す哀しき逸品なのである。>

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共感した! 6件)
NOBU

1.0しっかりと感情移入が出来る魅力な登場人物がいない

2025年4月7日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

ネタバレ! クリックして本文を読む
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ねこたま

4.0パキスタンのある家族の物語を通して何を見る?

2025年3月30日
iPhoneアプリから投稿

伝統的価値観と家父長制の閉塞感と、そこから逃げ出したいという自由への渇望、しかし結局は互いに首を締め合って狭い世界から抜け出せない現実。三すくみの社会は、あたかも『ホテル・カルフォルニア』の歌詞のようでもあるが、ひょっとすると外のば、その中で幸せに暮らしていられるのかも知れない。しかし、いったん、その外の自由を知ってしまったら耐えられないものに変質していく。さらに、ビバに象徴される外の自由な世界ですらも、その中では別の苦しみがあり、どこまで行っても決して呪縛からは逃れられないのかも知れない。

途中までは(狂言まわしのビバと共に)ハイダルの物語かと思っていたのだが、終わってみるとムムターズの物語だったのかなという気になる。だが、これら3人以外のすべての登場人物が形は違えど、それぞれに葛藤を抱えているという意味で即ち、観ている観客たちもその当事者とならざ得ない、ということを意味しているのであろう。

ちなみに、日本では2024年に公開だが、本作が作られたのは2022年。パキスタンで初めてLGBTQを扱った作品ということで本国では上映禁止になったのだが、2014年にノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんらの運動により公開されたそうだ。

なお、タイトルの「ジョイランド」はラナ家の近くにある遊園地の名前。ヌチとムムターズが家を空けて束の間の自由を楽しんだ場所でもある。そこで「願ったもの」はいったい何

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Tofu