アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 : 映画評論・批評
2025年1月14日更新
2025年1月17日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
「原点」を解き明かすことでトランプ氏の本質を炙り出そうとする傑作
1月20日、トランプ氏が再び米国大統領に就任する。ある者は歓迎し高揚感に包まれ、ある者は落胆し喪失感を覚える。受け止め方は人それぞれだが、昨年の大統領選挙でトランプ氏が圧勝した事実は変わらない。カナダ合併やグリーンランド(デンマーク自治領)買収を放言するトランプ氏を見ると「本質は何も変わっていない」という感慨を持つ者もいるかも知れない。
FacebookとInstagramを運営するメタ社は1月7日、第三者機関によるファクトチェックを米国で廃止すると表明した。「表現の自由を守る」ためだそうだが、トランプ大統領が第一次政権時に行なった虚偽発言、誤解を招く発言は3万件を超えている(ワシントン・ポストによる)。何が本当で何が嘘か分からないポスト・トゥルースの時代がまた到来するとすれば、重要なことはトランプ氏の本質と改めて向き合うことだろう。
映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」は、トランプ氏の「原点」を解き明かすことで彼の本質を炙り出そうとする傑作映画だ。
監督は、北欧ミステリー「ボーダー 二つの世界」(2018)のイラン系デンマーク人アリ・アッバシ。脚本はガブリエル・シャーマン。FOXニュースに君臨するも局アナに対する性的奉仕強要スキャンダルで失脚したロジャー・エイルズを描いたTVドラマ「ザ・ラウデスト・ボイス アメリカを分断した男」(2019)の原作・製作総指揮で知られるジャーナリストだ。
父親の庇護の下で不動産業に乗り出した20代のトランプ氏は、虚栄心に満ちているがウブで、野心を隠さないが経験が追いつかず、ささやくように話す若者に過ぎなかった。ところがNYの会員制クラブで一人の弁護士と知り合ったことから、彼の人生は大きく変わる。
その男の名前は、ロイ・コーン。検察官としてローゼンバーク夫妻事件(ソ連のスパイとして死刑判決)を手がけ、共産主義関係者を吊るし上げる「赤狩り」で名を馳せたマッカーシーの右腕として辣腕を振るい、ニクソンやレーガンといった共和党大統領からマフィアのドン、ジョン・ゴッティに至るまで、多くのクライアントを抱えたNYのフィクサーだ。
そのロイ・コーンから、若きトランプ氏は三つのルールを叩き込まれる。
ルール1「攻撃、攻撃、攻撃」(Attack, Attack, Attack)
ルール2「非を絶対に認めるな」(Admit nothing, deny everything)
ルール3「勝利を主張し続けろ」(No matter what happens, you claim victory and never admit defeat)
ロイ・コーンの攻撃性と独善性、勝利への執着性を素直に、そのまま受容したトランプ氏は不動産ビジネス界の大物に成長していく。大統領に上り詰めたトランプ氏の原点が赤狩り弁護士の「パクリ」だった事実を炙り出すこの映画、震えるほど面白い。
トランプ役は「アベンジャーズ」シリーズのセバスチャン・スタン。ロイ・コーン役は「パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間」(2013)のジェレミー・ストロング。二人とも目を疑うような、実物そっくりの圧倒的演技を見せつけ、第82回ゴールデングローブ賞の主演男優賞・助演男優賞にノミネートされた。
本作品がアメリカで公開された直後の昨年10月14日、トランプ氏本人は自ら運営するソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、この映画を「安っぽくて政治的に不快な中傷」の「ゴミの山」と決めつけ、製作陣を「人間のクズ」と罵っている。これは、自己防衛本能による防衛機制の典型的反応だ。やはり人の変わらぬ本質は、原点に立ち返ることで炙り出されるということなのだろう。
1月17日から全国公開される映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」、トランプ大統領の本質を知りたいと思う全ての人にとって必見だ。
(北島純)