クレオの夏休み

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クレオの夏休み

解説

6歳の少女と乳母の血のつながりを超えた愛の絆を、少女の目線からみずみずしくつづったフランス発のヒューマンドラマ。

パリで父親と暮らす6歳のクレオは、いつもそばにいてくれる乳母グロリアのことが大好きだった。ところがある日、グロリアは遠く離れた故郷アフリカへ帰ることになってしまう。突然の別れに戸惑うクレオを、グロリアは自身の子どもたちと住むアフリカの家に招待する。そして夏休み、クレオはグロリアと念願の再会を果たすべく、ひとり海を渡ってアフリカへ向けて旅に出る。

主人公クレオ役には、撮影当時5歳半だった演技未経験のルイーズ・モーロワ=パンザニを抜てき。監督は、共同監督を務めた前作「Party Girl」でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞し、本作が長編単独監督デビューとなる新鋭マリー・アマシュケリ。2023年・第76回カンヌ国際映画祭「批評家週間」のオープニング作品に選出された。

2023年製作/83分/G/フランス
原題または英題:Ama Gloria
配給:トランスフォーマー
劇場公開日:2024年7月12日

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映画レビュー

5.0子どもの目線を徹底して描いた傑作

2024年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

なんてすばらしい映画だ。鑑賞中、5歳の女の子に観客を完全に同化させるような、見事な視点。パリで父親と2人家族のクレオは、カーボベルデ出身のナニー、グロリアを母親のように慕っているが、彼女が祖国に帰国しないといけなくなる。すると、夏休みの間だけクレオはカーボベルデのグロリア宅に遊びに行くことになる。
カーボベルデの家では、グロリアの実の子どもたちが暮らしている。出稼ぎで何年も母親と離れていた子どもの一人は、白人のクレオに冷たくあたる。グロリアの長女が出産すると、彼女は赤ん坊につきっきりとなり、クレオは大切な人を奪われた気持ちになっていく。
近接のクローズアップとスタンダードサイズの狭い画角がすごく効いている。5歳の子どもの小さな世界、低い視線から見える視界の狭さを体感させる。グロリア役のイルサ・モレノ・ゼーゴは、実際にカーボベルデ出身でフランスでナニーをしていたらしい。大変素晴らしい演技を見せてくれた。
陽光きらめくカーボベルデの海岸も美しかった。忘れられないショットがたくさんある宝石のような美しい映画。

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杉本穂高

4.0演技未経験の5歳少女のみずみずしくも心に触れる表情に惹き込まれる

2024年7月12日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

83分の小品でありながら、少女クレオと島国出身の乳母グロリアが交わす深い絆に心奪われずにいられない。二人の間にはスクリーンで仰ぎ見るに値する特別な化学反応がある。それこそ眼科検診で見せるクレオの弾けるような天真爛漫な言動と、それを懐深く抱きしめるグロリアの愛情をはじめ、全ての場面が瑞々しく我々の体内へと伝わり、忘れがたい思い出となって蓄積されていくかのよう。人の死や故郷に残す子供のことなど、クレオにはまだ理解しづらい事情は多い。だが一方で、我々は本作を通じて、クレオの中でどんな感情が渦巻いているのかについて窺い知ることが可能だ。思えば本作では誰もが「母の不在」に直面している。その痛みを受け止め、寄り添いあい、またひとつ成長していく。幼いながらゆるやかな気づきに至る主演ルイーズの表情が素晴らしく、時折挟み込まれるアニメーションもまた、遠い記憶から聞こえる優しい呼び声のように温もり一杯に響く。

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牛津厚信

オジサンの夏休みに観る

2024年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ああ、僕は疲れて気が弱っているのかなぁ、それとも歳のせいなのかなぁ。丁寧に撮られたこんな繊細なお話を観ると素直にウルウル来てしまいました。

 母を亡くして父とパリで暮らす6歳のクレオは、アフリカから来た乳母のグロリアが大好きです。ところが、そのグロリアが故郷に帰ってしまったので寂しく、ひと夏だけグロリアの島で過ごさせてもらうと言うお話です。

 もう、このクレオがとにかく可愛いのです。大好きな人とずっと一緒に居たい、一人占めしたいという幼い思いがそのまま素直に記録されています。それは勿論脚本に基づくストーリーなのでしょうが、僕には幼い女の子の日常を捉えたドキュメンタリーに思えました。日本の映画では子供が出て来る映画は「上手い子役だなぁ」と思うのですが、外国の映画では「どうしてこんなに自然なのだろう」といつも思います。子供の撮り方のどこが違うのでしょう。

 それほどにありのままの子供の姿が映っているので、

 「ああ、子供はやっぱり誰かに守られてる安心感が欲しいんだなぁ」
 「クレオは大きくなってからもう一度この島を訪れたのかなぁ」
 「こんなにも豊かな思い出は人間を形作る大きな柱の一本になっただろうな」

と様々な思いが広がりました。物語の途中でふいに挿入されるアニメーションが独特の優しさを増幅します。

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La Strada

4.0揺れ動く子供心を静かに描く

2024年8月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

まるでドキュメンタリー映画のように、クレオとグロリア達の夏の日々を静かに観る。
時折、挿入されるアニメーションが、これは創作なのだと思い出させてくれる。

徹底的に、一人の子供の心の動きにフォーカスした作品。
世界はクレオを中心に回っているようだ。
我々は、1人の少女の動きと、声と、表情と、アニメーションを通じて、彼女の心に徐々にシンクロしていく。もう遠い昔になってしまって、断片的にしか残っていない記憶を呼び覚まされるように。

育ての親への恋慕、独占できなくなった愛情、疎外感、嫉妬、行き場の無い怒り、突然表に出てきた亡き実母への想い、そして別れの覚悟。
5歳半の子供の中で、こんなにも複雑で豊かな感情が渦巻いている。
ルイーズ・モーロワ=パンザニの表現力に目を奪われる。
そして、実写映像や言葉で表現しきれない子供の心象風景を、島に吹き付ける強い風や独特のアニメーションで表現するという演出手法に唸らされる。

アフリカの離島で過ごした夏。旅立ちのため空港へ向かう車の中で、グロリアが映る。クレオの視点から徐々に遠ざかり、大人の視点に戻っていく。
抱擁の後、2人はお互い覚悟をしていたかのように静かに離れていく。
監督が最後に撮ったのは、クレオではなく、グロリアの涙であり、愛情を注いでくれた自らの乳母へのメッセージだった。
このラストシーンの演出が素晴らしい。
私は、子供から大人に戻り、クレオと過ごした日々を振り返る。そこに、何か言いようのない、純粋で、もう取り戻すことのできない哀愁に満ちたものを感じた。

静かな余韻の残る作品だった。

(2024年映画館鑑賞21作目)

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TS