VESPER ヴェスパー

劇場公開日:2024年1月19日

VESPER ヴェスパー

解説・あらすじ

壊れて分断された地球を舞台に、絶望的な世界から抜け出そうとする少女の戦いを独創的かつ壮大な世界観で描いたSFダークファンタジー。

生態系が壊れてしまった地球では、一部の富裕層のみが城塞都市シタデルに暮らし、貧しい人々は危険な外の世界でわずかな資源を奪い合いながら生きていた。外の世界で寝たきりの父と暮らす13歳の少女ヴェスパーは、ある日、森の中で倒れている女性カメリアを見つける。シタデルの権力者の娘だという彼女は、墜落した飛行艇に一緒に乗っていた父を捜してほしいという。うまくいけばシタデルへの道を切り拓けるかもしれないと考えたヴェスパーは、父の制止を振り切ってカメリアの頼みを引き受けることに。しかし地域を支配する残忍なヴェスパーの叔父ヨナスもまた、墜落した飛行艇の行方を追っていた。

主人公ヴェスパー役は「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」のラフィエラ・チャップマン。新鋭クリスティーナ・ブオジーテ&ブルーノ・サンペルが監督を務め、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭で最高賞にあたる金鴉賞を受賞した。

2022年製作/114分/G/フランス・リトアニア・ベルギー合作
原題または英題:Vesper
配給:クロックワークス
劇場公開日:2024年1月19日

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

フォトギャラリー

  • 画像1
  • 画像2
  • 画像3
  • 画像4
  • 画像5
  • 画像6
  • 画像7
  • 画像8
  • 画像9
  • 画像10
  • 画像11
  • 画像12
  • 画像13

(C)2022 Vesper - Natrix Natrix, Rumble Fish Productions, 10.80 Films, EV.L Prod

映画レビュー

3.0 ヨーロッパ産インディペンデントSFの潜在能力を感じる

2024年1月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

リトアニア出身の監督らが中心となって制作されたヨーロッパ産SF映画。もはやインディペンデントでもこれほどの物語のスケール感を創出、展開できるのだ。映像技術をとってもメジャー作品と見劣りしないどころか、むしろハリウッドと一線を画したオリジナリティ溢れる質感が感じられる。例えば、大自然にSF描写が散りばめられるような実写とCGの有機的な融合ぶりに関しては一見の価値ありで、特に主人公が得意とするバイオ技術をVFXでどう表現するかについての並々ならぬこだわりが伝わってくる。その一方で、やや贅沢なことを言うなら、登場人物の感情や絵画的な絵づくりを優先させるあまり、カメラワークが緩慢、物語運びもありきたりで、観る者を退屈させてしまう面もないとは言い切れぬ。これを作り手の将来性を見据えたプレゼンテーションの機会と見れば大きな成果だが、純然たるエンタメとして厳しく見るなら、乗れるかどうか反応は割れるかも。

コメントする (0件)
共感した! 3件)
牛津厚信

3.5 スケール感はやや期待外れだが、映像やメッセージ性は悪くない

2024年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

1982年生まれのリトアニア人女性クリスティーナ・ブオジーテと、1974年生まれのフランス人男性ブルーノ・サンペルという、珍しい組み合わせの映像作家コンビによる4度目のコラボ作品。ブオジーテ監督は2003年から短編映画を作っていたようだが、2008年の初長編監督作「THE COLLECTRESS」(英題)でサンペルと共同で脚本を執筆。同じ担当で2012年の「ナイトメアは欲情する」を作ったのち、2014年のオムニバスホラー「ABC・オブ・デス2」の一編で初の共同監督、そしてこの「VESPER ヴェスパー」で2度目の共同監督という流れになる。

手つかずの自然を思わせる荒涼とした山々や森でのシーンはブオジーテ監督の出身国であるリトアニアで撮影されたという。知識がほぼ皆無だったので地図を見たら、北欧圏に位置し、東にベラルーシ、南にポーランド、バルト海を挟んで西にデンマークがある。北緯は樺太の最北端とほぼ同じだそうで、寒々とした空気感が映像から伝わってくる。

ポスターやキービジュアルに「宇宙戦争」のトライポッドに似た巨大構造物があり、壮大な世界観を予感させるのだが、そのわりにはかなり小ぢんまりした話で、ハリウッド製SF大作のような派手なアクションやアドベンチャーを期待すると肩透かしになるかもしれない。2020年日本公開作「囚われた国家」もそうだったように、背景の巨大な物体で大作感をほのめかしながらも本編は意外に地味というのはたまにあるけれど、こけおどしというか張子の虎というか。資料の監督インタビューによると、アメリカの企業が実際に特許取得した遺伝子組み換え種子では、1度だけ収穫ができたあと2世代目以降の種子が成長するのを阻害するプログラムが組み込まれるのだという。そうした科学技術の行き過ぎや環境破壊のリスクに警鐘を鳴らす姿勢は評価できるし、人工知能と知性、女性同士の連帯といった要素も現代的だが、やや切れが甘く、雰囲気先行になってしまったか。

ヴェスパーを演じた2007年イングランド生まれのラフィエラ・チャップマンは、中性的な魅力が印象に残る。特殊な世界観の中でキャラクターを自然体で表現できる演技力もあり、今後が楽しみな若手だ。次回主演作は今年英国で公開予定の「Sweet Brother」だが、予告編を見たところクセが強めのカルトホラーといった趣で、日本で劇場公開されるかは微妙かも。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
高森 郁哉

4.5 救世主現る

2025年9月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

『ヴェスパー』──種子と通貨と、少女の歩く未来
風が吹いていた。
少女は、焼け落ちた家の前に、そっと種を植えた。
それは、彼女が自らの手で作り出した、世界で唯一の「実を結ぶ種」だった。

この物語は、未来の話だ。
けれど、どこかで見たことのある風景が広がっている。
荒廃した大地、空を覆う灰色の雲、そして「シタデル」と呼ばれる富裕層の塔。
そこでは、食料も、空気も、命さえも、特許と契約で管理されている。

種は、実を結ばない。
それは、現代のF1種と同じだ。
一度きりの命。
再生を許さない設計。
農民は、毎年、企業から種を買わなければならない。
それは、まるで通貨のようだ。
いや、通貨そのものかもしれない。

アフリカの国々が、いまだにフランスの中央銀行に通貨を握られているように。
CFAフラン。
ユーロと連動しながらも、主権を持たない貨幣。
それは、経済という名の檻。
努力しても、自由にはなれない。
『ヴェスパー』の世界もまた、同じ構造の中にある。

少女ヴェスパーは、その檻の中で生きている。
母は去り、父は動けず、叔父は支配者の手先となり、
人造人間のカメリアだけが、彼女の心に寄り添ってくれた。
だがそのカメリアもまた、シタデルでは「存在してはならないもの」だった。

なぜだろう?
なぜ、心を持つ者が排除され、
心を失った者たちが世界を支配しているのか。

ヴェスパーは、知らない。
けれど、知ろうとする。
そして、歩き出す。
自分の作った種を手に、
それを風に乗せて、塔の上から放つ。

それは、希望だった。
スターウォーズのレイア姫が、R2-D2に託した設計図のように。
絶望の中にある、たったひとつの光。
それが、ヴェスパーの種だった。

この物語は、未来の寓話であると同時に、
私たちの現在を映す鏡でもある。
種を奪われ、通貨を奪われ、
それでもなお、希望を手放さない者たちの物語。

少女は歩く。
誰も知らない未来へ。
その背に、兄弟姉妹たちが続く。
彼女のまいた種が、いつか芽吹くことを信じて。

そして、風が吹く。
それは、変化の風かもしれない。
あるいは、まだ名もなき革命の予兆かもしれない。

エッセイの原文

2024年 フランスなどの合作作品
解説にはSFダークファンタジーと分類されている。
この作品には人類の未来に向けた「思考」が描かれているが、そもそもユーロ圏の人類がこの思考を持っていることになる。
近未来のディストピア
描き切れない伏線のようなものが多数埋没するかのように置き去りにされている。
母が家を出た理由
今現在の父と事故と補償
叔父の謎
ジャグと呼ばれる人造人間カメリアと、それを作ったイリアスは何がしたかったのか?
合成植物
そして食料となる植物の種は、今でいうF1種 今でもすでにそうなっている。
そして格差社会 富裕層の住むシタデルという居住地
このディストピアの中でたくましく生きようとする主人公ヴェスパー
物語の型にスターウォーズやナウシカなどの要素を入れている。
この世界の問題を、種を付けない植物とその専売特許によっているというのは、フランスがアフリカ諸国に押し付けているCFA(セーファ)フランと同じ構造だろう。
これはフランスの中央銀行(フランス銀行)が保証しており、ユーロと固定レートで連動しているが、問題は通貨主権の欠如で、アフリカ諸国が自国の金融政策を自由に運用できないことや、結果自国努力では自立できないようにされている。
この物語の背景だ。
そして使用されているモチーフは「モンサント」
自国の悪を他国の悪と置き換えているのが、この作品の評価しにくい点でもある。
さて、
一人の人間として、ヴェスパーは立派だ。
人類の未来を考えながら行動している彼女はまさしく救世主だろう。
面白いのが人造人間のカメリアで、彼女は非常に心が豊かだ。
まるで心を失った人間よりもずっと人間的だ。
彼女の存在はシタデルでは禁止されている。
それこそが謎で、この世界を格差的にした張本人が、ディストピアを作ることでシタデルが維持されると思っているのかもしれない。
まるで陰謀論でもあるフリーエネルギーの存在と同じだ。
叔父が殺されたのも、カメリアの発見が遅れたからだろう。
そしてよくわからないのが、何故ヴェスパーは種を付ける品種のことを叔父なんかに話したのだろう?
それは当然シタデルに伝わってしまった。
逃げきれないことを悟ったカメリアは、あの不思議な能力でヴェスパーを眠らせてしまう。
彼女は朝目覚めるが、爆破された自宅の前に彼女が作った種を植えた。
そして歩き始めると、ヴェスパーの後を着いてくる4人の兄弟姉妹
そしてピルグリムたちの後を尾行する。
そこにあったタワー
ヴェスパーはそこによじ登り、遠くにシタデルを見る。
そして風に任せて種を飛ばした。
何もかもが象徴的過ぎてよくわからない。
この社会のことをよく知らない少女ヴェスパー
彼女を守るために犠牲になった父とカメリア
人の心を失ってしまった人々
タワーへ登り、シタデルを見た時、ヴェスパーは「彼らとなど取引できない」ことを悟ったように思った。
いつか自分も捉えられてしまう。
この種は「希望」
これこそまさにスターウォーズのデススターの設計図をR2-D2に仕込んだレイア姫を連想とさせる。
絶望の淵と、それでも「ある」希望
これこそこの作品が言いたかったことなのだろう。
もう妄想でしかないが、この作品を通し、自分たち自身を引き合いに出しつつ、希望を指し示せるのは非常に人間らしいと感じた。

コメントする (0件)
共感した! 5件)
R41

3.0 遺伝子操作

2025年8月27日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

興奮

地球は環境破壊が進み、遺伝子操作で打開しようとしたが失敗する。
その結果、分断化が進行、労働力確保のため人造人間を作り出す。
ヴェスパーは寝たきりの父親を介護しながら、植物の研究をしている。
ある時、飛行機が墜落し・・・。
映像の作り込みが見事で、飽きることはない。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
いやよセブン