瞳をとじて

劇場公開日:

瞳をとじて

解説

「ミツバチのささやき」などで知られるスペインの巨匠ビクトル・エリセが31年ぶりに長編映画のメガホンをとり、元映画監督と失踪した人気俳優の記憶をめぐって繰り広げられる物語を描いたヒューマンミステリー。

映画監督ミゲルがメガホンをとる映画「別れのまなざし」の撮影中に、主演俳優フリオ・アレナスが突然の失踪を遂げた。それから22年が過ぎたある日、ミゲルのもとに、かつての人気俳優失踪事件の謎を追うテレビ番組から出演依頼が舞い込む。取材への協力を決めたミゲルは、親友でもあったフリオと過ごした青春時代や自らの半生を追想していく。そして番組終了後、フリオに似た男が海辺の施設にいるとの情報が寄せられ……。

「コンペティション」のマノロ・ソロが映画監督ミゲル、「ロスト・ボディ」のホセ・コロナドが失踪した俳優フリオを演じ、「ミツバチのささやき」で当時5歳にして主演を務めたアナ・トレントがフリオの娘アナ役で出演。

2023年製作/169分/G/スペイン
原題または英題:Cerrar los ojos
配給:ギャガ
劇場公開日:2024年2月9日

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(C)2023 La Mirada del Adios A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.

映画レビュー

4.5ビクトル・エリセの31年振りの長編映画は、ある種の軽やかさが魅力だ...

2024年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ビクトル・エリセの31年振りの長編映画は、ある種の軽やかさが魅力だった。自分の映画撮影中に失踪した映画俳優を探す旅に出る。そのきっかけを与えるのは映画ではなく、テレビ番組である。ネットの登場でテレビすらすでにオールドメディアだが、ビクトル・エリセは、映画とテレビのこの半世紀近くの関係になんとなく想いを馳せているのだろうか。
主演俳優の謎の失踪は、主人公の心の巨大な穴となっている。失踪の理由という大きな謎を推進力にして縦糸を、主人公の人生を横糸をつむいで映画は1つの人生をしっかりと映し出していく。老境にさしかかった人の人生を描く作品だが、どこか涼やかな印象を与える作品だったのが良かった。
『ミツバチのささやき」のアナ・トレントが出演していることが大きな話題となっており、そういう点でこの映画をエリセ監督自身の自伝的作品と見る向きが多いようだ。そう見てもいいし、そう見なくてもいいと思うが、もっと開かれた見方をした方が楽しめるように個人的には思う。
映画は「見る芸術」だが、映画作家を描く作品に「目を閉じる」とタイトルというのも洒落っ気があっていい。心地良余韻に浸れる作品だった。

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杉本穂高

4.0寡作の巨匠の半生が投影された優美な大作

2024年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

知的

ビクトル・エリセ監督の長編第2作「エル・スール」(1983)は、当初予定されていた後半の撮影が製作トラブルにより実現しなかったという。第1作「ミツバチのささやき」(1973)で主演に抜擢したアナ・トレントを本作で再び重要な役で登場させ、「ミツバチ~」と接点のある台詞を語らせたことも考え合わせると、この第4作「瞳をとじて」は寡作の巨匠が自らの映画人生を投影した作品であり、主人公ミゲルが元監督であることと映画内映画の存在によって本作が「映画についての映画」であることも強調されている。

映像は滋味深く、作中の時間がゆったりと流れ、ミゲルが親友のフリオ探しを通じて過去と記憶をたどる旅のストーリーもゆっくり進行する。本編2時間49分は、心身に余裕がないとあるいは冗長に感じられるかもしれない。体調などを整えた状態で鑑賞していただければと思う。

フリオの持ち物の中に、「三段峡ホテル」と印字されたマッチがあり気になったが、検索したところザ・シネマメンバーズというサイトの「ビクトル・エリセの31年ぶりの長編映画『瞳をとじて』に仕掛けられたものとは」と題されたシネフィル的な充実ぶりの記事にエリセ監督と三段峡ホテルが実在する広島との関わりなどが紹介されていた。ほかにも本作をより深く味わう鍵になるトピックが解説されているので、興味のある方はぜひ記事の題で検索してご覧いただきたい。

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高森 郁哉

4.0長い旅路のようで、一瞬のまばたきにも感じられる重厚なドラマ

2024年2月9日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

エリセの初長編『ミツバチのささやき』に、とある映画が効果的に登場したの同じく、31年ぶりとなる今回の新作長編でハッとさせられるのはやはり映画内映画という構造だ。20年前、主演俳優の失踪によって未完のままとなったらしいその映画。主人公の映画監督ミゲルは今、かつての記憶や証言を手繰り寄せながら、親友でもあった俳優フリオの消息を探し求めるーーー。169分の凪いだ海をゆっくりと漕ぎゆくかのように美しく丹念に紡がれていく本作。長らく新作を発表していないミゲルの状況はどこかエリセ自身と重なる。そして過去のエリセ作品が時を経てもなお登場人物のまなざしを透き通るほどの純真さで投射し続けるように、未完成の映画もまた、20年後の彼らに訴えかける。おそらくエリセにとって映画とは、観る者が自らを投じることで深く結実していくもの。ふと私の脳裏に『ミツバチ』のアナが瞳を閉じて純粋に思いを捧げようとする姿が蘇ってきた。

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牛津厚信

3.5世界を閉ざすことでしか、生きられない

2024年10月2日
iPhoneアプリから投稿

私も若かりし頃『ミツバチのささやき』に心射抜かれた一人。
主人公アナの眼。心に刺さったままです。まさか新作をエリセ監督が撮られるとは。静かな驚き。期待して本作を観ました。

なんというか、心が苦しくなってしまう。
思えばこれまでの作品にもうっすら同様なものが流れていましたが...

繊細なのに、王様。
真に純粋なものにしか理解し得ない、そうでない者からは理解しようとされることすら拒んでいる、さらにそれが極まって現在に至る、とでも言いましょうか。

人間と人間が関わるということは、世界と世界が出会うということ。あるいは交わらず、永遠の境界線、自分という確固たるシェルターの中に入り込み、世界を守り通すか。

唯一、我が娘だけは世界と交われるかもしれない、一縷の希望。
でもそれを、本当に男は望んでいるのか?

戦争やら、社会で仕事をして稼いでいくことや、家族を持ち父親となることや、世に何かを生み出し功なり名を遂げることなど、息苦しいことの連続。

瞳を閉じて、世界を閉じて、私が私である場所に逃げ込んで、誰も侵せないところにいなければ、どうやって生きていけましょう。
愛が欲しいけれど、それは繋がりというしがらみや囚われも、必ず連れてくる。
瞳はこじ開けられ、世界には誰かが入ってきて、関わりは摩擦を生み、消耗し、悲しみや苦しみが生産される。

日本もかつて戦国の世から鎖国によって太平の世を得たように、一人の人間も一つの世界なら、閉じることでしか平穏は得られないのかもしれません。
日本はその後開国し、また戦争、原爆投下までの惨劇となりました。それでもアメリカや他国との関わりを必死で繋いでいる。それも生き抜く道です。

瞳を閉じて(失踪、記憶喪失)しか生きられなかった男・フリオ(ガルデル)と、閉じたくなりつつも必死で開けようともがく男・ミゲル。
真逆のようで、どちらも人間の姿。
そして監督自身が生きて感じてこられた、私たちに伝えたかったことなのかもしれない。

劇中劇の「悲しみの王」は死の間際、生き別れの娘に辛うじて再会し、震える声で唄いかけます。
可愛い娘よ、海に向かって身を投げないで。
娘も泣きながら唄います。
私も一緒に連れていって。私を愛から救うために。

わかりやすい言葉では伝わらないテーマを、いつも撮ろうとしている。映像で伝えようとしている。眼が伝える力。監督はそれを信じているのだと、この映画でも感じました。

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xmasrose3105