グレース

劇場公開日:

グレース

解説

息の詰まるような停滞感に覆われたロシア辺境を舞台に、移動映画館で日銭を稼ぐ父親と思春期の不安を抱える娘の日常を描いたロードムービー。

ロシア南西部の辺境で、乾いた風が吹きつけるコーカサスの険しい山道。無愛想な目をした16歳の少女とその父親である寡黙な男は、錆びた赤いキャンピングカーで旅を続けながら移動映画館で生計を立てている。母親の不在が父娘の関係に影を落とし、車内には重苦しい沈黙が漂う。やがて2人は世界の果てのような荒廃した海辺の町にたどり着き、娘は終わりの見えない放浪生活から抜け出そうとある行動に出る。

ドキュメンタリー出身の新鋭イリヤ・ポボロツキーが東欧の民話をモチーフに監督・脚本を手がけ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が本格化する直前の2021年秋に撮影を敢行。全編を通して陰鬱さの中に不思議な温かさを漂わせながら、ロシア辺境の大地と人々を独自の感性で描き出す。2023年・第76回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、同年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画となった。

2023年製作/119分/ロシア
原題または英題:Grace
配給:TWENTY FIRST CITY
劇場公開日:2024年10月19日

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映画レビュー

4.0【”落魄、そして娘の再生。”今作は、現代ロシアの辺境に住む人達の実情を描きながら、野外映画の上映を生業とする父と娘の姿を描いた閉塞感、荒涼感、寂寥感と微かな希望を描いたロードムービーの逸品である。】

2024年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

幸せ

<Caution!内容に触れています。>

ー 今作では主要登場人物の野外映画を上映する事を生業とする父と10代後半の少女が色合わせた赤いオンボロバンで、ロシアの辺境を延々と旅をする。
  二人の名前は、一度も劇中では語られず、男の妻は既に亡くなっており、旅を15年続けている事だけが語られる。
  名前などは必要ないという事だろう。
  それにしても、この映画が良く当局の規制に掛からずに、外国で上映されたモノだなあ、と思いながら、しみじみと鑑賞した作品である。ー

  舞台は、ほぼロシアの辺境である。この時代にワイファイもないので、二人が巡る村々では野外上映の映画が、楽しみらしい。序でに二人はポルノDVDなども、コッソリ売っている。
  冒頭、二人が訪れた村で、男の子達がバルカル語で、”都会に行きたいね。パリに行ってフランス語で話してみたいね。”と言っているが、二人の前には山々が広がっているだけで、どうもその夢は、叶いそうもない。

  父はインテリのようで、車内で本を読みふけり、途中で”野外本屋”から本も買っている。父と娘の関係性はあまり良くないようだが、娘は自分の仕事はしっかりとしている。

  一度だけ、二人は都会のショッピングモールに行く。ポルノをコピーするDVDを多数買い、娘は下着を買ってトイレで着替えている。だが、二人はモールの片隅にバンを停めている。ロシアの格差社会を描いているのかな、と少しだけ思う。

  或る村で上映会を開いた時に、一人の少年がスクリーンを張る手伝いをする。彼は娘に気があるようだが、娘には拒絶される。が、彼は日本製のバイクで付いてくるのである。

  二人から買ったポルノをコッソリと見ている少年達。だが、彼らはその姿を見つけられ、それを売った男と娘はバンで逃げ出すのである。

  或る村に行く途中、バンは警備の者に止められる。
  魚が感染したという理由で道が封鎖されている。男と娘はその湖の畔に立つ崩れかけた館に宿を取る。湖では防御服を着た男達が死んだ魚をアミで掬っている。
  宿の女主は、自分が住む館が昔は研究所だったというが、それ以上は語らない。そして、感染した魚を使ってスープを振舞う。
  そこに少年がやって来て、娘は少年と出かけ、その間際に父が運転するバンのフロントガラスに岩を投げつける。罅の入ったフロントガラス。
  二人はセックスをした後に、娘は少年の後ろ姿を、いつものようにポラロイドカメラに取り、再び父のバンの元に戻るのである。
  娘には父と違い、やらなければいけない事が有るのである。

 ■そして、娘は冒頭から”海に行きたい。”と言っていた念願の海で、(母のモノと思われる)骨壺の蓋をポイと捨てて、中の遺灰を海に撒いて、その場を後にするのである。
  このシーンのアングルの取り方がとても良い。最初は望遠で撮りながら、徐々に娘の顔を手持ちカメラでアップして映し出すのである。

<今作は、現代ロシアの辺境に住む人たちの実情を描きながら、野外映画を上映する事を生業とする父と娘の姿を描いた閉塞感、荒涼感、寂寥感溢れるロードムービーなのである。
 だが、その過程で娘は父とは違う道を見つけたように、私には見えたのである。
 そして、この映画が良く当局の規制に掛からずに、外国で上映されたモノだなあ、と思いながら、何だか、しみじみと鑑賞した作品である。>

<2024年12月22日 刈谷日劇にて観賞>

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NOBU

3.570点ぐらい。荒涼とした美しさ

2024年12月12日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

ロシアの映画、カンヌ国際映画祭に認められた作品、その情報だけで観ました。

皆さんタルコフスキーの名を出していらっしゃいますが、僕はアキ・カウリスマキを感じました。

悲観的な感じが(笑)

あと、ヴィム・ヴェンダース。

静かで淡々としてる感じが(笑)

ロードムービーという事で転々と旅をしていき様々な風景を観せてくれますが、どれもが全て美しくて楽しめました。

哀愁を帯びた夜の町、荒涼とした美しさ。

静かで暗いので眠くなりますけどね(笑)

僕は好きです(笑)

少しだけ日本への言及あり。

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RAIN DOG

4.5ロシアの辺境地に確固として存在した「生と性」

2024年11月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

今年のベストワン候補に滑り込んできた切ないほどの傑作。

ロシア南西部の辺境地。閉塞感、停滞感という言葉が相応しいか。移動映画館で日銭を稼ぐ父親と思春期の娘を描くロードムービー。

仮設のスクリーン、ドライブインシアターならぬ野っ原のシアター、チープな飲食物やPCでコピーした海賊盤ポルノDVDの販売。

荒廃した土地、先が見えない放浪生活。

何の希望もないはずなのに落ちきることがないのはなぜだろう。

そう、ここに確固とした「生と性」が在った。
もっと観ていたかった。
心から愛おしいと思った。

未だ美しい余韻の中にいる。

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エロくそチキン2

5.0いいね

2024年11月21日
iPhoneアプリから投稿

こういう映画を観たあとは、タバコを吸う真似をする

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ミスター