コラム:下から目線のハリウッド - 第47回

2025年2月4日更新

下から目線のハリウッド

役者の演技を助けて強くする!映画における「衣装」の重要性

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回は、あまり知られていないと思われる「衣装」の重要性について解説していきます!


三谷:まず衣装というのは、一大チームでできています。脚本を読み解き、物語の世界観に合った衣装のイメージを作り上げる「衣装デザイナー」。イメージから形づくっていく「スーパーバイザー」。あらゆるツテを辿って、中古の衣服や生地を調達する「バイヤー」など、多岐にわたります。

久保田:ひとつの映画で衣装チームって何人くらいいるもの?エンドロールを見ていると、役者ごとに衣装担当がついているじゃないですか。

三谷:個別の衣装さんがつくのは主役の数人くらいですね。

久保田:メインキャスト級だよね。

三谷:それ以外の役者については、衣装を着せる担当と、現場で衣装を直す担当が分かれていたりします。場合によっては、10人で200人のエキストラに衣装を着せていくということがあります。

久保田:めちゃめちゃ大変じゃん。わんこそばみたいだね。

三谷:そうなんです(笑)。そのひとりひとりに当時の時代や物語の世界観に合わせたものを用意しなきゃいけない。それは結構大変な作業ですよね。

久保田:大変だよね。

三谷:衣装の何がすごいって、演じている役の人物像を表現するんですよ。わかりやすい例として、「サイドウェイ」という映画の冒頭のシーンで、非常に押しに弱い男性の主人公は、青いシャツを着ているのですが、女性に告白するラストシーンでは赤いシャツを着ている。物語を通じて「積極的な男性に変わりました」という心理状態の変化を色で表現しているんですね。

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久保田:シャツの色だけで!

三谷:着ているシャツの色でキャラクターの個性や心理状態を引き立てることができる。衣装の世界は奥深くて、映画の世界観を作るのに欠かせない重要なものになります。

久保田:キャラクターの人物像や背景を、衣装さんやヘアメイクさんが表現するみたいな感じだね。で、それを委任されているのがデザイナーさん。

三谷:そうなんです。色以外にも、シャツのボタンを第一ボタンまで留めているのか?第二ボタンまで外しているのか?という違いだけでも人間の性格を表現して、キャラクターを出すことができるんです。高校生のとき、そういう制服の着こなし方なんか考えましたよね。

久保田:衣装によって映画の雰囲気って変わるよね。

三谷:そうなんです。僕らだと無意識であまり気づかないかもしれないですけど、細かく気が付く人にとっては、衣装というのは表現の幅がゆたかな世界なんですよね。

久保田:そうだよね。ちなみに、どの映画のジャンルが一番衣装にお金がかかるのかな?例えば、現代とSF。戦争物でも、近現代や古代とか、全然違うじゃないですか。

三谷:一般的には、SFや時代物は高くなってきますね。着物を作ったり、西洋のプリンセスみたいな感じになると大がかりになるので大変だと思います。逆に、鎧とか甲冑をたくさん用意しないといけない場合、お金はかかる一方、既製品をレンタルすることが多いので、よっぽどのことじゃない限りは、一から作ることは少ないかもしれないですね。

久保田:うんうん。

三谷:現代が舞台の物語だったら、衣装の重要さというのはあくまでそのキャラクターの表現だけにとどまるから、既製品である程度補えて、一から作るより衣装の予算がちょっと低くなったり。

久保田:やっぱり現実から今の世界から離れていけばいくほど高くなっていくんだね。

三谷:なので小林幸子さんの紅白衣装を映画で再現するとしたら衣装代は高くなると思います。

久保田:そんな映画ないだろ。あんなひとりタワーマンションみたいな。

三谷:(笑)。

久保田:これまで三谷氏が携わったもので、衣装さん大変だったろうなっていう映画はありますか?

三谷:そうですね、一番は「ゴースト・イン・ザ・シェル」かもしれないですね。光学迷彩スーツみたいなものを作ったり大変だったと思います。ジャンルはSFで、舞台は未来だからね。

久保田:大変だ。

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三谷:逆に「沈黙 サイレンス」は神父さんの衣装は割とシンプルだし、村人もそんなに派手でお金がかかるような衣装の作りではないから、そこまでかかってはいないと思います。

久保田:なるほどね。

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三谷:衣装の人ってあんまり気づかれないような場所にいるかもしれないですけれども、ものすごく大事な存在なんです。

久保田:予算があってもなくても大変だよね。

三谷:そうそう。予算があったらあったで、その枠組みの中で作らなくてはいけない。だから登場人物が身に着けている衣装は、必ず何かしらの意図をもって選択していることなので、映画を観るときに衣装に注目して観てみると面白いかも知れませんよ。

久保田:新しい観方だよね。それはそれで面白そう。


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#172 意外に大がかり⁉「衣装」の舞台ウラ)でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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