コラム:下から目線のハリウッド - 第41回

2024年2月29日更新

下から目線のハリウッド

元の意味とはちょっと違う!? 移り変わる「B級映画」のイメージを考える

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回は元々の「B級映画」の定義と、現代においての「B級映画」のニュアンスについて語っていきます!


三谷:今回は「B級映画」についてのお話なんですが。私も何となくでしか理解していなかったので、まず「B級映画」とは何かをネットの辞書で調べてみたんですが、大まかに言うと次のような感じです。

・アメリカで 1930年代から 40年代にかけて量産されていた映画で、2本立ての興行が主流であった当時,メインとなるA級映画に対し,二次的なポジションの添え物的な作品を指す。

・製作費や宣伝費をあまりかけない、出演俳優の知名度が低い、製作日数も短い、といった特徴が挙げられる。内容的にもなじみのあるジャンルから選んだ主題を焼き直ししたものが多い。

(※出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

久保田:けっこう古い時代からの話なんだ。

三谷:ちなみにアメリカでは、長編のことを「フィーチャーフィルム」という言い方をするんですが。

久保田:フィーチャーフィルム?

三谷:「〇〇をフィーチャーする」という言い方は日本でもなじみがあると思うんですが、映画が2本立てで上映されていた時代に、目玉の——つまり、フィーチャーされているメインの作品がA級映画。それに対して、メインではないけれど、一緒に上映していることで観られるものをB級映画というわけですね。

久保田:なるほどね。

三谷:今では2本映画を一緒に観るというスタイルも感覚もないと思うので、今言われている「B級映画」は、本来の定義とは違っているんでしょうね。

久保田:そうね。「1930年代から40年代にかけて量産されていた映画を指し」だとしたら、もうないもんね。

三谷:でも、今の「B級映画」って、「安い」とか「チープ」とかのイメージですよね。安っぽくて、海にサメとかが放たれていて人が喰われるみたいな。

久保田:「ジョーズ」じゃん(笑)。

三谷:あ、たしかに(笑)。でも、「ジョーズ」はB級映画とは言われないんですよね。ものすごく大ヒットをしましたし。たとえば、出てくる動物とかに、ぬいぐるみ感があるとB級映画な感じがするんですかね。

久保田:あー、ちょっとわかる。でも、ものすごく完成された重厚な映画じゃなくて、それこそちょっとチープな感じの映画を観たい気分のときもあるよね。

三谷:そうですね。個人的には、いわゆる今の時代に言われる「B級映画」って必要だと思うんですよね。

久保田:それは、つくる側としてってこと?

三谷:そうです。今となっては有名な監督が、じつはB級映画からキャリアをスタートしていることがあったりするんですよ。たとえば、「アバター」や「タイタニック」のジェームズ・キャメロン監督は、最初に自主製作映画をつくったあとの監督デビュー作品は、「殺人魚フライングキラー(原題:Piranha II Flying Killers)」という作品なんですね。

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久保田:観ていないから断言はできないけれど、「アバター」とか「タイタニック」のような厚みのある作品ではない感じはするね。そういう意味でいうと、経験としてはいいんだろうね。

三谷:いくら有望であるとはいえ、新人監督にいきなり大きな予算を割くわけにはいかないので、それほど予算をかけない作品として作られるという意味合いでは、製作側としてもアリなのではないかと。

久保田:たしかに。それできちんとしたものがつくれれば実績にもなるしね。

三谷:あとは、予算がない中で成立させなければいけない場合、ジャンルが特定されていくというのはありますね。なので、ホラー作品はB級ものが多い傾向があります。

久保田:なんでホラー系に多いの?

三谷:私がフィルムスクール時代に聞いたのは、「ホラーというのは必ず一定のオーディエンスが見込まれる」という話でした。ホラーには、ジャンル自体のファンがいて、ある程度の人が観に来るから回収の目処が立ちやすいし、クオリティがあまり高くないことに対する許容度も高い、ということらしいです

久保田:あー、なんかそういうイメージはあるね。

三谷:それこそB級感のある不自然な血の吹き出し方をしているような映画を観たいという、「逆」を突いても楽しめるジャンルではありますよね。

久保田:他にもB級的な映画でデビューしている監督さんっているの?

三谷:スティーブン・スピルバーグ監督の最初の長編映画の「激突!」という作品は、いわゆるテレビ向けに作られた低予算映画なんですけど、すごく面白いんですよね。

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久保田:ここに資料があるけど、製作費は4500万円。だから30万ドルくらいか。(※ドル円換算:2024年2月末現在)

三谷:その金額なら、映画の予算としてはかなり安い方だと思います。なので、偉大な監督が、いわゆるB級作品から出てきていたりすることも多いですね。

久保田:でも、ここまでなんとなくふんわりとしたニュアンスで使っちゃっているけど、じゃあ、今、世間で言われている「B級映画」ってどういう定義なんなんだろうね。映画じゃないけど「B級グルメ」とかも言ったりするじゃないですか。

三谷: B級グルメのグルメたち自身は「何でBって言われなきゃいけないんだ!」って思ってますよね、きっと(笑)。

久保田:日本ってわりと食が豊かだから、何か新しいカテゴライズを作ったり、注目を浴びる形にしないと埋もれちゃうっていう側面もあるとは思うんだけど。

三谷:なるほど。逆に「B級」と称することで目につきやすくなるわけですね。だったら「B級映画プロデューサーです」って名乗るのはどうなんですかね(笑)。

久保田:「B級映画プロデューサー」はチープな感じするね(笑)。しかも、それって「B級映画」のプロデューサーなのか、「B級」の映画プロデューサーなのかで、だいぶ変わってくるでしょ。

三谷:たしかに(笑)。

久保田:「B級映画」のプロデューサーやってますって言ったら、そういうジャンルとか世界観が得意なプロデューサーだってなりそうだけど、「B級」の映画プロデューサーですってなったら、「僕、仕事できません」って宣言してるような感じだよね(笑)。

三谷:そうですね。なので、ちょっと今定義が曖昧になっている「B級」なんですけれども、我々なりに定義を決めていこうじゃないかと。

久保田:明らかにぬいぐるみを使ってる、とか?

三谷:「動物にぬいぐるみを使う」は絶対Bの条件ですね。あと、私は「無意味に水着の美女がたくさん出てくる」っていうのもあると思うんですよね。

久保田:あと、「メイン級のキャストのうちの1人以上が棒読みの芝居をする」とか。

三谷:なるほど。棒読みのBなんですかね?

久保田:棒読みのB(笑)。

三谷:あとはさっきも触れた血の出方とかありますね。

久保田:あるかもしれない。不自然な吹き出し方。「そんな噴水みたいに出る!?」みたいなのとか。あとは、ストーリーはめちゃめちゃいいんだけど、セットとか演出とか楽曲がしょぼかったりすると、Bっぽさが出てきちゃうよね。

三谷:『ぬいぐるみ』『水着』『血の出方』『棒読み』『そこはかとないしょぼさ』。このあたりはマストでありそうですね。そういえば、「カメラを止めるな!」ってB級映画の空気感があるんですけれど、私は全然そんなことないと思うし、むしろ洗練されている優れた映画ですよね。

久保田:立て付けとしては、B級の立て付けになっている感じだよね。

三谷:たぶん、「カメラを止めるな!」の劇中で作っている映画は、B級映画なんですよ。でも、B級映画の裏側みたいなことも含めてつくられていて、ひとひねり効いているからこそ良い作品になっている気がしますよね。

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久保田:しかも、話の筋がすごく良くできているじゃないですか。だから、話の筋もそうだし、さっき言ったような要素が何個か以上重なると、「B級映画」になるんじゃない?

三谷:そうですね。たぶんそういう考察とか研究みたいなことをしている人もたくさんいるとは思うんですけど、いつかすっきりとした体系的な定義がつくれたら面白そうですね。


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#134 元の意味はちょっと違う!?「B級映画」ってナニ?)でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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