コラム:清水節のメディア・シンクタンク - 第8回

2014年7月25日更新

清水節のメディア・シンクタンク

第8回:「GODZILLA」VFX徹底解明! ギャレス監督“着ぐるみ愛”を激白!!

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満を持してゴジラが里帰りする。全米公開から約2ヵ月の間に、「GODZILLA」はさまざまなメディアに取り上げられてきた。ギャレス・エドワーズ監督は「ゴジラ」第1作を「広島や長崎で起きた出来事を念頭に置き、空想的な要素と深遠なテーマ性が両立したファンタジー映画」と捉え、その原点に立ち還った。「日本でヒットしなければ意味がない」とまでゴジラの母国を尊重する想いは、十分伝わっていると信じたい。当コラムの主旨はガジェット&ビハインドを扱うことにある。ここでは、筆者が伺ったVFX(視覚効果)を中心とするテクニカル面の話題について、ギャレス監督の言葉から“GODZILLA 2014”を掘り下げてみたい。6月6日の合同インタビューと7月11日に行ったメディア・シンクタンク単独インタビューを併せ、構成してお送りしよう。

■スタジオ首脳陣を説得するためにプレビズを制作

75年生まれの英国人ギャレスが、監督・脚本・撮影・VFXを1人で兼任した「モンスターズ/地球外生命体」の製作費は、約5000万円。たった1本しか長編劇場映画経験のない彼が、一気に推定製作費160億円の大作を任される上で、「プレビズ」は重要だった。それは、プレビジュアライゼーションの略称。撮影用の画コンテのみではイメージしにくい場面設計を、予めCGアニメーションによって具体化した仮映像のことだ。

「映画製作のGOサインが出る前の段階で、ゴジラがハワイに現れるシークエンスのプレビズを3カ月くらいかけて作りました。すでに制作会社レジェンダリー・ピクチャーズは映画制作に取りかかる方向で動いていましたが、スタジオ側(ワーナー・ブラザーズ)を説得し契約書にサインしてもらうために、プレビズが必要になったんです。『カサブランカ』の撮影で使用したスタジオを借りて壁面いっぱいに60以上のコンセプトアートを貼付け、ゴジラ映画の音楽を流し、コミコンでの発表の際も使用したオッペンハイマーの言葉も付けて、首脳陣にプレビズを見せ、僕がプレゼンテーションしました。失敗すれば、降ろされるかもしれない局面でしたね」

オッペンハイマーの言葉とは、“原爆の父”と呼ばれた彼が、ヒンズー教の経典から引用した「今や我は死神なり、世界を破壊する者なり」と懺悔するかのように語ったもの。ハイレベルかつエモーショナルな視覚効果を想起させるプレビズは製作者の心を揺り動かしたばかりか、主要キャストが出演を決断する上でも効果を発揮した。

■[サムライ×熊×鷲]VS[ロボット×ステルス]

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ローランド・エメリッヒ監督版が不評だった最大の原因は、その姿形だ。ギャレス率いるスタッフたちは、「もしゴジラが人間ならば最後のサムライであり、出来れば世の中のゴタゴタから離れていたいのに、やむなく再び表舞台に出てきた孤高の戦士」というコンセプトを立てた。その顔には「豊かな表情を引き出すべく犬や熊の顔を研究し、鷲の気高さも採り入れた」。では、敵対怪獣ムートーのデザインはどのように造形していったのか。

「ロボット的な形態という意味で、『ガンダム』は参考にしましたね。シャープさを求め、『AKIRA』も参考にさせてもらいました。直線的なデザインは、演出的な意味合いからも有効でした。自然界には存在しない生き物の形状であるため、観る者により違和感を与える。ステルス戦闘機の形状もベースにしました。電磁波をはね返すという意図だけでなく、核を運ぶというステルスの機能に、ムートーとの共通点を見出したりもしています」

■「LOTR」&「SW」、2大特撮マスター夢のコラボ

GODZILLA」のVFXスーパーバイザーは、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで3年連続アカデミー視覚効果賞を受賞したジム・ライジール。さらに「スター・ウォーズ」第1作の伝説的な特撮マン、ジョン・ダイクストラが援軍として加わった。VFXの巨匠たちを前にしてギャレスはどんな采配を行ったのだろう。

「2人に共通していたのは、とても穏やかな人柄だったこと。これほどの作品なので、スケジュールは押し気味になるわけです。90%ものショットが残っている頃、僕はあの方々に比べれば子供みたいなものですから、両親を仰ぎ見るような目つきで不安げに2人の顔を見たんです。すると、ジムとジョンは“大丈夫さ”“この程度なら普通だよ”という表情。彼らは正しかった。ギリギリ期日通りに上がりました。とはいえ、飛行機が最後のガソリン一滴で滑走路に入るような状態だったので、パイロットがよほど上手くないと着陸出来ませんでした」

>>次のページ:バンクーバーとロンドンのVFX工房へ発注 

筆者紹介

清水節のコラム

清水節(しみず・たかし)。1962年東京都生まれ。編集者・映画評論家・映画ジャーナリスト・クリエイティブディレクター。日藝映画学科中退後、映像制作会社や編プロ等を経て編集・文筆業。映画誌「PREMIERE」やSF映画誌「STARLOG」等で編集執筆。海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」日本上陸を働きかけ、DVD企画制作。著書に「いつかギラギラする日/角川春樹の映画革命」、新潮新書「スター・ウォーズ学」(共著) 。WOWOWのノンフィクション番組「撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画制作でギャラクシー賞、民放連賞最優秀賞、国際エミー賞受賞。

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