コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第60回
2018年6月27日更新
日本のピンク映画を紹介する「お尻映画祭」がパリで開催
パリで話題のお尻映画祭(Festival du Film de Fesses)なるものをご存知だろうか。わたしもうっかり見過ごしていたのだが、今年ですでに5周年を迎えるという。「お尻映画祭」とは直訳だが、要するにエロティックな作品、といってもポルノではなく、あくまでアーティスティックな観点から評価できる映画を紹介するもので、パリの名画座のメッカ、カルチェ・ラタンで6月28日から4日間にわたり開催される。
今年は日仏友好160周年のジャポニズムのイベントがパリで開催されることにかけて、この映画祭でも日本のエロスをテーマにした新旧の日本映画が紹介される。当初はジャポニズムのプログラムに組み込んでもらおうとしたそうだが、いささか刺激が強すぎて却下されたとか。
メインは神代辰巳のレトロスペクティブ。日活ロマンポルノがすでにあちこちで紹介されているフランスでは、神代はその代表的な監督のひとりとして映画通に馴染みがある。今回は初期の代表作「一条さゆり 濡れた欲情」(1972)、「恋人たちは濡れた」(1973)や「赫い髪の女」(1979)など計6本が選ばれた。
他にも松本俊夫のカルト作品「薔薇の葬列」や、緊縛の女王と言われた谷ナオミ主演の「花と蛇」(1974)、周防正行のピンク映画「変態家族 兄貴の嫁さん」(1983)、村上龍の「トパーズ」(1992)、園子温の「恋の罪」(2011)、日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクトの1本である塩田明彦の「風に濡れた女」(2016)、さらにフランス人監督、バンサン・ギルベールが緊縛師を追ったドキュメンタリー「牡丹のささやき」(2016)など、60年代から今日に至る、レアで多彩な作品が上映される。
ところで、いったいどんなきっかけでこんなディープな映画祭が生まれたのか、と思う方もいるのではないだろうか。じつは本映画祭の創設者は、アナスタジア・ラシュマンというフランス人女性だ。本業として映画会社に勤務する傍ら、業界に身を置く仲間たち(プロデューサー、配給会社社員、プログラマーら)と共に、その経験を生かしつつ、自分たちが楽しめるユニークで面白いイベントをやりたいという思いから発足したという。スタッフはみんな本業の傍らボランティアとして活動している。
なぜエロティック・ムービーだったのか、という問いにラシュマンさんは、「性はわたしたちの生活の一部であり、刺激かつ活力を与えてくれるものです。わたしたちはこうしたテーマの、興味深い作品をもっと紹介したいという思いから始めました。セレクションの基準はただひとつ、観る者のイマジネーションを掻き立てる、美しい作品であることです」と語る。
また日本映画のエロスについては、「『愛のコリーダ』に代表されるように、日本映画には優れた官能的な作品が多く、そのジャンルにおいて豊かな歴史があります。なかでも神代辰巳はエロスを表現する才能に長けた、ピンク映画の草分け的な存在。彼にとって性はあるがままに受け入れ、祝福すべきものでした。フェミニストで、性の解放者であり、女性のセクシュアリティの無尽蔵なバイタリティを飽くことなく描き続けました」と称賛する。
たしかに映画祭多しと言えども、これほどエロティックな映画に特化し、開けっぴろげにその官能性を称えようというものは、フランスにおいてもこれまで見当たらなかった。ラシュマンさんは、「刺激を、興奮を、ファンタズムを受けに来て欲しい。きっと思考の転換をはかれるはずです」と呼びかける。
これは足が向かずにはいられなさそうだ。(佐藤久理子)
▽Festival du Film de Fesses(https://www.lefff.fr)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato