コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第38回

2016年8月24日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

フランス人の好感度No.1セレブはオマール・シー ハリウッドでも成功の国民的スター

2014年に来日したオマール・シー
2014年に来日したオマール・シー

毎週日曜に発売されるフランスの全国紙、ル・ジャーナル・デュ・ディマンシュ が8月14日に掲載した記事によると、フランス人にとって好感度No.1のセレブリティはオマール・シーなのだそうだ。これは本紙が定期的に手掛ける15歳以上、1000人の人々を対象にしたアンケートの結果で、トップ50人のリストが発表された。2位は半年前のアンケートでトップだった作曲家、ジャン=ジャック・ゴールドマン、3位は政治家、作家のシモーヌ・べイユとなっている。

映画関係では他にどんな名前が挙っているかといえば、5位ジャン・レノ、7位ソフィー・マルソー、11位ガド・エルマレ、13位ダニー・ブーン、15位ジャン・デュジャルダンといったところ。6位には、今年のサッカー欧州選手権で活躍したアントワーヌ・グリーズマンが浮上した他、スポーツ選手、ミュージシャン、TV司会者、政治家など、各界の著名人が並んでいる。50人のなかにオランド大統領は見当たらないが、なんとニコラ・サルコジが48位。ちなみに、男女で結果は微妙に違っていて、男性の場合、1位J・J・ゴールドマン、2位オマール・シー、3位ジャン・レノで、女性はシーが1位、2位シモーヌ・べイユ、3位J・J・ゴールドマンとなっている。

出世作「最強のふたり」
出世作「最強のふたり」

世代分布ははっきり出ていないものの、全体の印象として保守的というか、比較的年齢層が高い人々が選んだのではないかと思われる、お馴染みの名前が並ぶ。ネットの書き込みでは、「やらせだ」「誰が選んだのか。とにかく自分の人選とは違う」といった否定的なコメントが目立つ。いずれにしろいま若者に人気のあるイットピープルよりは、お茶の間にポピュラーな往年の顔ぶれが多い。だが意外にもカトリーヌ・ドヌーブジャンヌ・モロージェラール・ドパルデューなどの名前は見当たらない。

こうしてみると、若手のシーはきわめて例外的な存在だ。彼がリストに入るようになったのは、フランスで大ヒットを記録した「最強のふたり」(2011)以降と言うが、誰からも好感を持たれるようなあの爽やかな笑顔とともに、移民の子で郊外の質素なエリアの出身であるにも関わらず、成功した後も変わらず地に足のついたイメージを保ち、4人の子供の父親として教育問題にも言及しているところなどが、老若男女の幅広い層から支持される理由と言えそうだ。

「ジュラシック・ワールド」にも出演
「ジュラシック・ワールド」にも出演

サンバ」、今年のフランス映画祭で披露された「ショコラ(仮題)」など、フランス映画界で順調なキャリアを築く一方、2012年からロスを拠点にしている彼はハリウッド進出にも意欲的で、外国人が与えられがちなステレオタイプの役柄を避けつつ、「X-MEN: フューチャー&パスト」「ジュラシック・ワールド」「二ツ星の料理人」など、バラエティに富んだ役柄に挑戦している。秋にはダン・ブラウンのベストセラー、「ダ・ヴィンチ・コード」「天使と悪魔」に続くシリーズ最新作、「インフェルノ」が公開予定。フランス人にとってはまさに、ハリウッドで成功している国民的スターの代表なのだ。今回の結果について彼は、「これこそ我らがフランスだ。今後もこうしたフランスの(多様性に富んだ)価値を擁護していかなければならない」と、コメントを寄せた。

果たして、わずか1000人が対象のアンケート結果をどれだけ大衆の声として受け止められるか、という問題はあるにしても、移民やテロの問題で揺れ動くいまのフランスで、シーのような著名人は国民に希望を与える存在であるのは間違いない。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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