コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第26回
2015年9月23日更新
フレンチ正統派イケメン俳優、ルイ・ガレルに注目!
最近の英国イケメン俳優の攻勢に比べて、いまいちポピュラーになりにくいのがフランスの男優たちだ。伝統的に、フランスはイケメンよりも味メン(?)のほうがモテるので(たとえばロマン・デュリスやバンサン・カッセルなど)、正統的なイケメンがあまり出てこない、ということはあるかもしれない。そんななか、久々にフレンチ正統派として推薦できるのが、ルネサンスの彫刻を思わせるような顔立ちのルイ・ガレルである。
祖父は俳優モーリス・ガレル、父はヌーベルバーグの後継者と言われたフィリップ・ガレル監督で、母は女優にして監督のブリジット・シィというサラブレッド。ベルナルド・ベルトルッチがヌーベルバーグにオマージュを捧げた「ドリーマーズ」に抜擢されて以来、フランス映画好きにはすでに馴染みの存在だ。数年前から父親の監督作や、クリストフ・オノレの作品で実績を積んできたが、ここにきて一層出演作が増え、ヴァレンティノのメンズ・フレグランス「ヴァレンティノ ウォモ」のモデルも担当するなど、多彩な活躍をみせている。インディペンデントからメジャーを行き来する、いわばイギリスならエディ・レッドメイン、アメリカだとアダム・ドライバーあたりの立ち位置と言えるだろうか。
まずご紹介したいのが、日本でも公開が決定した新作「サンローラン」である。ベルトラン・ボネロがデザイナー、イヴ・サンローラン(演じるのはギャスパー・ウリエル)のもっとも脂がのっていた30代の時期を描いた作品。ルイ・ガレルが扮するのは、そんなサンローランの愛人であった伝説の好事家、ジャック・ドゥ・バシェだ。貴族的な名前とは裏腹にミステリアスな素性の彼は、その美貌とインテリジェンスで社交界に出入りし、カール・ラガーフェルドとサンローランを虜にするものの、破滅的な放蕩生活の果てにエイズに倒れる。当時サンローランはすでにパートナーのピエール・ベルジェがいながら、バシェのデカダンな魅力にはまっていく。
そんな退廃的なキャラクターを、ルイはむせかえるようなフェロモンを立ちのぼらせながら体現する。これまでどちらかというと素に近いキャラクターが多かった彼だが、今回はみごとな豹変ぶりで、まるで毒牙を隠した豹のような危うい魅力をたたえる。その役作りについて彼はこう語る。「ジャックの素性を知る人はほとんどいなかったけれど、多くの人が陶酔するように語っていたのは、彼はつねにミステリアスな微笑を浮かべていたということ。それもどこか悲しげな。それこそが彼の本質を表す大事なポイントだと思ったから、そういった雰囲気を表現できるように工夫した」ちなみに本作の演技によって彼は、2015年のセザール賞助演男優賞にノミネートされた。
さらに最新の話題は、フランスで公開されたばかりの主演作にして長編監督デビューとなった「Les Deux Amis」だ。クリストフ・オノレとの共同脚本による本作は、パリを舞台に、ふたりの親友が同じ女性を好きになる三角関係を描いた恋愛ドラマ。「突然炎のごとく」に大きな影響を受けたというだけに、野外でのライブ感あふれるカメラワークを含め、ビビッドな躍動感が伝わってくる。激しくもメランコリックな作品である。「古典的なラブストーリーをクラシックに撮るのではなく、溌剌とした感覚で描きたかった。またどちらかというと男同士の友情にフォーカスしている。女性が絡んでくることによって、それがどんな影響を受けるのか、というところに興味があった」と、彼は語る。
共演は、「チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢」のゴルシフテ・ファラハニと、新作「メニルモンタン 2つの秋と3つの冬」が日本公開予定のバンサン・マケーニュ。プライベートでも近しいというマケーニュもまた、多彩な才能にあふれ現在飛ぶ鳥を落とす勢いの売れっ子だ。実際ふたりは、新世代のフランス映画界を代表する才能として、注目されている。
2016年にはマリオン・コティヤールと共演するニコール・ガルシアの新作も待機中だ。そろそろサラブレッドの肩書きも必要でなくなるに違いない。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato