コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第17回
2014年12月24日更新
2014年興行総括、フランス映画が上位3を独占
今年は洋画の当たり年と言われているが、フランスでも映画全体の興行は、昨年に比べ9.3パーセント伸びているそうだ(1月から11月までの統計を比べた国立映画、映像センターの調べによる)。そのうちフランス映画が占める割合は、昨年の33.4パーセントに引き換え、今年は43.4パーセントだという。これだけみると、フランス映画もかなり健闘した年と言える。実際今年のベスト10の上位3を独占したのは、「マレフィセント」でも「アメイジング・スパイダーマン2」でもなく、なんとフランス映画だ。もっともこれは1月から12月16日までの統計のため、秋以降に公開になった作品(たとえば10月8日ロードショーの「ゴーン・ガール」や11月5日の「インターステラー」など)にとってはハンディがある。
ではベスト3は何かといえば、3位がリュック・ベッソンの「LUCY/ルーシー」(520万1019人)、2位がダニー・ブーン、カド・メラドというフランスで人気のコメディアンが共演したどたばたコメディ「Supercondriaque」(526万8599人)、そしてダントツの1位がこれもコメディの「Qu’est-ce qu’on a fait au Bon Dieu?」(約1223万7274人)。こちらはカトリック教徒のブルジョワ夫妻の娘4人がそれぞれ、アラブ人、ユダヤ人、中国人、黒人と、すべて宗教の異なる相手と結婚することから持ち上がる騒動を、あえて偏見や先入観に満ちたセリフで風刺の効いたパロディに仕立てたもの。フランスの生活事情をよく知っている者が観ればたしかに笑えるところが多々あるものの、そうではなく、カトリックとも縁がなければあまりピンとこない。しかも映像的にはテレビ映画で十分というクオリティなだけに、国外でのヒットは難しいだろう。ちなみに10位以内のフランス映画はあと1本、エリック・トレダノとオリビエ・ナカシュ、コンビによる9位の「サンバ」(310万8650人)がある。
興行成績だけではなく、観客の満足度という点でリストを比較してみると、もう少し内情がよくわかる。フランス語の映画サイトの最大手であるallocine (http://www.allocine.fr/) に、観客投票による今年のベスト10が載っていたのでご紹介しよう。それによると、5位に輝いたビム・ベンダースが写真家セバスチャン・サルガドを描いた合作ドキュメンタリー(サルガドの息子と共同監督)を除くと、フランス映画は1本も入っていない。かたや日本映画は7位に「かぐや姫の物語」が入選。そしてベスト3は3位がアニメーションの「ヒックとドラゴン2」、2位が「インターステラー」、1位がカンヌ国際映画祭で審査員賞に輝いたグザビエ・ドランの「Mommy」。つまりフランスの観客にとっても、フランス映画はクオリティ的にいまいちだったということになるわけで、興収がよかったからと手放しで喜んでばかりもいられない状態なのだ。
年末年始にかけての公開作を見ると、これまたドメスティックなコメディやファミリー向けのアニメが多い。期待作はカンボジアを舞台にしたレジス・バルニエの3年ぶりの新作「Le temps des aveux」、ビゴ・モーテンセンを主演に迎えアルベール・カミュの原作を映画化した「Loin deds hommes」、「アーティスト」のジャン・デュジャルダンが暗殺された実在の司法官に扮する「La French」あたりか。ともあれ、来年は興行成績と中身が比例するような良作をもっと期待したい。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato