コラム:大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏 - 第7回
2014年6月17日更新
前回から、すでに半年が経ってしまった。これからはあまり書く間隔にとらわれず、興行面を中心にした映画の何らかの話題があったときに執筆していくことを編集部と確認したので、改めてよろしくと言いつつ、やはり今回は「アナと雪の女王」のメガヒットに触れざるをえない。聞き飽きたかもしれないが、今回はちょっと趣向を変え、映画興行史、及び映画宣伝史的な意味合いから記述を進めることにするので、少々目をとめてもらいたい。
さて、本作の興収は、この6月中旬の時点で230億円を超えた。この段階では、「タイタニック」(262億円)に届くかどうかは微妙ながら、“歴史的”な成績になったのは間違いない。実は私は、このとてつもない数字に、デジャブのような印象を抱いたのである。数字そのものにではない。昨年の宮崎駿監督の引退宣言の翌年に、この驚くべきメガヒットが生まれたことが、わがデジャブを呼び起こしたのだった。
閉塞感とメガヒット、デジャブのあの年
1997年のことだ。映画興行史的に見て、この年はとても重要な意味をもつのだが(詳しいことは説明する余裕がない)、その中心にあったのが「もののけ姫」のメガヒットだった。同年の同日公開で、夏の大本命だった「ロスト・ワールド ジュラシック・パーク」をあっさり打ち破り、「もののけ姫」は当時の歴代トップの興収を築いた。メガヒットの記念パーティのときだったか、壇上に立った徳間康快プロデューサーの言葉を、今も鮮明に覚えているのだ。
「これで、当分の間、『もののけ姫』を超える作品は出てこないだろう」。具体的な年月を言った気もするが、正確には覚えていない。要は、その数字を超えることは、短期間では不可能に近いといったニュアンスであったと思う。それが、翌年12月に公開された「タイタニック」によって、あっさり破られてしまったのである。
昨年、宮崎駿監督が引退宣言をしたとき、私はこう思った。これで、100億円を超えてくる邦画は、極端に減ってくるだろうと。邦画がそうなら、不振が続く洋画から100億円を突破する作品が生まれるのは、一段と難しくなる。私の頭になかには、「スター・ウォーズ」や「アバター」の新作もちらついたが、その2本からさえ、社会現象となるような突き抜けた興行の像は浮かばなかった。メガヒットの時代は過ぎ去るのか。
昨年のその予測めいた思いが、今年の「アナと雪」であっさり打ち破られた。その破られ方が、「もののけ姫」から翌年の「タイタニック」へとつながるさきの現象と酷似していた。デジャブの意味が、これである。大げさに言えば、歴史は繰り返すのだ、微妙な差異を挟みながら。