コラム:大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏 - 第7回

2014年6月17日更新

大高宏雄の映画カルテ 興行の表と裏
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古くて新しい?甦ったとも言える宣伝手法

その現象の初発に、まさに歌の存在があった。宣伝では、この歌が強烈にアピールされたことを指摘しておきたい。とくに4分近い“予告編”に、それが象徴的に現れた。普通の予告編は、当然映画の物語や映像の魅力がふんだんに取り入れられるが、「アナと雪」は違っていた。歌が全面的にプッシュされた。お姫様は登場するが、そこで展開される物語は隅に追いやられた。

さて、ここでも、わがデジャブが浮上したのだった。30年以上前の東宝東和の宣伝手法を思い出したからである。その手法の要諦をかいつまんでいえば、映画のなかの迫力映像を強力プッシュするやり方であった。「キャノンボール」なら、空中から落下するバイク。「クリフハンガー」なら、主役のスタローンらの落下シーン。

クリフハンガー
クリフハンガー

これに類した手法は他作品にも多々あったが、余談ながら、その手法が通用しなかったのが、大コケした「メガフォース」だったことを今改めて思い出す。それはともかく、東宝東和が周到に選別に選別を重ねたワンポイント映像が、広く関心をもつように伝達され、それが興行に大きな成果となって現れる時代が、かつてあったのである。

「アナと雪」の歌の強烈全面展開が、その手法に非常に似ていた。お姫様の歌と、それを生かす映像が映画館で広く伝播し、それはWEBなどでも大量に流れてさらに大きな情報の渦を作った。その渦の基本が、歌にあった。これが、東宝東和のかつての宣伝を呼び起こし、わがデジャブにつながったのである。何らかのワンポイント押しの情報発信で、とてつもない数の人々の関心をあおる宣伝手法が、今の時代に甦ったと言ったらいいだろうか。

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なぜ今「歌」だったのか

そのワンポイント押しが、映像そのものではなく、歌だった点は、今回非常に興味深い。確かに、映像では、その効力は発揮できなかったろう。CG技術が、映画の迫力映像の価値を大きく下げたのは周知の事実であり、それに伴い、映像の魅力を大きく打ち出す宣伝展開は、今の時代、かなり効力を失っていたからである。では、なぜ歌だったのか。

アナと雪の女王
アナと雪の女王

歌だってもちろん、この時代に効力を相当弱めていたのは言うまでもない。ましてや、「アナと雪」の歌は、基本的には近年人気薄の“洋楽”である。あらゆる階層、世代が口ずさむことができる国民的な歌が消えたこの時代に、歌の力が大きく甦ったのは、かなり異様な事態だったと言わざるをえない。

歌の分析は、専門家の方々の話が、すでにいくつか出ている。歌いやすさはじめ、それはいろいろあることだろう。ただここで一つ言っておきたいのは、歌は見えないものだということである。当たり前のことだが、この見えないことが、伝播力の“可能性”の幅として、非常にある気が私にはしている。見える映像ではなくて、見えない歌。見えない領域は、結局のところ具体性は皆無であり、把握しようがないのだ。人智が及ばないとも言える。だからこそ、その無尽蔵、無制限な領域には、人々の気持を強烈につかむこともありえる何物かが潜んでいるとも考えられる。

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未知なる領域へ、歴史は繰り返す

「アナと雪」のメガヒットから、私は今回、別のメディアで映画の可能性を言った。とともに、ここでは歌の可能性にも言及しないといけない。ここでの可能性とは、これまでのデータ、実績、経験などからでは全く判断できない“未知なる”領域へと越境する道筋を意味する。

映画と歌。この2つの領域にまたがる「アナと雪」の強靭な大衆訴求力のメカニズムの解明は、一筋縄ではいかない。ただ、映画の歴史、ここでは興行史と宣伝史に限定させてもらうなら、その絶えざる繰り返しのなかに、一つのヒントがあるのだと私は思っている。今回、本当に久しぶりに、スリリングな“映画体験”をさせてもらった。

筆者紹介

大高宏雄のコラム

大高宏雄(映画ジャーナリスト、文化通信社特別編集委員)。
1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、文化通信社に入社。現在に至る。1992年より日本映画プロフェッショナル大賞を主催。現在、キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。著書は「興行価値―商品としての映画論」(鹿砦社)、「仁義なき映画列伝」(鹿砦社)、「映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年」(愛育社)など多数。

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