コラム:佐藤久理子 パリは萌えているか - 第8回
2012年7月19日更新
欧州最大のオタク系見本市「ジャパン・エキスポ」が今年も大盛況
いまやヨーロッパ最大のオタク系見本市に成長し、アメリカのコミコンに匹敵するとまで言われているのが、毎年7月にパリ郊外で開催されるジャパン・エキスポだ。マンガ、アニメ、テレビ・ゲーム、コスプレ・ファッション、そして伝統芸能やスポーツなど、日本のカルチャーを扱ったイベントである。来場者は毎年増え続け、13回目を迎えた今年は4日間でほぼ20万人が集まった。一国の文化イベントにこれだけの人数が集まるというのもすごいが、その約80パーセントが25歳以下というのを聞けば、いかにフランスの若者に圧倒的な支持を受けているかがわかるというもの。
彼らにもっとも人気があるのは、やはりマンガとアニメだ。実際、会場に足を踏み入れると、いったいどこから集まったのかと思うほど、ふだんパリではほとんど見かけないコスプレ族を目にしてびっくりさせられる。否、フランス人ばかりではない。聞けばスペイン、イタリア、ドイツ、ベルギーなど各国からこのイベントを目当てに若者が集まっている。彼らはソーシャル・ネットワークを通じてコミュニティを形成し、こうしたイベントの機会に親睦を深め合う。お金のないティーンの場合は、地元の友達の家に泊めてもらうなど、親も公認の交遊になることもあるらしい。
今年はゲストに新海誠、浦沢直樹、作曲家の田中公平、Jロックとビジュアル系バンドを代表してFlowとDaizy Stripper、日本でも人気の歌手きゃりーぱみゅぱみゅら、多彩なメンツが揃った。また学園ものの映画、「ゴメンナサイ」や「行け!男子高校演劇部」などの上映、ゲストのサイン会も。サイン会に多くのファンが並ぶ様子は、まるで日本でのそれを見ているようだ。
新海誠はフランスで公開が決まった「星を追う子ども」が、同時期に開催された映画祭、パリシネマでもプレミア上映され、ティーチ・インをおこなった。前回のコラムでご紹介した細田守といい、最近はポスト・ジブリ世代の作品が続々とフランスに輸入されている。日本のアニメがすでにビジネスとして定着してきた証だろう。
ところで、ジャパン・エキスポではさまざまな日本企業がスタンドを設け、自社商品の宣伝・販売に務めるが、今年はちょっとした事件があった。8月に日本公開が予定されている竹清仁の「放課後ミットナイターズ」のプレミア上映に伴い、ブースに飾られていた主人公の体型を模した全身タイツが盗難にあったという。まだ現地で公開もされていない映画のグッズが盗まれるとは、さすがにマニアックなオタク・ファンというべきか(ファンの仕業だとすればだが)。ともあれ、彼らにとってはフィギュアやグッズはコレクター・アイテム。それらの収集も、エキスポを訪れる主な理由には違いない。昨年の統計では、平均ひとりにつき約2万円相当の買い物がなされたというから、日本企業が売り込みに躍起になるのも無理はない。
ちなみにこのジャパン・イベントだが、10月には「チビ・ジャパン・エキスポ」と称してミニ版がオルレアンで、11月にはベルギーのブリュッセルでも予定されている。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato