コラム:佐藤久理子 パリは萌えているか - 第16回

佐藤久理子 パリは萌えているか

「愛、アムール」、「君と歩く世界」など今年のセザール賞は日本公開作がずらり

今年38回目を迎えた、フランスのアカデミー賞と言われるセザール賞は、いつになく日本で見られる作品が並んだ。一昨年の「最強のふたり」のヒット以来、日本におけるフランス映画に対する興味が久々に尻上がりになっているのか、配給会社もシリアスで難しそうな題材の作品を思い切って購入しているようだ。たとえばミヒャエル・ハネケの「愛、アムール」と、4月に公開されるジャック・オディアールの「君と歩く世界」。どちらも決して明るいとは言えないが、見る者の胸を突くパワフルな作品の力と質の高さが、世界的にも観客を引きつけている。

「愛、アムール」
「愛、アムール」

実際「愛、アムール」は今回のセザールの主役だった。昨年のカンヌ映画祭のパルムドールに始まって、ヨーロッパ各地で興行的ヒットを収め、年末にはヨーロッパ映画賞ほか数々の賞を席巻した勢いを考えれば、当然の成り行きかもしれない。10部門ノミネート中、最多5冠(作品、監督、主演男優、主演女優、オリジナル脚本賞)を余裕で独占。続く4冠(脚色、音楽、編集、有望新人男優賞/マティアス・スーナーツ)を獲得したのが「君と歩く世界」。3冠(撮影、コスチューム、プロダクション・デザイン賞)が、こちらも日本で公開されたブノワ・ジャコーの「マリー・アントワネットに別れを告げて」だった。

とはいえ、今年もっとも多くノミネーションをされていた注目作は、じつはこの3作のどれでもない。フランスではベテラン女優兼監督としても人気のあるノエミ・ルボフスキーが監督、主演を果たした「Camille Redouble」というコメディが、13部門のノミネートでトップを走っていたのだ。結果的に無冠に終わったのは、コメディというハンディもあったのかもしれない。そういえば「最強のふたり」と「アーティスト」が一騎打ちの様相を呈した昨年のセザールでも、主演男優賞こそオマール・シーの手に渡ったものの(これは大番狂わせだった)、作品賞ほか6冠を「アーティスト」がさらった。

「君と歩く世界」
「君と歩く世界」

同じくセザールでは無冠に終わったものの、レオス・カラックスの「ホーリー・モーターズ」とフランソワ・オゾンの「Dans la maison」(こちらも日本公開予定あり)も、昨年フランスでヒットした話題作だった。オゾンは「しあわせの雨傘」で意気投合したファブリス・ルキーニと再タッグを組み、高校の文学の教師が優秀な生徒の執筆指導に肩入れをするあまり、人生を狂わせるほどの事態に陥る心理劇を、サスペンス・タッチで描く。不敵で謎めいた生徒に扮し、セザールで有望新人男優賞にノミネートされたエルンスト・ウモエは、日本でも人気を呼びそうな正統派二枚目である。不思議なことに、オゾンは毎年1本以上新作を撮っているような多作ぶりながら、まだセザールで賞を取ったことがない。よほど縁がないのだろうか。

ところでアカデミー賞と同様に、セザール賞の会員もまた映画業界のプロフェッショナルによって構成されている。それだけに、業界における人気度がノミネートや受賞に多少とも影響を及ぼしてくる。なにもオゾンが嫌われ者というわけではないが(人当たりがいいからそんなことはないだろう)、たとえばマチュー・カソビッツのようにふだんから攻撃的な発言をしている場合は、疎まれやすい。さらに2世俳優や有名人の子どもが優遇されるのも、よく見られる傾向だ。彼らはそもそもスタートからしていい役を掴めるがゆえに、注目度も高い。今年は有望新人女優賞に輝いた歌手のイジア・イジュランがそのパターン。名前から察せられるように、彼女は有名なシャンソン歌手、ジャック・イジュランの娘である。その主演映画「Mauvaise Fille」は、演じているというよりはむしろ地の魅力。それでも賞をさらったのは、親の七光りがまったくなかったとは言いきれない気もするのだ。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。