コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第271回
2016年5月17日更新
第271回:ピクサーで「ニモ」監督直撃!「ファインディング・ドリー」誕生までの道のり
「ファインディング・ドリー」の先行取材のために、ピクサーに行ってきた。これは「ファインディング・ニモ」の続編で、子供時代の記憶が蘇ったことがきっかけで、物忘れの激しいドリーが両親探しの旅に出るというストーリーだ。ピクサーといえば「トイ・ストーリー」や「カーズ」の続編をつぎつぎと生み出しているけれど、「ファインディング・ドリー」に関しては正直意外だった。前作でストーリーがきちんと完結しているし、すでに13年もの年月が経っているからだ。
映画が未完成のため、冒頭の30分ほどのフッテージを鑑賞させてもらったのちに、アンドリュー・スタントン監督に取材となった。
さっそく疑問をぶつけると、「実は、続編の計画はなかったんだ」とスタントン監督はあっさり認める。「『ニモ』は単独の映画で、ストーリーも完結しているからね」
その後、スタントン監督は「ウォーリー」や「ジョン・カーター」に取りかかったため、「ニモ」は完全に過去のものとなっていたという。
事態が変わったのは、2010年あたりのことだと監督は振り返る。「ニモ」の3D版を製作することが決まったため、久しぶりに映画を見直したのがきっかけだった。
「映画が終わってから、ドリーのことが心配でたまらなくなったんだ。もしも迷子になってしまったら、マーリンやニモといった新しい家族とも離ればなれになってしまうからね」
その後、ドリーを主人公にした続編の可能性を模索することになるが、いい映画になるという確信が持てるまでは、ピクサー内でも秘密にしていたそうだ。大ヒット映画「ニモ」に続編企画があると打ち明けてしまったら、親会社のディズニーが興奮して、またたく間に公開日まで決められてしまうリスクがあった。そのため、まずは腹心であるプロデューサーのリンジー・コリンズと話し合いを進め、アイデアがまとまってからジョン・ラセターに打ち明ける、というように、秘密裏に企画を進めていったそうだ。
ちなみに、前作は、スタントン監督の子育て経験が物語に反映されている(過保護なマーリンは、かつての監督がモデルだ)。今作は女性が主人公なので個人的な要素は盛り込まないように意識したという監督だが、それでも4年も製作に関わっているうちに、にじみ出てしまったという。
「最近の僕は中年になって、もはや自分の欠点を変えることができないと悟るようになった。だから、これまで恥ずかしいと思っていたことや、変えたいと思っていた部分を、好きになる努力をしなければいけないと気付いたんだ」
そんな監督の今の心境は、記憶障害を抱えたドリーのストーリーに反映されているという。映画の完成を楽しみに待ちたいと思う。
「ファインディング・ドリー」は、7月16日から全国で公開。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi