コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第200回
2012年10月4日更新
第200回:J・G=レビットの鑑識眼が光るSFクライムドラマの大傑作「LOOPER」
「LOOPER ルーパー」に対する僕の期待は、控え目に言ってもかなり高かった。SFのなかでもとくに好きなタイムトラベルものだし、「BRICK ブリック」のライアン・ジョンソン監督とジョセフ・ゴードン=レビットの再タッグ作だ。しかも、製作総指揮も務めているゴードン=レビットは、「50/50 フィフティ・フィフティ」で取材した際、かなりの自信作だと胸を張っていた。これだけ期待をあおられていたものだから、たとえ良く出来ていたとしても、がっかりさせられることになるんじゃないかと不安になっていたほどだ。でも、「LOOPER ルーパー」は僕の予想を超えた、SFクライムドラマの大傑作だったのだ。
映画を見る前は、そのタイトルから「恋はデジャブ」や「ミッション:8ミニッツ」のようなタイムループものだと思っていたけれど、実はちょっと違う。今回は、その刺激的な物語設定だけでもご紹介したいと思う。
ゴードン=レビット演じる主人公ジョーは、<ルーパー>と呼ばれる殺し屋だ。マフィアに指定された場所に赴き、ターゲットを殺し、死体をきれいに処分する。物語の舞台は2040年代だが、やっていることは現代と変わらない。唯一違うのは、ターゲットが未来から送られてくるという点だ。30年後、つまり2070年代の未来では、テクノロジーがあまりに発達しているために、誰にも気づかれずに人間を殺すことが不可能だという。そこで、マフィアは使用が禁じられているタイムマシンを私的に利用し、ターゲットを30年前の過去に送り、<ルーパー>に始末させているのだ。
これだけでも十分独創的な設定だが、脚本も執筆したライアン・ジョンソン監督はもうひとつツイストを加えている。タイムマシンを利用した手の込んだ殺人システムが外部に漏れないために、マフィアは冷酷な安全策を講じているのだ。<ルーパー>を務めた人間は、年を重ね、2070年代になるとターゲットとして過去に送られる。そして、若き日の自分によって始末される定めなのだ。つまり、<ルーパー>になったものは、30年後に自分自身によって殺されることを覚悟しなくてはならない。その代わり、ありあまる金が与えられ、太く短い人生をエンジョイできる。若い時期に年老いた自分を殺し、年を取ると若い頃の自分に殺されるというループのなかを生きているからこそ、彼らは<ルーパー>と呼ばれているのだ。
物語は青年ジョー(ゴードン=レビット)が、未来から送られてきた中年ジョー(ブルース・ウィリス)と対面したとき、転がり出す。中年ジョーは青年ジョーの銃弾を素直に食らうどころか、逃走を開始。かくして、現代の自分と未来の自分との対決が開始する――。
設定が独創的なら、ストーリー展開もサプライズに満ちている。物語も規模もぜんぜん違うけれど、SF的仕掛けのなかで描かれる知的なクライムアクションという点において、クリストファー・ノーラン監督の「インセプション」を思い出させてくれた。
それにしても、ゴードン=レビットの鑑識眼はたいしたものだ。
「LOOPER ルーパー」は、2013年1月12日に全国で公開。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi