コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第198回

2012年9月20日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第198回:クリント・イーストウッドの4年ぶり銀幕復帰作「人生の特等席」とは?

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グラン・トリノ」以来となるクリント・イーストウッド主演映画「人生の特等席」を見た。この作品でイーストウッドが演じるのは昔気質の頑固な野球のスカウトマンで、これまでたくさんの名選手を見いだしてきたベテランだ。しかし、最近では視力の衰えに加えて、球団がデータ重視の方針を打ち出したため、クビになりかけている。そんな彼の最後のスカウトの旅に、疎遠になっている一人娘(エイミー・アダムス)が同行することになる、というハートウォーミングなストーリーだ。

メガホンを握るのは、これまでイーストウッド作品をプロデューサーや助監督として長年支えてきたロバート・ローレンツであり、これが監督デビュー作となる。取材の席では、イーストウッド監督との関係や、この作品への思いなどを丁寧に語ってくれたけれど、彼が返答に詰まった質問がひとつあった。

「どうしてハリウッドのスポーツ映画は野球ばかりなのですか?」

同席したヨーロッパの記者の質問に、ローレンツ監督は考えこんでしまった。

言われてみれば、たしかにこの記者の言うとおりだ。野球はアメリカでは依然として人気スポーツのひとつであるけれど、世界的にはマイナーである。ハリウッドはアメリカ国外の興行収入への依存を強めているから、ビジネス的に考えれば、アメリカ国外の観客によりアピールするスポーツを題材にすべきだ。あいにく世界でもっとも人気のあるサッカーはアメリカではマイナーだし、アメフトは野球と同様アメリカ的すぎるけれど、たとえばバスケットボールやアイスホッケー、あるいはゴルフやテニスならば、アメリカと世界の両方の観客にアピールできる。

それでも、ハリウッドが生産するスポーツ映画のなかでは、野球を題材としたものが圧倒的に多い。僕はとくに野球好きというわけではないけれど、「がんばれ!ベアーズ」や「エイトメン・アウト」、あるいは、ケビン・コスナーの「さよならゲーム」や「フィールド・オブ・ドリームス」など、好きな野球映画はたくさんある。

おそらく野球がアメリカ史に深く根ざしていることや、断続的なスポーツなので編集しやすいことに加えて、親子のキャッチボールが心の交流を意味するなど、人生のメタファーとして描きやすいことが要因なのではないかと思う。実際、この映画の原題「Trouble with the Curve」のCurveは、変化球の「カーブ」と「思いがけない展開」のふたつをかけている。直訳風に邦題をつけるなら、「変化球に対応できなくて」なんて感じになるのかな。

物語のなかで、イーストウッド演じる老スカウトは、肩を壊した元ピッチャー(ジャスティン・ティンバーレイク)にスカウティングの手解きを行うことになる。ふたりの関係は、イーストウッド監督とローレンツ監督の師弟関係を連想させてくれて、いろんな意味で楽しめる作品だった。
 「人生の特等席」は、11月23日から全国で公開。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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