コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第138回

2011年6月15日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第138回:J・J・エイブラムスの「スーパーエイト」は期待以上の傑作!

※一部ネタバレの箇所がございます。

高校野球で注目した球児が、やがて球界を代表する名選手に成長したら、いち早くその才能を見抜いた野球ファンはきっと誇らしい気分になるに違いない。ぼくがJ・J・エイブラムスというクリエイターに対して抱いている感情は、たぶんそれに近いんじゃないかと思う。

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J・Jが企画・製作総指揮を手がけた初ドラマ「フェリシティの青春」(1998-02)の放送時はスルーしていたので、自分が最初に発見したなどと言うつもりは毛頭ない。でも、彼が脚本・演出を手がけた「エイリアス」(2001-06)の第1話を見たとき、そのあまりの面白さにぶっとんだことを覚えている。テレビドラマゆえに、スケールではハリウッド大作に敵わないけれど、ストーリーの完成度の高さであきらかに圧倒していた。だから、J・Jが「LOST」の大成功やトム・クルーズスピルバーグと出会いを経て、ようやくハリウッドで思い通りの作品が作れるようになったことを、自分のことのように嬉しく思っている。

J・Jが手がけるストーリーは、冒頭で不可思議な事象を起こして、観客をぐいぐい引っ張っていく“ミステリーボックス”手法で知られている。でも、ぼくはJ・Jのほんとうの才能は、ものすごい仕掛けを用意しながらも、キャラクター描写を決して疎かにしないことだと思っている。そんな彼のこだわりは、スピルバーグ作品のなかでも「ジョーズ」がベストだと公言していることからも明らかだ。

監督第3作「SUPER 8 スーパーエイト」は、1979年を舞台に、ゾンビ映画を撮っていた少年たちがたまたま列車事故を目撃したことから、壮大な事件に巻き込まれていくというストーリーだ。宣伝ではおそらくSFミステリーの要素ばかりが強調されていると思うけれど、実際は、母親の死という悲劇を経験した少年が、壮大な事件に直面して、立ち直っていくプロセスのほうに重点が置かれている。先月の取材の際、J・J自身も言っていたけれど、物語の冒頭で、少年を取り巻く4つの人間関係が壊れている。田舎町を巻き込む壮大なミステリーを展開させつつ、複数の人間関係が修復されていくプロセスをきちんと描いているのだ。

「スーパーエイト」は、おそらくこれまでエイブラムスが手がけたなかで、もっともパーソナルな作品だ。「M:i:III」も「スター・トレック」も独自色を存分に発揮していたけれど、いずれもシリーズもののため限界があった。初のオリジナルとなる「スーパーエイト」を手がけるにあたり、J・Jはクリエイターとしてのルーツである自らの少年時代を舞台に選んだ。かつてJ・Jも、劇中の少年たちのように8ミリカメラを握って自主映画作りに夢中になっていた。当時の彼が憧れたのは、70年代後半から80年代前半にかけてのハリウッド映画であり、なかでもスピルバーグ映画は別格だった。そんな少年時代の想い出をそのまま形にしたのが、「スーパーエイト」なのだ。

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嬉しかったのは「未知との遭遇」や「E.T.」など、かつてのスピルバーグ作品がもっていたキラキラした魔法を再現してくれたことだ。懐かしのアンブリンのロゴで始まるオープニングから引きこまれ、本編中もスピルバーグ作品に夢中になって子供の頃の記憶がつぎつぎ蘇り、胸が熱くなった。

エンドクレジットもいい。劇中で少年たちが撮っていたゾンビ映画がクレジットとともに披露される仕掛けになっているのだ。同作に出演した子役6名が自分たちで作ったという8ミリ映画は、はっきり言って稚拙だ。でも、かつてのJ・Jやスピルバーグも同等の8ミリ映画を撮っていたのだと想像すると、とたんに愛おしく感じるから不思議だ。

J・Jファンのぼくだから、「スーパーエイト」に対する期待値はかなり高かったけれど、まさか、自分が愛するものがこれほど詰まった作品だとは予想していなかった。

なお、肝心のJ・J・エイブラムス取材は、今月発売のCUTにロングインタビューが掲載されるのでよろしく。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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